同心筆頭・酒井祐助について




2003年10月26日(日)  15:18

酒井祐助が同心筆頭と書かれたのは……

発信:千葉の辻売り屋さん

ときどき掲載される管理者どのの「1日1話」は、どんな史料によるのか、『鬼平犯科帳』に書かれていない秘話が多く、鬼平ファンにはたまらない読み物ですが、 6月28日付の「同心・酒井祐助」について、疑念がありますのでご教示いただけましょうか?
前記「1日1話」によると、酒井祐助は 164話中83話に登場しているそうですが、肩書きが同心筆頭と書かれたのは文庫巻 9[浅草・鳥越橋]p186からです。
それ以前も同心筆頭と思っておいてよろしいでしょうか。


管理者:西尾からのレス

なるほど、巻 9[浅草・鳥越橋]p186 新装p194 では
同心筆頭となっていますね。
文庫巻12[密偵たちの宴]p171 新装180p180でも同心筆頭とあります。
人事異動や昇進があったことは、それまでどこにも書かれていませんから、ぼくたちファンちとしては物語の当初から同心筆頭だったとおもっておいてよろしいのでは。
それより、文庫巻 5[鈍牛]p276新装p290 に、

「酒井。来年は、ぜひとも女房をもらうのだな」
「は……いや、これは……」
「年老った母ごも案じているそうではないか」


とありますから、酒井祐助は独身ですね。ところが、文庫巻 1[本所・桜屋敷]p71 新装p76には、

そのお順……。
役宅内の長屋に住む同心・酒井祐助の妻から〔もらい 乳〕をし、平蔵
夫婦が育てている。


酒井同心、ファンとしては独身、妻帯のどっちであった方がよろしいでしょう?



2003年06月28日(土) 08:42

鬼平の教訓:同心・酒井祐助

発信:管理者・西尾からの1日1話

 長谷川組の正規の編成は与力10人、同心30人。一騎当千はいいすぎとしても、盗賊に対して一騎当十ぐらいの実力はもっていた。そう、 400人ぐらいの盗賊なら相手にできたと。
 池波さんも似たようなかんがえだったらしい。『鬼平犯科帳』全篇中、長谷川組が捕らえたり斬って捨てた盗人は 500人前後……とかぞえあげた仁もいる。
 老中首座・松平定信側の隠密の厳秘リポートに、長谷川組の与力・同心は「まえまえから火盗改メをつとめてきており、その仕事ぶりで名を知られている者が多いし、功績もこの上ない者たち」としぶしぶながら認めた。
 『鬼平犯科帳』の同心のなかで「この上ない者たち」といえば筆頭の酒井祐介、一刀流の免許皆伝の沢田小平次、亡妻のことを忘れない組きっての美男の小柳安五郎、そして「この上ない」のは道化役としての木村忠吾あたりが登場率が高い。
 それぞれが1話以上で主役をふられている……といいたいところだが、酒井祐助だけは別。 164話中83話(登場率51パーセント)に名前がでるのに一度も主役を演じていない。不思議だ。
 不思議といえば、年齢もはっきりとは明かされない。木村忠吾は寛政3年(1791)に24歳で初登場。沢田小平次は[兇賊]のとき26歳(忠吾の3歳上)、小柳安五郎は[血頭の丹兵衛]で27歳(沢田小平次より2歳年長)。
 しかるに酒井同心は[血頭の……]に柳剛流の免許もちとあるだけ、家族のことはさっぱり。独身とわかるのも3年半後の第36話[鈍牛(のろうし)]で。以後も妻帯した気配はない(第1話[唖の十蔵]で、鬼平が養女にすることにした幼女お順がもらい乳したのが酒井の妻女……とあるのは?)。
 しかし第13話[密偵(いぬ)]では、底冷えのなかを張り込みをしている平蔵へ温めた酒と煮しめを入れた岡持ちを配慮、平蔵が山田同心に「酒井を見習えよ」という。
 [鈍牛]でも、放火犯を挙げた同僚が見込みちがいをしているのではないかと平蔵へ進言。当時、放火犯の誤認逮捕がわかると、火盗改メの長官は罷免になるどころか閉門さえ命じられかねない失態だった。それはそうだろう、放火犯は捕まると火あぶりの極刑だから、捜査側も相応の責めをおうのが道理。
 いつも冷静で遠謀深慮、統率力もあり、気くばりも十分な酒井祐助は、ミニ中間管理職としてはほとんど満点がつけられる。なのになぜ池波さんは彼に主役をふった物語を書かなかったか、推理してみた。
 酒井同心は欠点がなさすぎる。短所のない人間なんていっこない。ダメ部分がかえって愛嬌になっていることもある。部下をもったら短所の矯正につとめはする。が、隠しはしない。むしろ下の者へは「自分はこういうマイナス点がもっている。君たちも欠点を認めた上で行動するように」と短所を男の磨き砂とすることもできる。
 その2。彼は文庫巻16[網虫のお吉]で、一片の辞令もなしで同心筆頭の地位についている。が、その職分をきめかねているうちに、物語のほうが先へすすんでしまった。





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