口合人捜(さが)しの旅(3)
『江戸名所図会』の本牧(ほんもく)の[吾妻権現社]の塗り絵をみておどろいた。
素絵(もとえ)は春とも夏とも不明であるのに、5年前にちゅうすけは晩秋と判断したらしい。多くの樹木や山を紅葉、黄葉に塗っていた。
(本牧(ほんもく)の[吾妻権現社] 『江戸名所図会』 塗り絵師: ちゅうすけ)
前後の素絵(もとえ)にそういう風景が少なかったからであろう。
小柳安五郎(やすごろう 33歳)とお園が本牧(ほんもく)の[吾妻権現社]を海側から眺めたのは(旧暦)の2月初旬である。
塗りなおすにはちゅうすけの躰力が、もはや、ない。
(本牧(ほんもく)の[吾妻権現社] 『江戸名所図会』 素絵(もとえ))
鬼平ファンの方々に赤系統が緑や桜色に変る色眼鏡をかけたつもりになっていただくか、素絵をご自分で新緑に塗りなおしてご鑑賞いただくしかない。
幸い、朝日カルチャー・センター(新宿の鬼平教室)で受講していた細矢則行さんの同じ画題をパソコンに記録していた。
こちらは緑の季節なので掲載させていただく。
「あれ、おまささんの――」
お園が口にした瞬間、安五郎が園のたもとを引き、視線を船頭へふり、ここでは名前をだすなと頭を軽く左右した。
船が着岸するまで、お園は気もそぞろでなかった。
「帰路にこっそり調べに行ったほうがよさそう――でも、気になります」
お園の提案に安五郎も同調した。
急に秋雨がふった日、おまさが裾を帯にはさみ、長谷川邸へかけこんだことがあった。
そのとき、紅花ぞめの濡れた腰巻が見えた。
「40おんなは冷えがちだからって、五郎さんが買ってきてくださったんです」
おまさがけろりとのろけた。
そのことをお園が寝間がたりに話し、
「五郎蔵も意外に女房おもいなんだな」
安五郎がひやかすと、
「おんなは32歳を境に躰が変るっていうんですよ」
「お園にもか買ってやらないと、かな」
「う、ふふふ。試してご覧になってみて――」
そんな夜ばなしが交わされたことがあった。
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