左内坂を上り、市ヶ谷八幡の北門から境内へ入った。
 ここも江戸で名高い場所で、八幡宮の参詣と歓楽とが何の矛盾もなしに同居していることは、根津権現と同様で、門前町の岡場所は山の手でも有名だ。


『鬼平犯科帳』への市ヶ谷八幡の登場は5話。うち2話は、鬼平なじみの境内料理茶屋〔万屋〕が舞台。『江戸名所図会』にも台上に料理茶屋が描かれている。ちなみに、『剣客商売』第4話の[井関道場・四天王]から引用すると、

 市ヶ谷八幡宮・境内にある料理茶屋〔万屋〕は、このあたりでもきこえた店で、総門をくぐって一の鳥居から胸を突くよう な石段をのぼり、二の鳥居のわきから右へ入った拝殿の崖下に、 深い木立にかこまれた構えも大きく、庭づたいの離れが三つほどある。

市ヶ谷八幡宮(『江戸名所図会』) 

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