女賊(おんなぞく)おせつ
『鬼平犯科帳』文庫巻12の冒頭に収まっている[いろおとこ]で、同心・寺田又太郎・金三郎の殺傷を仕掛けたのは〔鹿熊(かぐま)〕の音蔵一味だが、〔山市(やまいち)〕の市兵衛(60がらみ)が1枚かんでいた。
(参照: 〔鹿熊〕の音蔵の項)
(参照: 〔山市〕の市兵衛の項)
市兵衛は女賊おせつの父親の実兄だったが、姪が火盗改メの同心・寺田兄弟と情をかわした上に仲間を裏切っていくのを見ていられなくなったのである。
年齢・容姿:22~4歳か。たよりなげで、ものさびしそうな風情が男ごころを牽きつける。
生国:越中(えっちゅう)国新川郡(にいかわこおり)の山あいの村(現・冨山県下か中か上新川郡のどこか)。
おせつも伯父・市兵衛も、下新川郡生まれの〔舟見(ふなみ)〕の長兵衛一味にいたことがある地縁で類推。
(参照: 〔舟見〕の長兵衛の項)
探索の発端:探索中に、目黒の竹藪の中で盗賊に刺殺された兄・又太郎の跡目を継いだ寺田金三郎(25歳)は、回向院でおせつが自分を見て逃げ出したのを追い問い詰め、兄の殺害が〔鹿熊〕一味の仕業と知ることになった。
両国 回向院(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)
そしておせつは金三郎と情を交わし、自らの寿命を縮ることにもなった。
結末:自分たちを火盗改メに売ろうとしていると、〔鹿熊〕一味は〔山市〕の市兵衛の店でおせつを殺した。
〔山市〕の店は火盗改メの看視下におかれ、やがて市兵衛が捕らえられ、その陳述によって〔鹿熊〕一味も捕縛。
つぶやき:火盗改メの与力・同心が、女賊と情を通じる篇は、聖典全体では5指にあまる。京都での木村忠吾、あばたの新助、この篇の寺田兄弟、さらには黒沢勝之助、高松繁太郎、松波金三郎、細川峯太郎---。
まあ、若い男と若い女がいて、女がその気になっていれば深みにはまるのも自然の勢いといえる。あとは、物語の展開にどうあやどりをつけるかが、作家の腕のみせどころ。
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