〔佐沼(さぬま)〕の久七
『鬼平犯科帳』文庫巻24の[女密偵女賊]で、鬼平の信任の篤い女密偵おまさは、いつもの小間物行商の姿で、渋谷の氷川神社の別当・宝泉寺(渋谷区東2丁目)門前で花屋をやっている〔佐沼(さぬま)〕の久七を訪ねた。老いた口合人でもある久七と連絡(つなぎ)をつけるためである。
(参照: 女密偵おまさの項)
久七は、盗みの世界からは足をあらったが、鬼平の指図で、口合人をつづけている。
年齢・容姿:70歳。よぼよぼの躰と卑下。
生国:伊達藩内登米郡(とよまこうり)佐沼宿(現・宮城県登米市迫(はさま)町佐沼)
「佐沼」という地名は、茨城県の竜ヶ崎市にもあるが、[つぶやき]に記した理由で、宮城県のここをとった。
『旧高旧領』には「佐沼村」は載っていないので、近世の佐沼宿とした。
密偵となった経緯:おまさが、(佐沼の久七さんなら)と鬼平へ売り込み、深川の入船町に住み暮していた久七を捕えた。
しばらく役宅内の牢へ入れてすこしずつ説得したが、「同じ稼業の者を、売るなんてことはできねえ」と反発していたが、やがて鬼平の人柄を知るのつれて軟化、ついに密偵となることを承諾した。
つぶやき:空想をたのしんでいる。
昨日の[日録]に記した〔水越(みずこし)の又平の生国、陸前(りくぜん)国登米郡(とめこうり)水越村---現・中田町は、今日の〔佐沼〕の久七の故郷「迫(はさま)町」の東に接して位置している。
(参照: 〔水越〕の又平の項)
さらに、又平が住んでいた深川の「島田町」と、久七の家があった入船町は、1筋の堀をはさんでいるだけで、堀ごしに会話できるほどの近間である。迫川地縁で、久七が又平を呼び寄せたと空想がとぶ。
また「中田町は東からの北上川、西からの迫川にはさまれている。懐郷の念から縦横に掘割がめぐっている水郷・木場の近くに居を構えたとも見る」とも記した。
久七の迫町も、迫川の氾濫でてきた長沼、伊豆沼へ白鳥が飛来する。いずれにしても、水辺に縁がふかい。
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