カテゴリー「130鳥取県」の記事

2006.01.15

因州(いんしゅう)浪人・河合伝内

『鬼平犯科帳』文庫巻6に収められた[狐火]で、初代〔狐火〕の勇五郎の先妻お勢が生んだ文吉には、10日早く妾お吉から生まれた又太郎という異腹兄がいた。そして、2代目〔狐火〕の跡目は又太郎に譲られた。
そのことを不服とした文吉は、〔狐火〕の2代目を僭称しながら一味で畜生働きをつづける。その文吉の軍師役を勤めていたのが因州(いんしゅう)浪人・河合伝内であった。

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年齢・容姿:40がらみ。たくましい顔立ち。
生国:因幡(いなば)国鳥取城下(現・鳥取県鳥取市)のどこか。

探索の発端:市ヶ谷・田町3丁目の薬種店〔山田屋〕を襲った賊は、主人夫婦と息子夫婦に奉公人を1人のこらず殺害、金品を奪った上で、屋内に3枚の〔狐火札〕を貼りつけていた。
同様の事件は、大坂でも起きている。
かつての銕三郎(平蔵の家督前の名前)時代に、お吉とできて先代・勇五郎にたしなめられたことのある平蔵は、〔狐火〕の仕業は他人ごとではなく、〔狐火〕2代目を男として開眼させたおまさの去就から目をはなさなかった。
それで、河合伝内名義となっている、隅田(すだ)村・木母寺近くの盗人宿の存在も知れた。

結末:隅田村の盗人宿に踏み込んだ鬼平の前に現れた河合伝内は、居合で対抗しようとしたが、高杉銀平師ゆずりの鬼平の技に、伝内はあっけなく殪されていた。

つぶやき:この編は、おまさと2代目〔狐火〕の勇五郎の情熱、2代目と文吉の対決が主題で、河合伝内は、終末近くに、鬼平の居合術を引き立てるために登場するだけだから、ほんとうは目こぼししてもいいのだが、自分の故郷出の脇役なので、人情として看過するわけにはいかない。

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2005.11.19

〔岡ノ井(おかのい)〕の弁五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻12に所載の好篇[密偵たちの宴(うたげ)]に〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵の配下として登場した〔岡ノ井(おかのい)〕の弁五郎は、16年前、お頭の五郎蔵へ、腕利きとして〔草間(くさま)〕の貫蔵を推挙した。
(参照: 〔大滝)〕の五郎蔵の項)
(参照: 〔草間〕の貫蔵の項)
しかし、五郎蔵は、「あいつの躰からは殺した人の血のにおいが、生臭く臭っている」といって遠ざけ、弁五郎には、「もう、あいつとつき合っちゃあいけねえぜ」と釘をさした。

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年齢・容姿:どちらも記述がない。
生国:因幡(いなば)国気高郡()けたかこおり岡井村(現・鳥取県気高郡鹿野町岡木)。
各種地名辞書に、「岡ノ井」は載っていない。それで、「岡井」で検索して、鹿野町にあたった。池波さんの頭にあった地名とは異なっているかもしれないが。
鹿野町は、ぼくが小学1,2年生を過ごした村から山一つ越したところにある。
村中総出で、文字どおり「兎を追いし」山で、なつかしい。
三河生まれの貫蔵と因幡出の弁五郎がどこで知り合ったかは不明。

探索の発端と結末:16年前のことなので、どちらもかかわりがない。

つぶやき:>[密偵たちの宴]は、五郎蔵たち密偵が、本格のお盗めの手本を示そうとした事件に、〔鏡(かがみ)〕の仙十郎一味がからんでくる物語である。貫蔵は連絡(つなぎ)役。
(参照: 〔鏡〕の仙十郎の項)
その貫蔵を説明するために、〔岡ノ井〕の弁五郎がかりだされたわけだが、同時に五郎蔵のお盗めぶりの解説役も兼ねている。
このあたりが、池波さんの人物の出し入れの巧みなところである。

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2005.01.08

〔荒金(あらがね)〕の仙右衛門

『鬼平犯科帳』文庫巻2に収録の[密(いぬ)偵]で、密偵をやっている弥一に売られた首領。
追捕された一味11名。

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年齢・容姿:不明。記述されていない。
生国:因幡国小田村字荒金(現・鳥取県岩美郡岩美町荒金)

探索の発端:鬼平の前任者・堀帯刀秀隆の時代のことなので不明。、どういう経緯でか捕らえられた、〔青坊主〕の弥一がきびしい拷問に耐えきれず、麻布広尾にあった一味の盗人宿を白状したために、〔荒金〕の仙右衛門はじめ一味の11名が捕まった。
うち、〔縄ぬけ〕の異名をもつ庄五郎が縄をほどいて逃走し、裏切り者の弥一の命を狙う。

結末:〔荒金〕一味は、縄ぬけした庄五郎を除いて、全員打ち首。4年後、密偵・弥一は庄五郎に殺された。

つぶやき:池波さんが座右から-放さなかった吉田東伍博士『大日本地名辞書』(冨山房 明治後半に刊行)には、「荒金」という地名は因幡国岩美郡の一つしかない。それで岩美町出身とした。

新潟県南魚沼郡大和町荒金は、未調査。

「荒金」とは、銅の古語(阿良加祢)。

岩美町役場 総務課長・向山さんからのメールに、「42代文武天皇2年3月に銅鉱を朝廷へ献上した経緯があり(略)、その後、武蔵野国も銅を献じて年号が和銅と改まったが、因幡(鳥取県)が献じたのはその7年前である。
荒金鉱山は、江戸時代にはあまり活発ではなかったようで、本格的な採掘は明治22年(1889)から。
経営母体もいろいろ移ったが、昭和18年(1943)の直下型地震による被害で採掘を中止したあとは、自然原水による沈殿銅採収になった。
現在は閉山。町は坑廃水処理に追われている」

1943年の鳥取地震のとき、ぼくは中学1年だったが、家も蔵も倒壊、すとんと垂直に落ちた蔵の屋根の庇の下でその夜、雨をしのいだ。

〔荒金〕の仙右衛門は本格派の大盗〔夜兎〕の角右衛門と親交があったというから、彼もまた「犯さず、殺さず、貧しきからは盗まず」の掟を守った本格派だったのだろう。古里・鳥取から一味を率いたお頭がでたことを誇りにおもう。

[密(いぬ)偵]での掘帯刀に対する池波さんの評価は、「なかなかの腕きき」ということだったが、連載が深まるにしたがって、評価は下がっていった。
堀帯刀はそれほどの切れ者ではなかったという史実が、だんだんに判明してきたのであろう。
堀帯刀の名誉のために付言しておくと、ご当人はともかくとして、ワイロをむさぼった用人のせいで世評を落としていた気配がつよい。

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