カテゴリー「103宮城県 」の記事

2005.09.16

〔佐沼(さぬま)〕の久七

『鬼平犯科帳』文庫巻24の[女密偵女賊]で、鬼平の信任の篤い女密偵おまさは、いつもの小間物行商の姿で、渋谷の氷川神社の別当・宝泉寺(渋谷区東2丁目)門前で花屋をやっている〔佐沼(さぬま)〕の久七を訪ねた。老いた口合人でもある久七と連絡(つなぎ)をつけるためである。
(参照: 女密偵おまさの項)
久七は、盗みの世界からは足をあらったが、鬼平の指図で、口合人をつづけている。

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年齢・容姿:70歳。よぼよぼの躰と卑下。
生国:伊達藩内登米郡(とよまこうり)佐沼宿(現・宮城県登米市迫(はさま)町佐沼)
「佐沼」という地名は、茨城県の竜ヶ崎市にもあるが、[つぶやき]に記した理由で、宮城県のここをとった。
『旧高旧領』には「佐沼村」は載っていないので、近世の佐沼宿とした。

密偵となった経緯:おまさが、(佐沼久七さんなら)と鬼平へ売り込み、深川の入船町に住み暮していた久七を捕えた。
しばらく役宅内の牢へ入れてすこしずつ説得したが、「同じ稼業の者を、売るなんてことはできねえ」と反発していたが、やがて鬼平の人柄を知るのつれて軟化、ついに密偵となることを承諾した。

つぶやき:空想をたのしんでいる。
昨日の[日録]に記した〔水越(みずこし)の又平の生国、陸前(りくぜん)国登米郡(とめこうり)水越村---現・中田町は、今日の〔佐沼〕の久七の故郷「迫(はさま)町」の東に接して位置している。
(参照: 〔水越〕の又平の項)
さらに、又平が住んでいた深川の「島田町」と、久七の家があった入船町は、1筋の堀をはさんでいるだけで、堀ごしに会話できるほどの近間である。迫川地縁で、久七又平を呼び寄せたと空想がとぶ。
また「中田町は東からの北上川、西からの迫川にはさまれている。懐郷の念から縦横に掘割がめぐっている水郷・木場の近くに居を構えたとも見る」とも記した。
久七の迫町も、迫川の氾濫でてきた長沼、伊豆沼へ白鳥が飛来する。いずれにしても、水辺に縁がふかい。

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2005.09.15

〔水越(みずこし)〕の又平

『鬼平犯科帳』文庫巻6に載っている[むかしなじみ]では、密偵の最古参〔相模(さがみ)〕の彦十爺つぁん(60に近い)に、20年ぶりの出会あったかつて小盗め仲間だった〔網虫(あみむし)〕の久六(53,4歳)が盗みの誘いをもちかけた。久六の巧みにつくった人情話に、彦十の胸の底で盗みの血が目をさました。
(参照: 〔網虫〕の久六の項 )
〔網虫〕の久六は、深川の木場の西---島田町で蝋燭やら灯油やらのこまごましいものを商っている〔いなばや」の亭主で、かつての盗め仲間〔水越(みずこし)〕の又平()と甥の房治(30男)も引き込んでいた。

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深川木場 手前の画面外が島田町(『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)

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年齢・容姿:50男。でっぷりと肥り、はげかかっている頭髪、うすい痘痕(あばた)面。
生国:陸前(りくぜん)国登米郡(とめこうり)水越村(現・宮城県登米郡中田町淺水)。
近江出生で大坂の見世物に売られた〔網虫〕の久六との縁からすると、越前・足羽郡の水越(現・福井市水越)もかんがえられる。
また、池波さんが司馬遼太郎さんの家をときどき訪問していたことから、河内国高安郡水越(現・大阪府八尾市水越)の地名記憶も推測できないではない。
いずれの地も、洪水にになやまされたことに由来する地名である。
中田町は東からの北上川、西からの迫川にはさまれている。
懐郷の念から縦横に掘割がめぐっている水郷・木場の近くに居を構えたとも見る。
陸前出身の又平、相模生まれの彦十、近江で捨てられた久六の出会いの場には、江戸がもっともふさわしい。

探索の発端:彦十の態度の変化から、鬼平が五郎蔵・おまさ夫婦に探索を命じ、五郎蔵の尾行によって、〔水越(みずこし)〕の又平の〔いなばや〕が見つけられた。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項目)
(参照: 女密偵おまさの項)

結末:日本橋橘町3丁目の町医・人見道春宅へ、いよいよ今夜は押しこもうと、〔水越〕の又平の家へ集まった6名は、全員、火盗改メに捕縛された。その中に彦十の姿はなかった。鬼平のおもわくで、五郎蔵に事前に拘束されていたからである。

つぶやき: 屋号の〔いなばや〕はの漢字は〔因幡屋〕ではあるまい。因幡国に水越村はない。〔稲葉屋〕のひらきで、郡名の登米(とめ)にちなんでいるのかも。もっとも、登米は人姓だが。

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2005.06.19

〔大亀(おおがめ)の七之助

『鬼平犯科帳』文庫巻7に収められている[はさみ撃ち]で、かつて〔墓火(はかび)〕一味にいて運よく捕縛をまぬがれた2人のうちの1人。もう1人は〔女だまし〕が専門の〔針ヶ谷(はりがや)〕の友蔵(32歳)。
(参照: 〔墓火〕の秀五郎の項)
その友蔵が本郷1丁目の薬種屋〔万屋〕小兵衛方の女房おもん(31歳)をたらしこんで、彼女の寝間へ忍んでゆき、押し込みの当夜は、内側から戸をあける算段をしている。
そんなことができるのも、おもんの亭主・小兵衛は齢が40も上で、寝床にもう女を必要としなくなり、4年前から別の部屋で寝ているためである。
もっとも、この小兵衛老人、只者ではない。50年前に盗みの世界へ入り、亡父の跡目である〔猿皮(さるかわ)を継いで2代目となり、7年前に引退したご仁である。本拠は芸州・広島、テリトリーは中国筋から九州へかけてだったから、江戸の火盗改メは〔猿皮〕一味については知らない。

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年齢・容姿:31,2歳。記述はないが、上背のある友蔵に比し中肉中背と推察。
生国:陸前(りくぜん)国黒川郡(くろかわこうり)大亀(おおがめ)村(現・宮城県黒川郡冨谷(とみや)町大亀)
町内の標高115メートルの大亀山の頂上に、亀のような形をした「亀石」がかさなっているためについた村名と。

探索の発端:両国橋上で七之助が、7年ほど前に流れづとめで助(す)けたことのある〔初鹿野(はじかの)〕の音松一味の元幹部---〔舟形(ふながた)〕の宗平(73歳)に出会い、急ぎの助(す)けばたらきを5人ほど頼んだ。
(参照: 〔初鹿野〕の音松の項)
そのことはもちろん鬼平につつぬけとなったが、七之助を尾行した〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵が雨の柳原で見失ってしまった。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
そこで、鬼平(47歳)以下、木村忠吾(25歳)、小柳安五郎(26歳)、山田市太郎、五郎蔵(55歳)が盗人に化けて一味に加わることになった。

結末:当夜、〔針ヶ谷〕の友蔵が内側からしまりを外そうとしたとき、目つぶしと薪が飛んでき、友蔵はほううほのていで転がりでて計画の中止を告げたが、助ばたらき人に化けていた鬼平らに取り囲まれてあっけなく逮捕。死罪であろう。

つぶやき:『鬼平犯科帳』に登場する盗賊のお頭の中でも、ユニークさ、喜劇性の点で5指に入るご仁。女房の寝取られ房事の些細を、襖ひとつへだてて耳にしながら、「退屈しのぎの楽しみ」と割り切っている。
(女の躰をいじくりまわすことなぞ、ばかばかしくて---)
とうそぶかせたときの池波さんは、48歳。

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