カテゴリー「021佐嶋忠介」の記事

2012.05.29

筆頭与力・佐嶋忠介(5)

どういうはずみで話題が館(たち)の姓へおよんだのか、宴が終わってみるともうおもいだせないほど、どこかで{飛躍したのであろう。

火盗改メ・本役を勤めている先手・弓の1番手の筆頭与力・佐嶋忠介(ちゅうすけ 50歳)が、
「かつてお父ごからうけたまわったことがあったが、館うじの姓、〔たち〕と読むのは加賀あたりだけだそうですな」
「はい。会津や陸奥では〔たて〕と読んでいるようで、亡父から聴いておりますかぎりでは、加賀でだけが〔たち〕と……」
館 朔蔵(さくぞう 32歳)の応えに、奈々(なな 20歳)が口をはさんだ。

「紀州にも上館(かみだち)ゆう村がおます。なんでも昔むかし、高麗のほうから渡ってきいはった偉い人の屋敷があったよっての地名やいうことだす」

それまで筆頭同士の話ふりを興味ありげに聴いていた平蔵が割ってはいった。
佐嶋うじのご先祖はいずこですかな?」
「はい。相模の三崎(みさき)の佐島村です」
「すると、北条どのの……」
「軽輩だったようです」
「三浦郡(みうらこうり)の佐島村には〔山〕がついておらなかったように記憶しておるが……あのあたりは、たしか、江川太郎左衛門 たろざえもん)どの支配の官領地――」

火盗改メに任じられて1ヶ月も経っていないのに、伊豆の漁村の代官支配地までもう記憶してしまっていることに、佐嶋は内心おどろいていた。
(うちのお頭(かしら)とはひと味もふた味もちがうご仁のようだ)

「嶋と島の使いわけですが、〔山〕がついた嶋は山の国の不便な土地、〔山〕のつかない島は海とか湖にか決まれた本来の島と聴きおります。したがいまして、先祖は三浦岬の山中に住していたものと想像しております」

「そうかの? 宝の山と申すぞ。佐島村の中でも宝を生むもの――銀山か金山を所有なさっていたので、ご先祖が〔嶋〕の字をお使いになったのであろうよ」
「不肖の子孫で、お恥ずかしいかぎり」

「巷では、鬼も恐れる火盗は強者(つわもの)ぞろい、中でも猛(たけ)きは佐嶋忠介、弓の一番しょって立つ――と童たちまでが囃しておるそうな。これからも精をだし、ともに努めましょうぞ」
「こちらこそ、よしなにお導きを」

平蔵のような外れ者がどうして火盗改メ・助役(すけやく)に任じられたのかわからない――と、佐嶋忠介の上司である組頭の堀 帯刀秀隆(ひでたか 51歳 1500石)が洩らしていると耳にしていた佐嶋筆頭与力としては、いつ平蔵からそのことを切りだされるかとひやひやしていたが、その気配がまったくなかったばかりか、自分がもちあげられたので、安心して最後の盃を口へ運べた。 

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2012.05.28

筆頭与力・佐嶋忠介(4)

「ところで、佐嶋うじが使っている密偵は、豆岩ひとりではありますまい?」
平蔵(へいぞう 42歳)が左頬にえくぼをつくりながら訊いた。

「はい」
「いや、数はどうでもよろしいので。ただ、人数がふえると、その者たちの生計(たつき)のあてもしてやらないといけないが、その金の出どころは――? 幕府勘定方が面倒をみてくれるとはおもえないが……」

火盗改メの本役を務めている先手・弓の1番手の与力筆頭の佐嶋忠介(ちゅうすけ 50歳)が急所を衝(つ)かれたといった体(てい)で目をしばたき、ちょっといいよどんだが、肩で息をして応えた。
「さようですから、密偵としてえらぶのは、まず、自力の生活力があるかどうかです」

火盗改メから支給される報酬で暮らしがやっていけるはずはない――と、佐嶋与力も強調した。
また、密偵専業では世間の目がごまかせないし、疑惑がもたれれば盗賊のほうでも生かしてはおかない。
「ですから、いろんな職業に就ける才覚の持ち主であることが第一です。町内でふつうに生きていくためには人別も整っていないといけませぬ」

もちろん、人別は火盗改メがこしらえて持たせてやるのだが、とにかく、ふつうの人たちの中へ溶けこめる性格の男であること。

佐嶋の言葉に、平蔵は深く頷(うなず)き、香具師(やし)の元締衆と親しくしておいたことが、火盗改メの仕事に生きてくると自問し、自答をだした。
密偵の人別を、いちど香具師の世界で定着させてからふつうの町中へ移せば筋がとおりやすいと判断したのであった。

参照】2010年2月4日~[元締たちの思惑] () () () (
2010年11月26日~[川すじの元締衆] () () () 

いま、香具師の元締衆との網は、江戸の町々へはほとんどひろげてある。
東海道も、大井川の東西の三島・金谷まではどうにかつながった。

参照】2011年4月21日[〔宮前(みやまえ)〕の徳右衛門
2011年4月21日~[[化粧(けわい)読みうり]相模板] () ) () (
 
中山道も高崎城下までは伸びた。
日光道も宇都宮に点ができている。

これらは、意識してつくりあげたのではなく、その場に臨んで解決策としておもいついたにすぎない。

(あとは甲州路だな)
平蔵がそうおもったとき、佐嶋筆頭が意外なことを口にした。

「密偵たちの手当ては、盗賊に襲われそうな大店(おおだな)や富商から寄進してもらい、それらを働きに応じて分配させております」

(これまでの悪達者な岡っ引きのやり口に近い)
咄嗟に胸のうちでおもったが、平蔵は表にはださず、聞き流したふりをした。

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2012.05.27

筆頭与力・佐嶋忠介(3)

「いや、御厩河岸の舟着きの〔三文茶房〕の裏手、〔豆岩〕という呑み屋の亭主の岩五郎(いわごろう 30代前半)がことよ」
平蔵(へいぞう 42歳)はつとめてさりげなく話しているのだが、(たち) 朔蔵(さくぞう 32歳)は呆気(あっけ)にとられた表情で、佐嶋忠介(ちゅうすけ 50歳)は細おもてを硬くして、つづく言葉を待つ。

朔蔵平蔵の配下で、先手・弓の2番手の筆頭与力、佐嶋忠介も同じ肩書きながら、こちらは弓の1番手であった。

長谷川家の家士の松造(よしぞう 36歳)だけは、にやにや顔で料理をつついていた。

平蔵は目で奈々(なな 20歳)に座をはずすようにうながし、姿が消えてから、あそこの茶店と岩五郎・お(かつ 39歳)の商い店を火盗改メが使うように幕府へかけあったのは亡父・宣雄(のぶお 享年55歳)だと打ち明けた。

肩の力を抜いた佐嶋与力が、
「〔三文茶房〕のほうもそうだったとは知りませなんだ」

参照】2009年6月20日~[〔銀波楼〕の今助] () () () () (
2009年6月21日~[〔神崎(かんざき)〕の伊之松] () () () (
2009年6月25日~[〔般若(はんにゃ)〕の捨吉] (1) (2

「その〔豆岩〕のすぐ前の〔三文茶房〕のおんな主人のお(くめ 46歳)の亭主どのが、ここで鰹(かつお)の刺身をつまんでいる烏山松造でね……」
「これはまったく、異なご縁で……」
「だから、岩五郎のことは、筒抜け」
「恐れいりました」
佐嶋筆頭与力が鬢(びん)をかき、 与力は初めてお頭(かしら)の別の顔を見たように目を見はった。

「せっかくだから、佐嶋うじから密偵のあつかい方をご伝授いただけるのを楽しみにしていたのだが……」
佐嶋が座りなおし、
長谷川さまに手前ごときが申しあげることは今さらございませんが、あの者たちはかつての仲間からイヌとさげすまれております。そうではない、世のため人のために尽くしているのだと、自信を支えてやることが第一だとおもいます」
「自信を支えてやること―― 筆頭。しかと腹にいれて、配下の者にいいきかせるように」
「はっ」

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2006.04.12

佐嶋忠介の真の功績

0003

リストは、38年前の1967年(昭和42年)、池波さんがその年に発表した、長篇と短篇とその媒体である。

当時、中堅作家の地歩確かなものにしていた池波さんは、この年、大衆小説の最高の舞台である『オール讀物』から4篇も依頼されるほど、力量を認められていた。

新年号に載った[正月四日の客]は、忍者もの、仇討ちものから白浪ものへ転じようとしている池波さんの心がまえを示していたが、編集者たちは、それが『鬼平犯科帳』の足ならしとは、まだ気づいていなかったようである。

12月号のための[浅草・御厩河岸]を受け取りにいったのは、『オール讀物』に配属されてまだ2年目の花田紀凱さんだった。
原稿を読み終えた花田さんに、池波さんがいった。
「そこへ出した長谷川平蔵は、面白い男でねえ。火付盗賊改方の長官で、人足寄場なんかもつくったんだよ」

これは、その3年前の『週刊新潮』の[江戸怪盗記]、さらには2年前の『別冊小説新潮』の[白浪看板]で長谷川平蔵をちらっと登場させたのに、反響がなかったために、じれていた池波さんが、ふと、好青年の花田さんにコナをかけたと見る。

社へ戻った花田さんが杉村友一編集長へ報告すると、「その、長谷川平蔵で連載を頼もう」となり、いろいろあって、なんと、翌月の新年号から『鬼平犯科帳』シリーズが始まった。

[浅草・御厩河岸]の主人公は密偵・豆岩だし、長谷川平蔵はほんの申しわけていどに顔をだすだけ。火盗改メとしての主役は佐嶋忠介である。

杉村ベテラン編集長は、[浅草・御厩河岸]での佐嶋忠介の描かれ方に着目、即座に連載を決定したのではあるまいか。
とすると、佐嶋忠介こそ、『鬼平犯科帳』誕生の真の功労者といってよかろう。

つぶ゜やき:
シリーズの3年前の[江戸怪盗記]は、その後、[妖盗・葵小僧]にリメイクされたが、この[江戸怪盗記]では、佐島という同心が葵小僧一味の逮捕のときに殉職しているのは、なぜか、あまり指摘されていない。

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2006.04.08

佐嶋忠介の登場篇リスト

(p=その篇に登場の最初のページ)
134 話/164 話(登場率:0.817 )

 [1-1 唖の十蔵]p10 新装p10
 [1-2 本所・桜屋敷]p49 新装p52
 [1-4 浅草・御厩河岸]p142 新装p145
 [2-1 蛇の眼]p29 新装p31
 [2-4 妖盗葵小僧]p157 新装p166
 [2-5 密偵]p199 新装p210
 [2-6 お雪の乳房]p256 新装p269
 [2-7 埋蔵金千両]p298 新装p315
 [3-6 むかしの男]p274 新装p287
 [4-2 五年目の客]p46 新装p48
 [4-3 密通]p84 新装p88
 [4-4 血闘]p139 新装p146
 [4-5 あばたの新助]p165 新装p173
 [4-6 おみね徳次郎]p218 新装p229
 [5-1 深川・千鳥橋]p21 新装p22
 [5-5 兇賊]p174 新装p183
 [5-6 山吹屋お勝]p247 新装p251
 [5-7 鈍牛]p246 新装p268
 [6-1 礼金二百両]p12 新装p12
 [6-3 剣客]p104 新装p110
 [6-4 狐火]p129 新装p136
 [6-5 大川の隠居]p201 新装p212
 [6-7 のっそり医者]p278 新装p290
 [7-1 雨乞い庄右衛門]p34 新装p34
 [7-2 隠居金七百両]p72 新装p75
 [7-3 はさみ撃ち]p107 新装p113
 [7-4 掻堀のおけい]p134 新装p140
 [7-5 泥鰌の和助始末]p183 新装p191
 [7-7 盗賊婚礼]p251 新装p263
 [8-1 用心棒]p34 新装p35
 [8-2 あきれた奴]p50 新装p52
 [8-4 流星]p141 新装p148
 [8-5 白と黒]p219 新装p221
 [9-1 雨引の文五郎]p20 新装p21
 [9-2 鯉肝のお里]p69 新装p72
 [9-3 泥亀]p114 新装p119
 [9-4 本門寺暮雪]p129 新装p136
 [9-5 浅草・鳥越橋]p205 新装p214
 [9-6 白い粉]p240 新装p251
 [9-7 狐雨]p249 新装p260
 [10-1 犬神の権三]p7 新装p7
 [10-3 追跡]p97 新装p102
 [10-4 五月雨坊主]p131 新装p138
 [10-6 消えた男]p216 新装p227
 [10-7 お熊と茂平]p270 新装p283
 [11-1 男色一本饂飩]p35 新装p36
 [11-2 土蜘蛛の金五郎]p54 新装p56
 [11-3 穴]p92 新装p96
 [11-4 泣き味噌屋]p130 新装p135
 [11-5 密告]p178 新装p185
 [11-6 毒]p230 新装p240
 [12-1 いろおとこ]p40 新装p41
 [12-2 高杉道場・三羽烏]p89 新装p93
 [12-3 見張りの見張り]p153 新装p161
 [12-4 密偵たちの宴]p171 新装p180
 [12-5 二つの顔]p224 新装p236
 [12-6 白蝮]p236 新装p275
 [12-7 二人女房]p332新装p347
 [13-1 熱海みやげの宝物]p43 新装p45
 [13-2 殺しの波紋]p63 新装p65
 [13-3 夜針の音松]p126 新装p131
 [13-4 墨つぼの孫八]p152 新装p159
 [13-5 春雪]p200 新装p208
 [13-6 一本眉]p247 新装p258
 [14-1 あごひげ三十両]p9 新装p9
 [14-2 尻毛の長右衛門]p66 新装p68
 [14-3 殿さま栄五郎]p111 新装p113
 [14-4 浮世の顔]p148 新装p153
 [14-5 五月闇]p205 新装p212
 [14-6 むらい松五郎]p247 新装p254
 [15 雲竜剣-1 赤い空]p11 新装p11
 [15 雲竜剣-2 剣客医者]p61 新装p63
 [15 雲竜剣-3 闇]p119 新装p123
 [15 雲竜剣-4 流れ星]p166 新装p172
 [15 雲竜剣-5 急変の日]p208 新装p208
 [15 雲竜剣-6 落ち鱸]p248 新装p257
 [15-雲竜剣-7 秋天晴々]p293 新装p305
 [16-1 影法師]p40 新装p42
 [16-2 網虫のお吉]p68 新装p71
 [16-3 白根の万左衛門]p116 新装p122
 [16-4 火つけ船頭]p166 新装p173
 [16-5 見張りの糸]p205 新装p213
 [16-6 霜夜]p285 新装p295
 [17 鬼火-1 権兵衛酒屋]p20 新装p21
 [17 鬼火-2 危急の夜]p55 新装p58
 [17 鬼火-3 旧友]p103 新装p107
 [17 鬼火-4 闇討ち]p148 新装p156
 [17 鬼火-5 丹波守下屋敷]p192 新装p197
 [17 鬼火-6 見張りの日々]p235 新装p242
 [17 鬼火-7 汚れ道]p274 新装p284
 [18-1 俄か雨]p17 新装p17
 [18-2 馴馬の三蔵]p77 新装p80
 [18-3 蛇苺]p82 新装p85
 [18-4 一寸の虫]p148 新装p153
 [18-5 おれの弟]p181 新装p187
 [18-6 草雲雀]p218 新装p226
 [19-1 霧の朝]p23 新装p24
 [19-2 妙義の團右衛門]p75 新装p78
 [19-5 雪の果て]p188 新装p194
 [19-6 引き込み女]p271 新装p280
 [20-1 おしま金三郎]p11 新装p12
 [20-2 二度あることは]p74 新装p77
 [20-3 顔]p123 新装p128
 [20-5 高萩の捨五郎]p203 新装p210
 [20-6 助太刀]p247 新装p256
 [20-7 寺尾の治兵衛]p260 新装p270
 [21-1 泣き男]p17 新装p17
 [21-2 瓶割り小僧]p49 新装p49
 [21-3 麻布一本松]p95 新装p98
 [21-4 討ち入り市兵衛]p123 新装p127
 [21-5 春の淡雪]p179 新装p184
 [21-6 男の隠れ家]p230 新装p238
 [22 迷路-1 豆甚にいた女]p11 新装p11
 [22 迷路-2 夜鴉]p44 新装p42
 [22 迷路-3 逢魔が時]77新装p73
 [22 迷路-4 人相書二枚] p117 新装p106
 [22 迷路-5 法妙寺の九十郎]p145 新装p138
 [22 迷路-6 梅雨の毒]p159 新装p151
 [22 迷路-7 座頭・徳の市]p195 新装p185
 [22 迷路-8 托鉢坊主]p229 新装p217
 [22 迷路-9 麻布・暗闇坂]p254 新装p241
 [22 迷路-10高潮]p280 新装p265
 [22 迷路-11引鶴]p350 新装p304
 [23 炎の色-1 夜鴉の声]p59 新装p56
 [23 炎の色-2 囮]p107 新装p104
 [23 炎の色-3 荒神のお夏]p151 新装p146
 [23 炎の色-4 おまさとお園]p182 新装p177
 [23 炎の色-5 盗みの季節]p215 新装p208
 [23 炎の色6 押し込みの夜]p237 新装p230
 [24-1 女密偵女賊]p39 新装p37
 [24-1 ふたり五郎蔵]p54 新装p52
 [24 誘拐-1 相川の虎次郎]p128 新装p122
 [24 誘拐-2 お熊の茶店]p156 新装p148
 [24 誘拐-3 浪人・神谷勝平]p179 新装p169

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2006.04.06

佐嶋忠介のキーワード

各文化センター〔鬼平〕クラスの受講者に、佐嶋忠介を象徴するキーワードを挙げてもらった。

●人柄
 真面目。信頼できる。人柄抜群。実直。人情味豊か。懐が深い

●性格
 温厚。沈着冷静。思慮深い。慎重。

●能力
 能吏。忠実なベテラン官僚。難事件も解決。判断力。切れ味。老巧
 な腕のふるいかた

●管理者として
 筆頭与力としての力量。力量抜群。仕事をしっかりこなす。組まと
 め役。理想的な中間管理者。統率力。頼りがいのある上司。あこ
 がれの男性。筆頭与力としての識見抜群。筆頭与力にふさわし
 い行動力。臨機応変の決断力。老巧。苦労人

●補佐役として
 名補佐役。陰の力に徹する。長官をたてていつも控え目。激務を
 代行。名参謀。なくてはならぬ相談役。的確な意見具申。完璧なナ
 ンバー2。もっとも信頼のおける部下。信頼に応える努力

●仕事ぶり
 寡黙に働く。精勤。

●ロイヤリティ
 長官と一心同体。長官を心から尊敬。長官に全身全霊をささげてい
 る

●私生活
 酒好き

●作品関連
 シリーズののっけからの活躍。全編で活躍。シリーズに不可欠の
 人物

つぶやき:
『鬼平犯科帳』の長編の各章を1話とみたてると、文庫24巻は164話で構成されている勘定になる。うち、佐嶋忠介が登場しているのは134話(81.7%)におよび、トップクラス。
それほど、物語になくてはならないキャラクターということであろう。

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2006.04.05

佐嶋忠介の印象の形成(その2)

(つづき)

204_1

佐嶋忠介を通じて、おまさに手当をあたえ、連絡(つなぎ)の方法もめんみつに打ち合せさせた。[4―4 血闘]p139 新装p146

「長官(おかしら)!」
捕手をひきいて、与力・佐嶋忠介が駈け寄った。
「佐嶋か……よく間に合うた」
「はっ……」
「それにしても、おそすぎる。いま一歩、おくれたら、おれはこの世にいなかったぞ」
「おそり入り……」[血闘]p157 新装p165

(おまさがおみねのお目こぼしを願ったので)すぐさま平蔵は、与力・佐嶋忠介をよびよせ、おまさを加えて策を練った。[4―6 おみね徳次郎]p218 新装p229

或朝。居間の庭に咲いている木槿(むくげ)の花をながめつつ、長谷川平蔵が茶を喫していると、庭へ、佐嶋忠介が入ってきた。
「お、佐嶋。おみねはどうしている?」
「あきらめきっております故か、元気も出てまいりました」
「気をつけるのだな、佐嶋」
「は……?」
「元気が出るとあの女、取調べのおぬしへ色目をつかうやも知れぬ」
「御冗談を……」[おみね徳次郎]p234 新装p245

「女という生きものは、みな一色(ひといろ)のようでいて、これがちがう。女に男なみの仕事をさせたときにちがってくるのだ。もっとも盗みの仕事ではないがな」
「はい」
「老巧なおぬしも、只ひとつ、女には疎(うと)いなぁ」
「おそれ入りました。まったく、その通りで……」[おみね徳次郎]p235 新装p246

205_1

捕らえた五郎蔵をわざと逃亡させたのは、ほかならぬ平蔵で、このことを知るものは与力(よりき)の佐嶋忠介、同心・酒井、竹内など、ふだんから密偵たちとの交渉が多い人びとにかぎられた。[5―1 深川・千鳥橋]p21 新装p21

(木村忠吾につかみかかった田中貞四郎を)与力・佐嶋忠介がなだめた。[5-7 鈍牛]p255 新装p268

平蔵の手紙を南町奉行・池田筑後守長恵へ届ける。[鈍牛]p264 新装p278

「まことにもって、このたびは、われら一同の……」
 与力・佐嶋忠介が一同を代表して両手をつき、わびをいいかけると、長谷川平蔵は佐嶋の声を、
「よせ」
 とさえぎり、
「辞めずにすんだよ」[鈍牛]p285 新装p299

206

「長谷川様も私も、どのようなことを耳にしたとて、決して他(ほか)へもらすようなことはありませぬゆえ、申されにくいことも、はっきりといっていただきたい」[6―1 礼金二百両]p26 新装p27

「女の移り香というものは、なかなか落ちぬものだな」
謹厳な佐嶋が、冗談をいったのは、はじめて。[礼金二百両]p26 新装p27

佐嶋が、ずっしりと重い二百両の包みをさし出すと、
「よし。これで当分は、泥棒どもをつかまえるための費用(ついえ)に困らぬな」
「はい」
「このようなことを、あえてするおれを……おぬしの御頭を、おぬしは何とおもうな?」
「は……」
佐嶋忠介は、ついにたまりかね、両手で顔をおおやった。
「泣くな、佐嶋……」[礼金二百両]p38 新装p40

与力・佐嶋忠介が指揮する一隊が千住・荒川岸の足袋師・留吉の家を包囲。[6―3 剣客]p104 新装p110

「もしやして、その女巡礼なるものは、狐火一味の引き込みをつとめたのではございますまいか。行き倒れの身を一夜、山田屋の世話になり、夜ふけに起き出し、内から戸を開けて一味を誘いこむという……」
と、与力の佐嶋忠介がいうのへ、平蔵はうなずいて見せ、
「おまさをさがしてまいれ。忠吾が行け」[6―4 狐火]p129 新装p136

粂八が帰って行くのと入れちがいに、与力・佐嶋忠介が何かの報告にあらわれ、
「粂八が、よくまいりますが、何か特別な探索でも?」[6―5 大川の隠居]p201 新装p212

「馬を飛ばして大宮へ行け。萩原宗順とおよしをつれもどせ」
すぐさま、与力・佐嶋に、沢田小平次をつけ、大宮の油屋へ急行せしめた。[6―7 のっそり医者]p278 新装p290

207

寝所から起きあらわれた長谷川平蔵が、いきなり、当直の与力・佐嶋忠介を呼びよせ、
「雑司ヶ谷の鬼子母神の本堂の床下を洗って見よ。もしやすると、白峰の太四郎の隠居金が見つかるやも知れぬ」
というではないか。
おどろいた佐嶋が、
「あの、去年の……?」
「そうだ」
「ようおわかりになりましてございますな」
「うむ……ま、行って見よ」
そこで佐嶋忠介が配下を引きつれ、鬼子母神へおもむき、二日にわたって本堂の床下をさぐってみたところ、なんと、本堂・北端の床下の敷石のずれた箇所を発見し、この下を掘り起こして見ると、鉄ぶちの木箱があらわれた。
ふたを叩きこわすと、中には、蝋で密封されたもう一つの木箱が出て来て、この中に七百両の小判がおさめられたいたのである。これには、平蔵のやり口に馴れている佐嶋忠介も、
「いやどうも、御頭は、おそろしい御方だ」
おもわず、身ぶるいが出たという。[7―2 隠居金七百両]p72 新装p75

そのころ……。
長谷川平蔵は、老巧のの与力・佐嶋忠介を居間へまねき、酒の相手をさせている。
庭に夕闇が淡くたちこめ、生垣の枸橘(からたち)が白い花をつけて、その香りが居間にまでただよってくるかのようであった。
「佐嶋。あの万屋小兵衛をなんとおもうな?」
「いえ、みなみなとも語り合うて、おどろいております」
「どのようにおどろいた?」
「常の商人(あきんど)とはおもえぬ肝のふとさにて、よう、あれだけのはたらきを……」
「それは、常の商人ではないからだ」
「なんとおせられます?」
「あの爺いが、まともに友蔵と打ち合えるものか。つまり、前々からしかるべく、友蔵を見張り、じゅうぶんの支度をととのえていたのさ」
「ははあ……?」
「ふ、ふふ……おれがにらんだところ、あの小兵衛も、たたけば埃が出ようよ」[7―3 はさみ撃ち]p107 新装p113

平蔵は沢田同心を、報告に来た伊三次につけて砂村新田へやり、すぐさま、手配にかかり、みずから与力・佐嶋忠介と密偵・相模の彦十をつれ、これも密偵の小房の粂八が経営する舟宿〔鶴や〕へ、日暮れ前から、出張(*でば)っていたのである。[7―4 掻堀のおけい]p133 新装p140

南新堀町一帯へも平蔵自身が微行巡回したり、与力・佐嶋忠介をはじめ、粂八・伊三次・おまさなど選(よ)りすぐった密偵の眼を絶えず光らせているのだけれども、どうにもこうにも、雲をつかむようなことになってしまっていた。[7―5 泥鰌の和助始末]p183 新装p191

「ふうむ……近ごろ、めずらしく、本格の盗(つと)めをしたようだな」
すぐには、何の手がかりもつかめぬと知ったとき、長谷川平蔵は、与力の佐嶋忠介へ、
「こうなれば、由松・お粂の父娘(おやこ)を洗うよりほかに道はあるまい。もっとも、その二人、まことの父娘ともおもえぬが、な」
と、いった。
佐嶋も同感である。
(これはもう、どうにも仕方がございませんな)
といった表情が、佐嶋の面上にただよっていた。[7―7 盗賊婚礼]p251 新装p263

208

ここでまた平蔵は、粂八と二人きりで、ひそひそと相談をかわし、
「このことは、佐嶋忠介とお前のみに知らせておく。なればくれぐれも、隠密の連絡(つなぎ)にぬかりのないようにな」
「はい。合点(がってん)でございます」
この夜、平蔵は駕籠(かご)をよんでもらい、清水門外の役宅へ帰って行った。
翌朝。
平蔵は、与力、佐嶋忠介を居間へよび、二人だけで、かなり長い間語り合っていた。[8―1 用心棒]p34 新装p36

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2006.04.04

佐嶋忠介の印象の形成

池波さんは、筆頭与力・佐嶋忠介の印象をどのように造りあげていったか、関連箇所を抜粋して並べてみた。
読みすすむだけで、自分の中に佐嶋像が浮きあがってくるはず。

201

長官が堀帯刀から長谷川平蔵に代ったとき「おれは堀様がはなさぬので、おぬしを残しておくようにはからった」と小野十蔵へ告げた。[1-1 唖の十蔵]p28 新装p29
*この篇で小野十蔵は、〔野槌〕の弥平一味の〔下総無宿〕の助次郎を追っていた。

老巧の人物[1―4 浅草・御厩河岸]p141 新装p148

五十二歳にしては若々しく見える温顔。[浅草・御厩河岸]p142 新装p149

平蔵が役目についたのは二年ほど前からで、その前は堀帯刀(ほりたてわき)がつとめていた。
ちなみにいうと、佐嶋忠介は堀帯刀に属する与力であって、堀が盗賊改メのときはこれをたすけ、縦横に活躍した男で、
「忠介で保(も)つ堀の帯刀」
などと、うわさをされたほどであった。[浅草・御厩河岸]p142 新装p150

敏腕の前警吏[浅草・御厩河岸]p143 新装p150

「昨日から、おれは長谷川様御役宅内の長屋へ移っている」[浅草・御厩河岸]p143 新装p151

誠意をこめた火のような舌鋒をもって説きすすめる佐嶋の情熱に、
(御公儀のお役人にも、このようなお人がいたのか……)[浅草・御厩河岸]p145 新装p153

202

平蔵の代行を与力の佐嶋忠介がつとめるかたち。[2―1 蛇の眼]p29 新装p31

長官がいいださぬことを訊き出そうとするような男ではない。[蛇の眼]p30 新装p31

与力の佐嶋忠介が、
(この男なら、やれる)
と、(〔ぬのや〕の弥市に)目をつけたからである。
一年後。佐嶋与力によって感化された弥市は〔密偵〕の役目をおびて牢から出され、[2―5 密偵]p199 新装p210

そこで佐嶋与力は、はじめて和やかな表情となり、
「ま、久しぶりだ。一緒に蕎麦でもやろう。ここの天ぷらはうまいぞ」[密偵]p205 新装p216

佐嶋の声には真心がこもっている。うわべだけのものでないことは、この五年間のつきあいで、弥市はしみじみと思い知っている。[密偵]p205 新装p217

あわただしく駈けわたって来た彼の人生において、佐嶋忠介と出会ったことが、仲間への裏切りを決意させ、皮肉なことに、生まれてはじめての〔家庭の人〕となり得たのである。[密偵]p206 新装p217

「独身(ひとりみ)では却(かえ)って怪しまれようし、それに、お前を一生、この仕事にしばっておくつもりはないのだよ」
[密偵]p207 新装p218

「私の密偵です。あのぬのやにいる者の顔はすべて見とどけてあります」[密偵]p217 新装p228

「ともあれ、この役目は佐嶋にしてもらわねばなるまい。佐嶋も厭な役だが……」[密偵]p231 新装p243

203

(四谷の)組屋敷から与力の佐嶋忠介が先ず、馬を飛ばして駈けつけてきた。[3―6 むかしの男]p274 新装p287

久栄は、老巧の佐嶋与力のみをわが部屋へ招き、近藤勘四郎のことをさしさわりのない程度に打ちあけた。[むかしの男]p275 新装p287

佐嶋忠介の命令一下、山田市太郎と酒井祐助、小柳安五郎、竹内孫四郎の四同心が身支度をととのえた。[むかしの男]p279 新装p292

「悪党どもを捕らえるのでございます。何のしんしゃくが要りましようや」[むかしの男]p280 新装p293

「かまわぬ。火をつけろ」
と佐嶋かいいはなったものだ。
「よ、よいのですか?」
これには、山田同心もびっくりしたらしい。
「荒っぽいのが火盗改メの名物よ」
いつになく、佐嶋は興奮している。[むかしの男]p282 新装p296

近藤勘四郎をはじめとする曲者四人は、長谷川邸内の土蔵の中へ押しこめられ、かたく縛りつけられたまま、取り調べもされずにおかれてあった。
これは佐嶋忠介の命令によるもので、[むかしの男]p286 新装p299

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