鬼平犯科帳　彩色　江戸名所図解

[No.169]�姫宮恵子さんのテレビ観想�From:西尾　忠久�
2004/09/08(wed) 21:54:37

古い友人の姫宮さんには、版を重ねて好評の著書『みんなテレビのおかげです』（梁塵文庫）があります。なにせ、自筆プロフィールに、「19??年　テレビと共に生まれる。埼玉県・クキ幼・クキ小・クキ中・クキ高卒。都内の大新聞社に入社。以来転居３回、テレビ３台目で現在に至る」と書くほどの、テレビづかり。若い（？）女性の目で吉右衛門＝鬼平ビデオを見てのテレビ観想（感想にあらず）を連載をお願いしました。

テレビどっぷりぶりには抱腹絶倒。

[No.169]�姫宮恵子のテレビ観想　その１�From:姫宮恵子
2004/09/11(sat) 19:04:28

第１シリーズ　第１話
［暗剣白梅香］

清濁あわせのむ大きな度量を持った人。私の理想の殿方にめぐり会ってしまった。
その方のお名は長谷川平蔵どの。
ベッカムさまもヨンさまもいいけれど、やっぱり日本人よねぇ。男の中の男、鬼平さまよね。歌舞伎座にはなんどか足を運んでいるが、中村吉右衛門丈の舞台は観たことがない。なので最初から吉右衛門の鬼平さまが私の中ではとっても自然に息づいている。着流し姿も、盗賊改メの正装もすべて様になっいる。カッコイイったらありゃしない。
金子半四郎の近藤正臣は、その総身に２０年間、仇を見つけられずにいる悲壮感がただよう。片肌脱いだ真紅の肌襦袢姿で白梅香を体に塗りこめるさまは、その妖艶さにゾクッとさせられる。なんで香を塗りこめるのかの問いに「血の匂いを消すためよ」なんざ、しびれるね。やたらにローションを振りかけた当世の若者たちには逆立ちしたって吐けない台詞だろう。

[No.169]�　その２�From:姫宮恵子
2004/09/11(sat) 19:06:40

第１シリーズ　第２話
［本所・桜屋敷］

「桜の樹の下には死体がある」と言ったのは誰だったか。
本所・桜屋敷の桜の下には初恋のほろ苦い思い出が眠っているのだろうか。鬼平さんの剣友岸井左馬之介が、現在はバラエティー番組で「酒癖が悪い」などとさんざんに言われている江守徹だったのには驚いた。しかし、さすがに名優、青年の淡い初恋を思いきれない切なさと、思った人のさま変わりした姿を見てしまったときのかなしい目が印象的。
それにつけても、おふさの萬田久子の美しさはどうよ。清楚な武家娘。一幅の絵のような、川を渡る船上の白無垢姿。そして圧巻は流転の果て、お白州での横座りをした流し目。あの流し目は、女性の私でも吸い込まれそうな色気があった。やはり元ミスユニバース日本代表は伊達じゃない。鬼平さんも左馬之助同様、さぞ切なかったことだろう。二人でちょっとしめっぽい花見酒でも呑んだのだろうか。アッ、江守徹の左馬之介は荒れただろうなぁ。

[No.169]�　その３�From:姫宮恵子�
2004/09/11(sat) 19:09:07

第１シリーズ　第３話
［蛇（くちなわ）の眼］

目は口ほどにものを言い。
鬼平さん、蕎麦屋でぐうぜん居あわせた、蛇（くちなわ）の平十郎の目を見ただけで、盗賊と見破ってしまうのだからすごい。私の目を見たら、いったいなんとおっしゃるやら……「そなた俺に惚れておるな」なんて言われちゃうのだろうか。石橋蓮司の平十郎が「鬼平のしたり顔に泥をぬってやりたい」とか「お上が俺たちウジ虫を作ったんだ」と、うそぶくときのド・アップはまさに蛇（くちなわ）の眼そのもの、金しばりにする凄さ。最近では缶コーヒーのＣＭで、頼りない上司を演じているが、この人に冷徹な悪人をやらせたらピタリとはまる。
それにつけても鬼平さんはほんとうに賢い。平十郎の手下が見張っている目の前を、堂々と一万両の金子も屋敷の人たちも運び出し、連れ出してしまうのだから。それと気づかずに押し込んだ盗賊たちへかけた言葉が痛快。
「無駄足させて、すまなかったな」

[No.169]�　その４�From:姫宮恵子
2004/09/12(sun) 03:26:27

第１シリーズ　第４話
［血頭の丹兵衛］

世の中変わっているんだよ人の心も変わるのさぁ～
ひとむかし前の流行歌のように、丹兵衛の心情も大きく変わってしまったのね。蟹江敬三を見ると、名取裕子とのかけあい漫才のような『月曜ミステリー劇場』、添乗員の女房に逃げられた“須藤ちゃん”を思い浮かべてしまう。
破門はされても心酔していた丹兵衛お頭への濡れぎぬをぬぐうため走りまわる蟹江粂八は、眼光するどく必死さが伝わってくる。粂八のおもいは丹兵衛に裏切られてしまったが、鬼平さんの信頼を得ることができたのだから、走り回った甲斐が大ありだ。丹兵衛事件も落着し、峠の茶屋でいっぷくする鬼平さんと粂八の前に現れたのは大御所・島田正吾演ずる〔蓑火〕の喜之助。もう島田正吾翁の独り舞台ですね。演技とは思えません。子どもに返ったような翁がいたずらを自慢しているような、なんとも自然で可愛らしくて。鬼平さんも吉右衛門さんにもどって微笑んでいるように見える。

[No.169]�　その５�From:姫野　恵子�
2004/09/13(mon) 11:41:19

第１シリーズ　第５話
［血闘］

そぼ降る雨の中、紫の蛇の目傘で顔を半分かくして、いよいよ、おまささん登場。
“黒くてぱっちりした双眸におちょぼ口”原作そのまんまの梶芽衣子おまさ。
『鬼平犯科帳』のヒロインは、鬼平さんには申しわけないけれど奥方さまではなく、なんといっても、おまささん。怨み節のサソリも、寺内貫太郎さんチの影のある長女もよかったけれど、梶芽衣子は、やっぱり、おまささん。小またの切れ上がったっていうのは、あの姿をいうのだと、やっと納得できました。悪党に陵辱されても笑顔で「お役に立ててよかったです」と、健気なおまさにうなずきながら、鬼平さんの目に涙が浮かんでいましたね。他人の痛みが分かってこその長官（おかしら）さま。あんな上司の下ならば、私だって就業時間中に私用メールなど打たずに（アッ、内緒ヨ）骨身惜しまず働くのだけどねぇ。

[No.189]�　その６�From:姫宮恵子�
2004/09/15(wed) 14:28:19

第１シリーズ　第６話
［むっつり十蔵］

悪妻は一生の不作とか。
浮気者の亭主を絞め殺したおふじに同情し、いつしか情を通じてしまった同心・小野十蔵。これって、いつも文字どおりの冷や飯を食べさせたり、なにかにつけ持参金の話を持ち出しては小馬鹿にしたような態度をとる女房のせい？　でも、そんな女房にしむけてしまったのには十蔵にもやはり一端の責任が……。う～む、夫婦はむずかしい。
鬼平さんにも、今回はむずかしい采配だった。「むっつり十蔵」とあだ名されるほど目立たない男に、たまには手柄を立てさせてやりたいという長官としての思いやりだったのだが、もくろみどおりには行かなかった。いま人気の漫談家ギター侍なら決めぜりふ「残念。切腹！」も笑えるが、十蔵の場合はなんとも哀しい。殿方を生かすも殺すも、おんな次第。鬼平さんの生きいきとした活動の源、久栄夫人のあたたかい微笑みに鬼平ファンの私としては感謝しなくては。

[No.189]�　その７�From:姫宮恵子�
2004/09/15(wed) 14:43:37

第１シリーズ　第７話
［明神の次郎吉］

あぁ、五鉄の軍鶏鍋が食べたぁい――そんな風に思わせるガッツ石松演ずる、明神の次郎吉の見事な食べっぷりだった。それこそガッツ、ガッツとね。
年齢を越えて心を許した友、宗円坊の最後を看取り、遺品を届けてくれた明神の次郎吉は善人を絵に描いたようなたぬき顔。左馬之助が友情を感じ、待ちつづけたのも無理はない。すべてわかっていながら左馬之助を傷つけまいと憎まれ口をきく鬼平さん隠しごとがないのが友情の証しなんておもっている人、酸いも甘いもかみ分けたおとなの男は違うのよ。
そんな鬼平さんが、久栄夫人が手づくりの白玉を大事そうに食べている姿も乙なものだ。これも食べてはみたいけれど、左馬之助のように「食え、食え」と鬼平さんにせっつかれたら、あわてて喉につまらせてしまいそうだ。

[No.189]�　その８�From:姫宮恵子�
2004/09/17(fri) 10:58:51

第１シリーズ　第８話
［さむらい松五郎］

世の中には自分とそっくりな人が三人はいるというけれど。
同心の山口平吉（小説では木村忠吾）、人違いされたのが自分とは対極の盗賊だったのには、さぞ驚いたことだろう。同心と盗賊の二役に挑戦した八十助さん（現・三津五郎）、山口平吉のときのコミカルな小芝居をしてみせているようすと、松五郎本人のときの、ごくごく自然体とではまったくの別人を演じて見せる。
さすがは、「ヨッ、やまとや」しっかし、おんなは馬鹿にできませんね。盗賊の峰蔵だけじゃなく、仲間の同心たちまで「そっくりだ、見分けがつかない」と言っているのに場末のおんなのお蝶は、山口平吉にちょっと触れただけで「松五郎さんじゃない」って見抜いてしまうのだから。
鬼平さん、もしご自分そっくりの盗賊が現れたなら、どんなお顔をなさるやら。小説どおりに木村忠吾で映画化されたときの、尾美としのりのあわてぶりともども、見てみたい。

[No.189]　その９�From:姫宮恵子�
2004/09/20(mon) 16:23:01

第１シリーズ　第９話
［兇賊］

九平とっつぁんの芋なますを、久栄どのは口にすることができたのだろうか。
おいしそうに、なにかを食べている殿方の姿を見るのは好もしいものだ。その上、自分が気に入った味覚を「女房の土産につつんでくれ」なんて。
鬼平さん、女性からの高感度、ますます上昇。仕事ができたって、女房子どもをないがしろにするような男性に魅力を感じやしません。
ところがどうよ、鬼平さん、毎日命がけのお勤めのなのに、女房どのの生けた花にまで目を向ける。これが人間の幅というものか。そんな鬼平さんだから、長年ひとり働きで、裏の世界をわたってきた九平とっつあんを、たった一夜の酒場の客になっただけで魅了してしまう。
兇賊の悪だくみをご注進し、「命を救ってくれてありがとよ」と声をかけてもらった九平とっつあん、ひょこひょこと、鬼平さんの後ろを歩く。米倉斉加年は、いったい何歳で演じていたのだろう、その歩き方まで老爺のそれにしか見えないから見事だ。峠を行く鬼平さんの背中を、周りの山や川より大きく暖かいと、
九平とっつぁんは思う。もちろん私だって、まったくもって同意見ですよ。

[No.189]　その10�From:姫宮　恵子�
2004/09/23(thu) 08:32:08

第１シリーズ　第10話
［一本眉］

すっかり、老盗賊の甚五郎に気に入られてしまった鬼平さん。
二人でひと晩呑みあかし、盗みの手伝いを頼まれたうえに、五両の手付金まで渡されたときは、いったいどんな気分だったのか。役宅で落ち着かない夜をすごしている奥方さまは、まさか鬼平さんが盗っ人と仲よく酒を酌み交わしているなどとは夢にも思わない。心の中は不安でいっぱいなのに、同心たちの前では笑って見せる。やはりできた女房どのです。鬼平さんの湯呑み茶碗をそっと胸にだく場面など、こちらの胸がジーンときましたよ。
「盗みはすれども非道はせず」――そんな甚五郎の手下だった佐喜蔵は甚五郎の元を離れ残虐な強盗に成りさがっていた。錠前破りの技だけでなく、外してはいけない人の道も教えこんだはずなのに。さぞや甚五郎さん情けないおもいだっただろう。
それにつけても渋い芦田伸介さんが、題名どおりに繋がった一本眉で登場したには驚きましたね。日本版『グリンチ』かいって……。アッ、こっちの方が先ですね。

[No.252]�姫宮恵子のテレビ観想　その11�From:姫宮　恵子
�2004/09/29(wed) 18:12:13

第１シリーズ　第11話
［狐火］

おまささん、たったひと月だったけど愛する人といっしょに居られてよかったねぇ。
盗っ人仲間の掟で十年前に泣く泣く別れた勇五郎が、二代目狐火の頭（かしら）になっていた。しかも十七人もの人を惨殺をした押し込みの嫌疑がかけられていたのだ。「そんなはずはございません」。
鬼平さんや同心たちのいる場で、ふだんと違っておまさが叫ぶ。別れても好きな人、歌の文句じゃないけれどたとえ別れて十年たっても、おまさは勇五郎を信じていた。結局は勇五郎の弟の仕業とわかり、嫌疑は晴れる。おまさは、かたぎになると約束した勇五郎と共に京へ向かう。
鬼平さんが「二度と盗みはせんという証文を置いていけ」と言ったかとおもうと、勇五郎の腕の筋を切り裂いたのには背筋が冷えた。それが、鬼平さんの真の温情。おまさを娘のように、ずっと気にかけていた彦十とっつぁんの涙にむせぶ姿が印象的だった。京都でせっかく仏具屋の女将におさまっていたのに勇五郎に病死されたおまさが、戻ってもよいものかと訊き、「へぇ、おいらを捨てて行ったくせに」と、拗ねたふりを見せる鬼平さんのキュートだったこと。
でも、「おまえも男運が悪いなぁ」には、私自身が言われたような気がしたものです。

[No.252]�　その12�From:姫宮　恵子�
2004/09/29(wed) 18:13:04

第１シリーズ　第12話
［兇剣］

久しぶりにお父上の墓参をかねて京都見物にでかけた鬼平さん。
けれども、鬼平さんの行くところ事件がつきまとい、とても物見遊山とはいきません。「助けてください」と飛びこんで来た町娘。裏には得体の知れないなにかがひかえていそうだ。その正体は、名うての凶悪犯丹兵衛だった。「渡る世間は鬼ばかり」では五人姉妹の父親の、藤岡琢也が眼光鋭く百八十度違う顔を見せている。柔和な印象の目じりもまったくさがらない。あんな強面では、〔おかくら〕には客も寄りつかないことだろう。
さて忠吾は、京で世話になった与力、浦辺に気に入られ、その長女との縁が結ばれそうな気配。高揚した気持ちの表れか、なかなか頼もしく見える。
それにしても、さすがに舞台の脚本を書かれていた池波正太郎先生。原作に出てくる会話が、そのまま台詞になっている場面が随所に見られる。
『声に出して読みたい日本語』とい本が話題になったが『鬼平犯科帳』も、声に出して読んでみると鬼平さんの魅力がますます迫ってくる気がするがどうか。

[No.252]�　13�From:姫宮　恵子�
2004/10/02(sat) 04:11:06

第１シリーズ　第13話
［笹やのお熊］

北林谷栄のお熊婆さん、そりゃぁそりゃぁチャーミング。
同心・沢田小平次をすっかり気に入り、鬼平さんの、「沢田、今夜からここに泊まれ」の言葉に照れてみせたり。いくつになっても若い殿御がお好きなようで。
ところで沢田小平次の真田健一郎さん、あまり表面には出ない役柄だが、長官の指揮のもと盗賊一味に踏み込む場面では、毎回流れるように美しい殺陣を見せてくれる。長年、舞台で培った技の見せどころだ。お熊と彦十は、軍鶏の喧嘩のように毒舌を交わしあいながらも鬼平さんのお役に立てることが嬉しくてたまらない。
「生きることに飽きちゃったよぉ」などと言っていたお熊だが、顔に精彩がもどって来た。
鬼平さん、年寄りにも覇気を与えることのできる人だ。さて、私も喜寿の母に覇気を与えるため、大いに働かせてあげましょうか。

[[No.252]�　その14 �From:姫宮　恵子�
2004/10/05(tue) 17:42:47

第１シリーズ　第14話
［あきれた奴］

『鬼平犯科帳』版“走れメロス”（？）岡村同心は、自分が捕らえた盗人の又八を牢から逃がす。
岡村は又八が女房とわが子に会ったのち、自分を見捨てて逃げた相棒を捜しだして戻ってくる、という賭けにでたのだ。岡村は口をつぐんで牢に入れられたままでいるのだが、鬼平さんには胸のうちがすべてお見とおし。
だから同心たちがかげで岡村への処遇の不満をささやいていてもまったく動じない。「半年はようすを見ようと思っていた」というちょうど半年後、又八が相棒だった紋三郎を桶に入れて戻ってくる。
鬼平さんのように、あれだけ肝が座っていて、なおかつ先の予測が的確にできる上司がいたら、どこの職場も予算つくりで半年ごとにアタフタすることもないだろうに。同心の岡村を演じた当時の中村橋之助丈、勘九郎さんの次男七之助さんにそっくり。さすがは叔父甥だと感心。

[No.252]�　その15�From:姫宮　恵子
2004/10/06(wed) 01:39:55

第１シリーズ　第15話
［泥鰌の和助始末］

物を盗んじゃいけません。お巡りさんに捕まりますヨ。
けれど今回ばかりは、和助さんのお盗めが鬼平さんに見つからないように応援したくなってしまいましたよ。
真面目に、八年間も紙問屋に奉公した磯太郎。そこへ、勘当されていた馬鹿息子が戻ってきて磯太郎をいじめぬく。とうとう、磯太郎は罠にはまって自殺してしまう。実の親とは名乗らず、磯太郎を見守っていた和助さん。どれだけ悔しかったことだろう。昔の仲間から誘いをうけても断っていた盗み働きを自分から申し出、磯太郎の奉公していた紙問屋に押し入る。
「今度だけはおれの指示に従ってもらう」と、有無をいわせぬ財津一郎の和助。「キビシー？！」と、耳を引っ張りながら頭の先から声を出していた人と同一人物とは到底思えないほどの凄みがあった。憎い敵の店から盗み取った証文を船の上で破り捨てるシーンには、鼻の中がツーンとしました。
鬼平さんも、やむにやまれなかった和助の心情はお見とおし。
だけど、それを口にするような野暮じゃない。大工の和助にピッタリの宿題を出して、和助の眸に輝きを取り戻させる。鬼平さんの心ある裁きに見ているこちらも感謝です。

[No.286]�　その16�From:姫宮恵子
�2004/10/13(wed) 13:21:53

第１シリーズ　第16話
［盗法秘伝］

所用で浜松にでかけた鬼平さん、お供の忠吾とも別れ、ゆるゆると一人旅のはずだったのだが。盗人の善八にすっかり気に入られてつきまとわれた上に、「わしの目に狂いはねぇ。おまえさんほど、この稼業にはまる人は見たことはない。肝は座っているわ人柄はぴったりだわ」とまで惚れこまれたら、鬼平さん一体どんな思いでいたのだろう。しかも目の前に現れた役人は、善八から、「うすっ汚くて、げすで、けちで、肩ばっかりいからして案山子でもあるめぇし」とまで言われる賄賂漬けの悪役人。このときばかりは「金は他人を苦しめてあこぎなまねをして図々しく世渡りをしてる奴からしか盗まない」という信念の善八の方に、好意を持ってしまったのではないだろうか。
フランキー堺演ずる善八の伝法な物言いが、落語を聞いているように小気味よい。黒い手ぬぐいのほおっ被りをして大店に押し込み、善八を真似てヒョコヒョコと歩くさま、床下から首を出したり引っ込めたり今回の鬼平さん、まるでドリフターズのコントを見ているようで楽しかった。
案外、吉右衛門さんご自身も面白がって演じられていたのかも知れない。

[No.286]�　その17 �From:姫宮　恵子
�2004/10/13(wed) 13:51:44

第１シリーズ　第17話
［女掏摸（めんびき）お富

ドラマ『北の国から』で、草太兄ちゃんが誰かからいわれた「病気は病院で治療すれば治るけど、お前の馬鹿はクセだから治らない」というセリフを、ついつい思い出してしまった。
盗賊の家に育ち、自分も掏摸（すり）に手を染めていたお富。いまは、笠屋の女房に納まり平穏な毎日をおくっていた。それが昔の仲間にゆすられ、家庭を守るためには財布を掏摸しか方法を知らなかった。約束の百両を掏摸とり（やっと、もとの暮らしに戻れる。もう二度とやってはいけない）、心が叫ぶのに、お富はそれからも憑かれたように次つぎと財布を掏摸る。身に染みついた掏摸の“技”は、クセと同じ。もう止めることはできないのだろうか。
「おめぇが悪いんじゃねぇ。おめぇをかりたてる、その二本の指が悪いんだ」。メスよりよ鋭く指の筋を切り裂く鬼平さんの一刀。
まさに、病根を取り去る外科の手術と同時に精神科医まで兼ねる名医の、こちらは人を幸せに導く“技”だ。鬼平さん、私の馬鹿も診てくれませんかねぇ。

[No.286]�　その18�From:姫宮　恵子
�2004/10/13(wed) 13:58:04

第１シリーズ　第18話
［浅草御厩河岸］

亭主が元盗賊で、いままた錠前破りをしようとしていると舅に教えられたらどうしよう。
ひとり身の私には想像するしかできないが、お梶が荷物をまとめて出て行こうとした気持ちは、分かる気がする。
松吉の「おまえの思い違いだよ。ないしょにしていたが、お上の仕事をしてるんだ」という言葉を信じ「馬鹿だね、私は」と小躍りしておでこを叩くお梶さん。一時のことではあったけどさぞほっとしたことでしょう。
それにつけても〔海老坂〕の与兵衛、「盗人ながらに仁義にあつい。敵ながらあっぱれな男」と同心筆頭酒井にいわせるだけのことはある。火盗改めが踏みこんだとき、抜け穴を作っていたのに、巻きこんでしまった松吉は逃がすが、自分は一歩も動かない。「海老坂の与兵衛、お縄をつかまつりまする」。岩井半四郎丈の与兵衛には品と重厚さがにじみ出る。
鬼平さんもその泰然とした態度には、酒井と同じく敵ながらあっぱれと感じたのではないだろうか。鬼平さんのお目こぼしで逃げのびることのできた松吉。おとっつあんを乗せた大八車を郷里にむけて引いて行く。
後ろで押すお梶の腕にも自然に力が入ろうというものだ。

[No.286]� 　その19 �From:姫宮　恵子
�2004/10/13(wed) 13:59:10

第１シリーズ　第19話
［むかしの男］

鬼平さんの留守中に、奥方さまの一大事。
むかし、久栄をおもちゃにして捨てた男、近藤忠四郎は旗本の息子ながら盗賊の用心棒になり下がっていた。忠四郎に呼び出しをうけた久栄は、一人で指定の場所へおもむく。そこで、むかしのことを持ち出し、入牢されている盗賊を逃がすようにとの脅しをかけてくる忠四郎を見すえ、「馬鹿なことを」と言いすてて立ち去る。
ここのところ、女性へのほめ言葉で“おっとこまえ”という言い回しがはやっている。ひとことで言うなら、カッコイイと同じかな。いつもは物静かな女性らしい女性だが、このときと誘拐され養女を助けるため、一人で盗賊達に立ち向かう際の久栄さんにぴったりの言葉。甲斐から帰って様子を見に行く鬼平さんにも、忠四郎は昔のことを持ち出して悪態をつく。「それがどうした」歯牙にもかけずに鬼平さん、「心底惚れなきゃ女の本当の値打ちはわからねぇ」「命がけで惚れたのは久栄ただ一人だ」なんて。久栄さんでなくても泣きますよ。
奥方さまには怒られそうだけど、益々鬼平さんに惚れてしまった私です。

[No.286]� 　20�From:姫宮　恵子
�2004/10/13(wed) 14:00:53

第１シリーズ　第20話
［山吹屋お勝］

老いの一徹？　老いらくの恋？
今回ばかりは鬼平さん、従兄弟の仙石衛門からコソコソと逃げ回るしかなかったようで。仙石衛門がぜひとも嫁にしたいと見そめた茶屋の女お勝は盗賊の一味だった。鬼平さんは、お勝のちょっとした仕草であやしいと見ぬくが〔巣鴨長者〕といわれるご隠居の仙石衛門には、とても見ぬけるものではない。
おっちょこちょいの木村忠吾にはやされて鼻の下の伸びること、伸びること。忠吾の下で働く利八は、むかしお勝と情を通じた仲だった。忠吾が役人を呼びにいっている間に、一人でお勝を助けるために賊の中へ飛び込む。無茶ですよそれは。
いくら元ウルトラマンの森次浩嗣さんだって、時代劇では変身なし、無ですからね。それにしても、別れても消えることのないお勝への思いを静かにうちに秘めた利八と「お勝、お勝」と駄々っ子のように大騒ぎの仙石衛門人生いろいろ、殿方の愛情表現もいろいろですね。

[No.340]�姫宮恵子のテレビ観想　その21�From:姫宮　恵子
�2004/11/04(thu) 16:19:00

第１シリーズ　第21話
［敵］

とっくに足を洗っていた大滝の五郎蔵だったが、むかしの手下の苦境を救うために、ふたたび盗みをしようと江戸に向かう。
たまたま出会った岸井左馬之助、五郎蔵をくさいとにらみ、門前の小僧よろしく探りを入れてみるのだが、「実を申すと、実を申すとと嘘ばっかり」と看破されてしまう。左馬之助さん、まだまだ修行が足りませんねぇ。
それでも左馬之助は鬼平さんの役に立ちたくてたまらない。無理もないですね、おそばにいたら鬼平さんに魅了されないはずはありませんもの。
だから、この度捕まった舟形の宗平も、「その苦労人なお人柄にすっかり惚れ込んでしまったよぉ」と密偵になることを快諾する。はじめはためらっていた五郎蔵も、「俺の手伝いをしてくれ」鬼平さんのこの言葉に決断をする。
やはり、これですよ。自分が相手の立場まで降りて行き「頼んだぜ」という態度。ふんぞり返って部下をアゴで使っているような上司にぜひとも見せて、見習ってもらいたいもの。

[No.340]　その22 �From:姫宮　恵子
�2004/11/04(thu) 16:34:42

第22話（第１シリーズ）
［金太郎そば］

片肌脱いで、みごとな金太郎の彫りものを見せながら、大繁盛のそば屋を切り盛りするお竹。そんなお竹は孤児だった昔、拾われた家が倒産したり、そこの息子におもちゃにされて捨てられたりと、苦労を重ねてきた。
お竹が店を持てたのは、茶屋にいた時に出会った、一晩だけの優しい客のお蔭だった。その客が、盗賊〔藁馬〕の重兵衛だということをお竹は知るよしもない。久栄さん、鬼平さんから重兵衛とお竹の関わりを聞きながら、ついと立ち去ろうとしてしまう。
「それから先のお話を聞くのが、つろうございます」同じです。苦労つづきのお竹が、神さまか仏さまの化身とあがめている重兵衛の正体を知るようなことになったら、見ている私もつろうございます。
でも、そこは鬼平さん。久栄さんと私（？）の思いをくみ取ってくれました。重兵衛は鬼平さんの説得に、お竹に姿を見せることなく静かに捕らえられて行く。お竹をそばで支えつづけた由松も戻ってきてくれた。それを見とどけ、去って行く鬼平さん。
雪の夜なのに、その背中は大きく暖かく見えましたねぇ。

[No.340]�　その23�From:姫宮　恵子
�2004/11/04(thu) 16:36:22

［用心棒］（第１シリーズ　23）
能あるタカは爪を隠す。

けれども、スズメがタカのふりをしてはいけません。
無精ひげを生やし肩をいからせ、強そうに見せてはいるが、大店の用心棒をしている軍兵衛は剣術がまったくの苦手。そのことが盗賊の引き込みをしている文六にばれ、一味のいうことをきかされる破目になってしまう。困りはてた軍兵衛は、事実を知った奉公人のおたみとともに、五鉄へ浪人木村を訪ねる。もちろんこの浪人は鬼平さんの仮の姿。能あるタカの元へ、スズメが救いをもとめにきたようなものだ。懐に飛びこんできた者へは庇護の手ををおしまない鬼平さん。軍兵衛が用心棒を勤める店へ押しこんできた馬越の仁兵衛一味を退治し、すべてを軍兵衛の手柄にしてやる。店の主人や周りの人たちからすっかり持ち上げられて軍兵衛は、さぞ座りが悪かったことだろう。
鬼平さんにさとされた軍兵衛は、人が変わったように剣術にはげみはじめる。
軍兵衛さん、よい人に巡りあいましたね。しっかり者のおたまさんを、めとることもできたし。せいぜい頑張って、将来は鬼平さんの力になってもらいたいもの。

[No.340]�　その24�From:姫宮　恵子�
2004/11/04(thu) 16:37:13

第24話（第１シリーズ）
［引き込み女］

引き込み女の身でありながら、その店の主人と情を通じてしまったら、これから先どうしたらよいのだろう。
いまどきのオンナのコなら「わぁい略奪愛、玉の輿よ」などと、はしゃぐところかも知れないが、お元は自分の身の上と菱屋の主人・佐兵衛の間で苦悩する。お元に相談され、悩みぬくおまさ。原作では、「どうしたら、お前さんのためにいいのか、ちっとも……ちっともわからないんだよ」と寡黙だったが、画面では雄弁だ。
「お元さん、お逃げ、だんなと一緒に逃げるんだよ。命がけの駆け落ちになるだろうけど、幸せをつかむためならいいじゃないか」妹のようにかわいいお元に、おまさは足を抜かせてやりたいのだ。
もちろん、それは密偵にあってはならないことなのだが。お元が独りで江戸を離れたことを告げるおまさに、鬼平さんはすべてを呑みこみ聞かなかったふり。「同心たちに、よぉくお礼を言いなよ」のひと言。これですよ。おまささんの畏敬のまなざし。私は鷲づかみされたように胸キュンですよ。同心たちも後日、長官のますますの大きさを知るというものだ。

[No.340]　その25�From:姫宮　恵子�
2004/11/04(thu) 16:38:35

第25話（第１シリーズ）
［雨の湯豆腐］

竹細工の職の人時次郎は、裏で金を積まれての殺し屋稼業をしていた。
むかし、盗賊の親方の一人娘お照を愛したが仲間に邪魔され、お照にも裏切られた。それからは、一人長屋で烏と世捨て人のような暮らし、頼まれれば何の感慨もなく殺しをつづけていたのだった。お照の黒田福美――最近は弁護士役やレポーターなど、理知的な部分が前面に出てきているが、それゆえ高ビーなおんなを演じさせたらぴたりとはまる。
ある日、時次郎が受けた殺しの相手は、なんとお照だった。殺すつもりで逢ったのに愛おしさがよみがえってしまい、時次郎は駆け落ちしようとお照を誘う。お照が自分を殺し屋になどとは思いもせずに。時次郎役の清水健太郎の目が、場面場面で切なげに、狂おしげに、その心情を訴えかけてくる。それは鬼気迫るほどだった。
でも哀しいねぇ。いま画面を通して見ると、どうしても（尋常じゃないのかもしれない）と思ってしまう。どんなにいい演技をしていても（すでに蝕まれていたのかな）と、勘ぐってしまう。やはり、なにがあってもお天道さまの下をまっとうに歩いていかなきゃいけません。鬼平さんも、きっとそうおっしゃるに違いない。

[No.488]�　その26�From:姫宮　恵子�
2004/12/15(wed) 11:05:32

第１シリーズ　第26話
［流星］（スペシャル版）

鬼の平蔵、本当の鬼になる。
平蔵に恨みをもつ、大阪の仙右衛門がおくりこんだ刺客により同心・小柳の女房、同心・木下、門番と次々に平蔵にまつわる者たちが惨殺された。そして隙をついての押し込み。平蔵は自身を傷つけられるより深い苦しみを胸に、寝ずの見廻りをつづける。
そんな平蔵の身を案じ、粂八以下密偵たちは静かに夜の見張りをしていた。「昼の見張りの為に体を休めておけ」と叱咤はするものの、平蔵の胸に熱いものがこみ上げてくる。この主従の関係、こちらもジーンとくるところですね。
馬上からいきなり切りかかってきた刺客の沖を捕らえた平蔵。その詮議の際の形相はまさに鬼そのものだ。口を割らせ、先回りして逃げのびようとした賊を退治する際、同心・小柳に女房の仇を討たせる。どう見ても腕は仇の方が上。
それでも小柳役の香川照之、いつもの押さえた演技とはうって変わり、目を渇ッと見開いて必死に食い下がり、女房の仇を討つことができた。賊の中には粂八のむかしなじみで、今は足を洗っている船頭の友五郎が混じっていた。亡きお頭の忘れ形見を誘拐され、むりやり引きずり込まれていたのだ。逃げずにひれ伏す友五郎に鬼平さん、「なんで逃げなかったんだい」と問いかける。
その空には星が瞬き流星がひとつ。原作の流星登場の場面とは違っていたが惨殺された人たちへの鎮魂だろうか。

[No.488]�　その27�From:姫宮　恵子�
2004/12/15(wed) 13:07:48

第27話（第２シリーズ）
［殿さま栄五郎］

鬼平さん、一世一代の大芝居。
凶悪な盗賊火間虫の虎次郎が手下を一度に２人も失った。一人ばたらきの盗っ人を探すはずだとにらんだ鬼平さん。自ら実在の盗っ人〔殿さま栄五郎〕になりすまし、盗賊達のまっただ中へと入っていく。
「腕の立つ浪人。しかも殿様と呼ばれるだけの風格がある」といわれている〔殿さま栄五郎〕なら、鬼平さんはそのままで充分にこなせる。現に目の前にした虎次郎も、その手下たちも、鬼平さんを下にもおかないもてなし方だ。うまく事が運んでいると思っていたが〔殿さま栄五郎〕の顔を見たことがあるという伏兵が現れた。ばれてしまったと分かった時も、しばしもあわてずにいい放つ言葉の豪快なこと。
「栄五郎、又の名を鬼の平蔵だ」鬼平さん、老口会人の〔鷹田（たかんだ）〕の平十を、利用する結果になってしまい、心が痛い。〔殿さま栄五郎〕の正体を知っているのだろうと疑われて、虎次郎の手下にれさんざんになぶり者にされた平十。鬼平さんは見逃してやる気でいたのだが、老妻に責めがおよぶのを苦慮して海へ身を投げてしまう。長門裕之さんの押さえた演技が悲しみを増す。
このお勤めさえ無事に済めば、のんびりと夫婦で湯治に行けたのにねぇ。

[No.488]�　その28�From:姫宮　恵子
�2004/12/15(wed) 13:08:57

第28話（第２シリーズ）
［雲竜剣］

突如、黒雲を破って相手に襲いかかる竜神にたとえた雲竜剣。その剣の使い手が２人いた。
１人は鬼平さんの師、高杉銀平ともゆかりの堀本伯道。剣の道に精通しているだけでなく、医学も志し、医術を施すために盗みにも手を染めていた。そして、その盗んだ金で放浪者や不幸な人々を引き取って世話をする報謝宿も全国にもうけていたのだ。
もう１人は、その息子虎太郎。伯道から雲竜剣は習ったものの精神はすさんでいた。急ぎばたらき専門の兇賊で、その上、警備を撹乱をしようと同心を相次いで刺殺していた。最後に伯道が鬼平さんに猶予をもらい、虎太郎に自分を切らせ、盗賊改めに息子を切らせるようにはかって果てる。
深いですねぇ。鬼平さんにはすべ全てお見とおしだが、自分の腕に自惚れた虎太郎と同様、若い息子の方が力が上になっちゃたのねと、思ってしまった自分に反省。
ところで「物腰の柔らかさ、気品の正しさ、寸分の隙もねぇ」と鬼平さんにいわせた伯道さんが『太陽にほえろ』のヤマさんだと気づいた時は、もうビックリ。ヤマさんは、ちょっと斜に構え少し猫背な暗い感じがしたものです。ところが伯道さん。背筋がピンと伸び、白いお髭をたくわえたお顔は明るく、目も人なつこいほどに可愛く見えました。
やはり、露口茂さん役者やのぉ、とつくづく感心させられたものでした。

[No.488]� 　その29�From:姫宮　恵子
�2004/12/19(sun) 14:19:22

第29話（第２シリーズ）
［おみね徳次郎］

恐妻家で通っている峰竜太さん。
ドラマの中でも同居しているおみねにリードされる役だ。徳次郎は盗っ人という正体がおみねにばれ、おみねを殺そうとする。
しかし、おみねが寝ついたところで首を絞めようとした瞬間に、パッと目を見開かれ、「私を殺そうってのかい」なんていわれ尻もちをつく。ホラー映画の「見たなぁ～」という感じ。
愛するおんなではあったけど、この衝撃は凄かったでしょうね。じつは、おみねも盗賊の手下。同じ稼業ではあるけれど、彼女の方が一枚上手。決して徳次郎にばれるようなことはしない。結局は相ついで鬼平さんのお縄にかかることになるが、おまさのたっての願いで鬼平さんは２人を所払いにしてやる。おまさのお礼に、「おら、知らねぇよ」とお惚け。
非道な奴らにはめっぽう怖いが、ささやかな幸せを求める人には応援も惜しまない暖かい鬼平さんだ。峰さんの徳次郎は、江戸を離れた空の下で相変わらずおみねの尻に敷かれながら、幸せを感じているんでしょうね。

[No.488]�　その30 �From:姫宮　恵子�
2004/12/19(sun) 14:20:59

第30話（第２シリーズ）
［むかしの女］

「誰にもいってはいけないよ」と口止めするようなことは、はなから誰にもいってはいけません。
鬼平さんは、昔なじみの女・おろくと出会う。その、おろくの友だちのおもんが、うっかり娘に話したことが次から次へ伝わって、大丸屋の万吉は雷神党という残虐な浪人集団からゆすられることとなる。万吉も女郎だった頃のおふくと馴染みだったのだ。その万吉は、手代から大丸屋の婿養子となり主人となっている。今更、おろくのことは誰にも知られたくない。しかも、娘までいると聞かされてはたまったものではない。
「人間、誰でも古傷はある。古傷は古傷で年をとれば懐かしいもんだ」鬼平さんは、おろくとの再会もただただ懐かしく思い起こすだけ。過去に何があろうとも、いまの自分に自信があれば、恐れることなどありゃしないと、鬼平さんは生きる姿勢まで教えてくれる。
それにつけても、おろくを演じた山田五十鈴さんよ。三味線で歌えばその声が、アップで写ればそのお顔が、びっくりするくらい艶っぽい。
色気のない身としては、年齢を重ねてのその秘訣をぜひとも教えていただきたいもの。

[No.507]�姫宮恵子のテレビ観想　その31�From:姫宮　恵子�
2004/12/25(sat) 03:06:23

第31話（第２シリーズ）
［白い粉］

「酒さえ呑まなきゃいい人なのにねぇ」とは、よく聞く文句だが、勘助の場合は、博打さえやらなきゃいい人なのにねぇ。
年の離れた恋女房をもらい、博打もやめたはずなのに、勘助は遊び仲間に誘われるままに、ついつい賭場へ足をふみ入れてしまう。そこには、役宅の料理人をしている勘助に毒をもらせ、平蔵を亡き者にしようという恐ろしい罠が待っていた。可愛い女房のおたみまでさらわれ勘助は、とうとう平蔵の椀へ白い粉を入れる。浜木綿子演ずる監察医との２時間サスペンス・ドラマでは気のいい刑事役のとん平さんだが、勘助役では気の弱い、現代でいうところの小市民という雰囲気がピッタリ。
それにしても五鉄の三次郎さんのお気の毒なこと。命がけのおつとめの鬼平さんにおいしい料理を食べてほしいとの一念が仇になってしまうなんて。寝づく気持ちもわかります。
鬼平さん、食いしん坊の忠吾を連れて五鉄に軍鶏鍋を食べに行ってやってくださいまし。鬼平さんの元気なお姿を見せるのが三次郎には一番の薬ですから。

[No.507]�　その32�From:姫野　恵子
�2004/12/25(sat) 04:01:09

第32話（第２シリーズ）
［托鉢無宿］

凧の骨のような、お熊ばあさんが「鉄つぁんよぉ」とやってくる。足元もおぼつかない五丁の勘兵衛さんが五郎蔵に支えられてやってくる。きわめつけは半年も風呂にも入らず垢にまみれ、藁を腰蓑のようにまいた録之助が体を掻きかきやってくる。
鬼平さんの役宅には、門番が取次ぎに躊躇するような人が次からつぎへと現れるのだが、鬼平さんはみんな暖かく迎える。それが度量の深さ、自信の厚さのなせるところだろう。録之助は鬼平さんとは剣術の同門。なりはひどいが、目は鬼平さんが羨ましがるほどに生き生きと輝いている。
ところがもう一人の同門、菅野伊介は殺し屋になり下がっていた。剣術の同門というだけでなく、家庭環境も似通っており、幼いころ、お互いに辛いおもいをした平蔵、録之助、伊介だった。が、長じた今、三人は三様にまったく違った人生を歩んでいた。そしてこれからも…録之助は鬼平さんから捕り物の手伝いを頼まれ快諾。しかも命がけの仕事だといわれ、その言葉もうれしくてたまらない。「二十年間、命がけを探していたようなものだ」と。
だが鬼平さんの「命がけ」という言葉の裏には、録之助を通じて伊介へ自分自身の始末のつけ方を考えさせるという深い謎がかけられていたのだった。何かを求めて明るく生きようとする人と、死に向かって歩いている人の空気が伝わってくるような今回の作品だった。
「ぼろは着てても心は錦」。皆さん明るく陽気に行きましょう。

[No.507]�　その33�From:姫野　恵子
�2004/12/25(sat) 04:03:38

第33話（第２シリーズ）
［五年目の客］

お吉さん、せっかく幸せな暮らしをしていたのに薮をつついてしまいましたね。
旅籠〔丹波屋〕に現れた音吉は、目の前の女将が、かつて自分が預けた金の中から五十両をくすねて消えた品川の女郎とは気づいていない。五年の落ち着いた暮らしが「やせた幽霊のような女」を、見違えるほど綺麗な女将に変えていたのだ。
そうとは知らぬお吉さん、ついつい自分から音吉に正体をばらしてしまう。

そんなもんですよね、なにかしら後ろめたさがあったりすると、聞かれもしないのにベラベラと、いわずもがなのことまでしゃべり墓穴を掘ってしまいます。あげくの果てに、音吉をかんざしで刺し殺してしまったお吉さん。一切を白状したお吉に平蔵はいう。「悪い夢をみたんだよ、お前さんは」「花も実もあるお裁き」と左馬之助は感心しきりだが、お吉は海に身を沈める。

私も左馬之助と同じく、鬼平さんのお裁きにほっとしたものです。
原作では、亭主が案じている、と鬼平さんがお吉をうながす場面で終わる。そのままやさしい亭主の元へ帰してやってはもらえませんかねぇ。

[No.507]�　その34�From:姫野　恵子
�2004/12/25(sat) 04:04:41

第34話（第２シリーズ）
［雨引きの文五郎］

「黙れ！網を張って待ちうけていた盗賊の首領を取り逃がすとは何事だ」
うだうだといいわけをする忠吾に、鬼平さんの雷が落ちる。迫力満点だ。その場にいあわせていたら震えあがることだろう。
忠吾も汚名挽回と、この度の捕り物には力が入るものの、その場その場での調子のよさは相変わらずだ。
それでも、鬼平さんはじめ同心たちからもうとまれないのは、尾美としのり演ずる、明るくいお茶目な忠吾が、命がけのお役目の面々にホッと一息つかせる空気をかもし出しているということか。
鬼平さんが手がけた捕り物にはさまざまな盗っ人が登場する。年老いて病身の密偵・勘兵衛も、むかしは街道筋を股にかけて暴れまくった大盗っ人だった。その勘兵衛が、鬼平さんに、「文五郎のような芸のある盗っ人、お縄をちょうだいするのはちょいと惜しい気がします」というほどの雨引きの文五郎を、目黒祐樹が浮世絵からでも抜け出たような華をもって演じている。自分からお縄になったうえに、牢から抜けだし、死後間もない勘兵衛に線香を上げて、また牢に戻ってひと眠りなんて、お見事というほかない。
それにつけても勘兵衛さん、密偵にはなったものの役宅なんぞでは死ねないと、最後の最後に盗賊の意地を通そうとしたのでしょうね。浜村純さんの体全体からその一徹さがあふれていましたよ。

[No.507]�　その35�From:姫野　恵子�
2004/12/25(sat) 04:05:48

第35話（第２シリーズ）
［猫じゃらしの女］

棚からぼたもち？　果報は寝て待て？
いつも尻はしょいで走り回っている密偵の伊三次が、岡場所で遊んでいたことでおもいもよらず、盗賊の一味を捕らえる結果になる。伊三次のなじみの女、およねが型師・卯之吉から、それとは知らずに鍵の型を預かっていたのだ。およねには、さっぱり分からない代物だが、伊三次に、「それ……」とすぐにわかる。卯之吉は、鍵の型を盗賊に売ってはいるが、根っからの職人だった。自分の仕事を安く見られた甚右衛門に型を渡さなかったことから拷問を受けるが、いまわの際に、「あの錠前はずっと前から惚れてたんだよ。腕前を分かってくれるまっとうな盗っ人におつとめさせたかったんだよ」と鬼平さんにい言い残す。悪の道に染まっても匠というご仁はいるようで。

［金太郎そば］では、苦労の末に蕎麦屋の女将になった女を、粋で健気に演じた池波志乃さんが今回は、とってもキュートに岡場所のおよねで登場だ。酔っ払って、猫じゃ猫じゃと、おっしゃいまぁすぅがぁ…と、歌い踊る場面を見ると、その柔らかい身のこなしに、やはり芸人さんの家に生まれ育ったひとだなぁと感心させられる。
また、画面でお姿を拝見したいものだが、中尾さん、無理でしょうかねぇ。

No.564]　その36�From:姫宮　恵子�
2005/01/27(thu) 11:00:26

第36話（第２シリーズ）
［盗賊二筋道］

腕と度胸と三十年に及ぶ盗みの手口から、盗賊仲間でも名の売れた〔高萩〕の捨五郎。盗人とはいえ、一本筋の通った男を菅原謙次さんが凛とした姿勢で演じている。
捨五郎が旗本の若君に手打ちにされそうにになった子供を救い、その若君の取り巻きに切られそうになったところを助けたのが鬼平さんだった。命の恩人が盗賊改めの長谷川平蔵だとわかり、「どうぞ、ご存分になさって下さいまし」その態度もいさぎよい。
それにしても、命を助けてもらったうえに不自由になった足のためにと、無花果（いちじく）の枝を自ら削って作ってくれた杖。それを、「傷が治ったら、どこへ行こうとお前の勝手だ」なんて手渡されちゃ、男ながらに惚れちゃいますよねぇ。元気になり改心もした捨五郎と、彦十、五郎蔵、おまさ達密偵が力を併せ、娘の結婚費用を作ろうと、年老いた治兵衛が企てる一世一代の盗みを、なんとか未然に防ごうとする。その息のあっていること。
捨五郎、鬼平さんに心酔して働くむかしの仲間たちの、現在の境遇を頼もしくも羨ましくも思ったことだろう。

[No.564]�　その37�From:姫宮　恵子�
2005/01/27(thu) 11:19:28

第３７話（第２シリーズ）
［本門寺暮雪］

久栄さん、笄が割れては、「外出をお控え下さいますよう」と、鬼平さんにお願いしたくもなりますよね。
その鬼平さんの外出に、断られるとふんで、「お供を」と声をかけた忠吾。鬼の居ぬ間に命の洗濯のはずが、「そうか、ではついてまいれ」の、ありがたいお言葉。その一挙手一投足をとことん、しごかれる一日となる。録之助が「凄い奴」と呼んで恐れる凄腕の殺し屋と雪の中、本門寺の長い階段で鬼平さんが対峙する時の迫力は手に汗握るものがあった。しかも平蔵の草履の鼻緒が切れ「凄い奴」が空を切って切りかかる瞬間に、平蔵は刀を抜くことすら出来ない。これほどまでの鬼平さんの危機を見るのは初めて。久栄さんが感じた不安がまさに的中かと思わされた。
その状況を救ったのはなんと、本門寺の茶屋のた犬だった。迫る「凄い奴」に敢然と噛みついたのだ。犬にばかり煎餅をやるのをいじけて見ていた忠吾に、「犬の命も、お前の命もその重さに変わりはねぇ」とおっしゃっていた鬼平さんだが、その犬に命を救われるとは思ってもみなかったことだろう。

「やっぱり平蔵さん凄ぇや」録之助の言葉に、「凄ぇのは、この犬だよ」と返す鬼平さん。犬にもちゃんと鬼平さんの人となりが分かっていたのだろう。

[No.564]�　その38�From:姫宮　恵子

�2005/01/27(thu) 11:21:16
第３８話（第２シリーズ）
［女賊］

いつの時代も、たまきオネエはリーダーです。
盗みを引退したはずの瀬音の小兵衛が、おまさを頼って江戸にやって来た。生き別れになっている倅の幸太郎が、悪い女に魅入られてしまっているというのだ。その女とは猿渡のお千代という女盗賊。その色香で手下の男たちを自在に操っていた。幸太郎は奉公先が標的になっているとも知らず、お千代に入れあげ内情を聞かれるままに話してしまう。お千代にしてみれば、幸太郎の思いを自分に向けるなど赤子の手をひねるよりたなさしいことだ。
女賊を演じているのはお色気むんむんの番組『プレイガール』のリーダーで一世を風靡した沢たまきオネエだ。何年たっても、その気だるいようなハスキーボイスと流し目から発せられる大人のフェロモンは衰えていない。
息子可愛さに賊の中に飛び込もうとする小兵衛に、田舎で待っていてやるのも愛情だとやさしくさとす鬼平さん。
この度は父子ともども安住の地へ導いてやったということですね。それにつけても、この回でのお千代の最期と沢たまきさんの最期がだぶってしまう。ちょっと怖い因縁でしたね。

[No.564]�　その39�From:姫宮　恵子�
2005/01/27(thu) 11:22:03

第３９話（第２シリーズ）
［四度目の女房］

腕のよい大工伊之松は、密偵たちの間でさえ正体が分からず〔幻小僧〕と呼ばれている盗賊だった。
伊之松はあちこちで所帯をもち、草履を脱ぎ捨てるように女を捨ててきたが、四度目の女房おふさにだけは深い思いを寄せていたのだった。「ただ、おまえさんを見てるのが好きなの」と鑿を研ぐ伊之松の横に座るおふさの首筋には、正月に伊之松が岡場所で遊んだことを知り、自害しようとした傷跡が残る。そこまで好きになれる殿方に巡り会えたおふささんは幸せ者ですね。
ところが、伊之松は頭領に呼ばれ、尾張へと行ってしまう。「お前が嫌いになった訳じゃない」との言葉を残して。おふさは、いつしかお茶屋で金持ちを相手にする女になっていた。そのきっかけを作ったのは伊之松の仕える盗賊のお頭だった。盗賊仲間の仁吉からすべてを聞かされ、おふさも死んだと思った伊之松は尾張から急遽、江戸へ舞いもどる。そして、お頭を殺すものの自分も殺されてしまう。
最後に抱き起こしてくれた平蔵に、「おふさの墓を作ってほしい」金子をたくして。ところが、おふさは生きていた。
これから先も、伊之松に再会できることだけが望みなんでしょうね。伊之松の死を知ったらと思うと、森口瑤子の美しい姿が余計に哀しさを増すものです。

[No.564]�　その40�From:姫宮　恵子
�2005/01/27(thu) 11:22:50

第４０話（第２シリーズ）
［雨乞いの庄右衛門］

岸井左馬之助は浜松からの帰途、農夫が漕ぐ水車を子供のように飽くことなく見つめる独り旅の老人と出会う。
老人は病み上がりだという。もう駄目だと思っていたが病み抜けることができ、せめてなごりの仕事を立派にやり遂げたいと思うという。それを聞き、左馬之助、「やりなさい。大いにやるがよい」とアドバイス。
ところが、その老人は本道を踏まえた大盗賊〔雨乞い〕庄右衛門だった。そして、やり遂げたいといっていたのは最後の盗めだったのだ。
ところが、情婦と手下が組んで庄右衛門を裏切ろうとしていた。それを、旅の途中で思い知らされた庄右衛門、あと１か月ももたないと診立てられた身ながら、裏切り者を成敗するために、左馬之助の目を盗んで江戸へと向かう。普段、静のイメージが強い田村高廣だが自分を裏切った手下たちを皆殺しにする大立ち回りには鬼気迫るものがあった。
見たことはないのだが、坂東妻三郎のチャンバラ映画はあんな風だったのではないだろうか。今回ばかりは、鬼平さんの出番があまりありませでしたね。

[No.538]�姫宮恵子のテレビ観想　その41�From:姫宮　恵子�
2005/01/12(wed) 13:17:36返信
第４１話（第２シリーズ）
［密告］

女は想い出だけで生きられるのだろうか。
平蔵のもとへ押し込みを密告する文が届けられた。
指定された場所で捕らえたのは伏見の紋蔵一味だった。そしてその文の主は、なんと紋蔵の母親お百だった。お百は平蔵が「本所の銕」と呼ばれていた頃、平蔵といっしょに遊び暮らしていた横山小平太に、もてあそばれ、捨てられた茶屋の少女だった。
平蔵は、そんなお百のために小平太をこらしめてやり、遠くへ嫁ぐお百に路銀と簪を渡してやったのだった。そんな平蔵の情けを胸に、お百は生きてきた。だから息子の江戸での盗みを止められないのを知った時、役宅へ密告したのだ。息子の仲間がそれを知り切りつけてきた時に、その賊を殺して自分は平蔵がくれた簪で自害をする。
自分の子どもを宿した少女を階段から突き落とした上に蹴りあげるという、冷酷な無頼者と、その親の因果からか兇賊に身を落とす息子の二役を沖田浩之が演じている。
立ち姿も切れ長の目もなかなかに美しい。これからの役者人生だったろうに、自分で幕を引いてしまうなんて、あまりにも哀しすぎる。

[No.538]　その42�From:姫宮　恵子
2005/01/12(wed) 14:11:13
第４３話（第２シリーズ）
［夜狐］

裕福なお旗本の長男を、後妻が連れ子の次男に殺害させ家督を相続させようとしたお話。鬼平犯科帳版２時間サスペンスといったところだろうか。
夜道で若侍の殺害場面を目撃してしまった〔夜狐〕の弥吉は、浪人・井坂の悪だくみに乗ってしまう。それはこの殺人に絡む旗本の後妻を恐喝しようというものだった。
まさか自分も最後は殺されそうになるとも知らず、女房のへそくりを盗みだし、井坂に言われるままに計画の準備金として差し出す弥吉の人のよさ。この浪人・井坂、普段は勝手に人相を見ては見料を要求するような、ちゃっかりした易者をかこっているが、じつは平蔵に「これほどの腕をもちながら」といわせるほどの凄腕の持ち主。沢竜二がとぼけた味と、凄みのある眼光に見事な殺陣の落差を見せている。三千石の旗本一家の冷え冷えとした内情と、落語に出てくるような貧しいながらも暖かい情の通った長屋の夫婦像の対比も面白い。
鬼平さんも、盗賊改めとは知らずに声をかけてきた阿保烏と呼ばれていた弥吉との軽妙なお喋りと、苦渋に満ちた旗本・近藤に対する時の重々しい威厳ある有る態度の大きな違いをみせつける。
それにつけても、うさ忠の毎度の軽さ。死体を発見したのも遊郭からの朝帰りの途中だったが、これは思わぬ功名。
ところが、つなぎ役を仰せつかっていながら、いざという時に、その詰め所の茶屋の娘と軽業を見に行っていたとは、鬼平さんでも思いもよらないことだろう。

[No.538]�　その43�From:姫宮　恵子
2005/01/12(wed) 14:12:02

第４３話（第２シリーズ）
［霧の朝］

産みの親より育ての親。やはり昔の人のいうことに間違いはないようです。平蔵の手足になって働いてくれている桶屋の富蔵の子供、幸太郎が誘拐された。幸太郎は養子だった。
じつの親が返してほしいと再三いって来ていたので桶富夫婦はその二人の仕業だと思っていたのだが、実際は富蔵が捕まえて磔になった為五郎の情婦が逆恨みしての犯行だった。情婦と、為五郎の手下たちはちょうど江戸に舞い戻った井関録之助の機転ですぐに捕らえることができたが、今度は幸太郎をじつの両親が連れ去ってしまう。幸太郎は桶富の家に帰りたがり、いっくら実の親が言ってきかせてもなつこうとはしなかった。
そんな時、じつの母親おきねは新しい命が宿っていることを知り、幸太郎を桶富に返しに行くのだった。深い霧の朝「おかぁ」という声におろくが振り返ると、走ってくる幸太郎がいる。雨の中、濡れながらはだしでお百度を踏んでいたおろくさん、さぞ嬉しかったことでしょう。抱きしめたまま幸太郎を家の中に入れ、すぐにしんばり棒をかませたことでも、もう二度と奪われてなるものかという気持ちがにじみ出ていた。
貧しい暮らしの実母を演じた小鹿みき、その芸名の通り黒いまん丸の瞳で、日曜の昼に土居まさるさん司会の番組にとお茶の間の人気者として登場していたが、バンビちゃんもすっかり熟練された女優さんの顔になっていたのですね。

[No.538]　その44�From:姫宮　恵子
�2005/01/12(wed) 14:12:57

第44話（第２シリーズ）
［白と黒］

二人の美女にいい寄られ、ハーレム状態を満喫していた翻筋斗（もんどり）の亀太郎だったが、世の中そんなに甘くはない。亀太郎の前に現れたお今とお紋は実は姉妹だった。
二人の父親は〔門原〕の重兵衛の盗人宿をしていたのだが、重兵衛から届くはずの金を亀太郎にくすね取られていたのだ。姉妹はその千両を老父のためにどうにかして奪い返そうと図っていた。姉妹がいくら探しても見つからない大金を、鼻の下を伸ばした亀太郎がお紋に「お今を殺して二人で暮らそう」と自分から見せてくれた。そこで、お今の首を絞めようとする亀太郎を逆に簀巻きにし、千両を奪い取り姉妹は嬉々として老父の元へ運び込んだ。亀太郎のあじとに踏み込んだ鬼平さんも簀巻き姿にはびっくりだ。
「女というものは恐ろしい」と、捕らえられた亀太郎はすっかり改悛し、牢の中で一日中お経を唱えて過ごしている。
それに引き換え姉妹は牢の中とは思えないほどの明かるさなのだった。
ここでも鬼平さんが一言、「女というものは・・・」引き取って久栄さん、「恐ろしいでございますか」。
鬼平さん、苦笑いするしかない。原作とは表題の意味するところも内容にも相違点が多いが、明るく軽妙な一編になっている。

[No.538]�　その45�From:姫宮　恵子
�2005/01/12(wed) 14:13:47

第45話（第２シリーズ）
［春の淡雪］

新入社員を「宇宙人」と形容した識者がいたが、どうも現代のことだけではないようだ。天野与力は長官の前でもものおじもせず、何事も自分本位でとらえる同心・大島を「遠い空から降ってきた生き物」とたとえている。
そんな驕った若者を、扇雀襲名前の中村浩太郎が小面憎いまでにうまく体現している。
しかし、若さゆえかまだ人を見る目のない悲しさ、ろうたけた密偵雪崩（なだれ）の清松に手玉に取られてしまう。口車にのって借金をこしらえしまったことから、大盗賊・池田屋五平の娘を誘拐し、千両もの金を脅し取るということに加担までしてしまうのだ。
さらった娘と千両の受け渡し場所に、五平のお供で千両箱を抱えて現れた下男は、なんと鬼平さんの変装した姿だった。それと気づいたとたんに己に刀を突き立てた大島は、平蔵に介錯を頼んで果てる。
鬼平さん、どんな思いで刀を振り下ろしたのでしょう。まさに衝撃的な場面だった。その重い空気を、猫殿の鰯のねめろうの講釈場面への転化で、明るさが救ってくれる。
久栄さんが「ご覧下さい」と開けた障子の向こうには、部下に不慮の死をとげさせてしまって平蔵の心を優しく包んでくれるように春の淡雪が降り始めた。





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