いまにも雪が落ちてきそうな暗澹(あんたん)とした灰色の冷たい空の下を、弥市を乗せた駕籠は真直ぐに外神田へすすむ。
 外神田から昌平橋をわたり、柳原の土手づたいに橋本町をすぎ、久松町のあたりで、弥市は駕籠をすてた。
 浜町堀にかかった高砂橋をわたり、彼は住吉町の裏河岸へ入った。このあたり、俗に〔竈(へっつい)河岸〕とよぶ……。


遠回りになるのに、なぜ昌平橋をわたったかは不明。御成街道を真直ぐに行けば筋違(すじかい)橋(現・万世橋)のはず。柳原堤から馬喰町馬場(別名・初音の馬場)の西を抜け、
薬研堀を左手にのぞみながら、久松町へ。高砂橋で浜町堀をわたる。浜町堀が隅田川へそそいだあたりが中洲。中洲をはさんで、上手が新大橋、下手が永代橋。横ぎった大門通の西は、木綿問屋がならぶ大伝馬町。たどりついたのは、浜町堀の支流の〔へっつい河岸〕。へっつい屋が多くあったための俗称。

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尾張屋版
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尾張屋版


上野 山下(『江戸名所図会』) 


黒門前(『江戸名所図会』) 


筋違八ッ小路 昌平橋(『江戸名所図会』) 


柳原堤(『江戸名所図会』) 


馬喰町馬場(『江戸名所図会』) 


薬研堀(『江戸名所図会』) 


新大橋(『江戸名所図会』) 


永代橋(『江戸名所図会』) 


大門通り(『江戸名所図会』) 


大伝馬町(『江戸名所図会』) 

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