笠屋の幸せな女房におさまっているお富が、掏摸時代のことを黙っている代わりと、百両をゆすられる。
せっぱつまったお富は、鼻の頭に小豆大のつけぼくろをつけて人相を変え、王子権現、浅草寺、根津権現、上野広小路、市谷八幡、芝神明……などの境内や門前の盛り場で、むかしの技を復活させた。
掏摸逮捕は、火盗改メの職分ではない。が、実母の生家・巣鴨村の三沢家の当主・仙右衛門の話から事情を察した鬼平は、ゆすった七五三造をはじめ掏摸の〔狐火〕一家を捕縛。
それで一件落着となればなんのこともなかったのだが、ひとたび目ざめたお富の指は、心とは逆に勝手に動きはじめていた。
そこから、盗賊追捕劇とはひと味異なった人情劇へ。

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