口合人捜(さが)し(4)
「実ぁな、爺(と)っつぁん。おまさを拐(かどわか)していったのは浪人者だということまではわかっておるのだが、裏にいる黒幕がわからない。
それで口合人という口合人に、こっそり、最近、上方から浪人の口合を頼まれたことはないか、探ってもらうわけにはいくまいか。爺っつぁんのところにひとり、口がかかるのをの待っているおんな賊がいるって餌つきで----」
平蔵(へいぞう 50歳)の案に興味をおぼえたらしい〔佐沼(さぬま)〕の久七(きゅうしち 71歳)がのりだしてき、
「その、おんな賊たぁ――?」
「爺っつぁんの横におるお糸(いと 38歳)は、所帯をもとうと約束していた男を〔鳥浜(とりはま)〕の岩吉(いわきち)が雇った浪人者に始末させた。おのれがやっている畜生働きを批判されたからだ。非は岩吉にあった。お糸の傷は癒えてはおるまい。この件で働いてまぎらせてもらうつもりだ」
「ありがたいことです。それではあっしは〔寺尾(てらお)〕の治兵衛(じへえ)どんあたりから声をかけてみやしょう」
久七の顔をまじまじと瞶(みつめ) た平蔵が、
「いまのご府内で顔見知りの口合人は、久七爺(と)っつぁん独りになってしまったっていわなかったかな?」
「えっ! そういたしやすと治兵衛どんも処刑を……?」
「いや。処刑ではない。気が触れた旗本に白昼、斬られた」
「なんて間の悪い……」
久七の眼が曇った。
(齢を経ると、世事にも耳遠くなると申しますが、治兵衛どんまで届かなくなってしまっているとは……」
「いや。あの件はお町(奉行所)が外聞がわるいともみ消した」
【参照】[寺尾の治兵衛]の事件は、聖典『鬼平犯科帳』文庫20[寺尾の治兵衛]
「 あと、知っていた口合人は、上州・高碕で張っている〔赤尾(あかお)〕の清兵衛(せべえ)と、浪人・西村虎次郎の口合人をしていた〔塚原(つかはら)の元右衛門(もとえもん)くらいだが、〔塚原〕は処刑されてしまっておる」
久七は平蔵の覚えのよさに下をまいた。
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コメント
病状は着実に進行中です。
そろそろかなというときにおもいつきました。1月中旬から食事も水の1滴も酒も喉を通していません。で、気がつきました。こんな死に方はつまんない。のみこみがだめなだけなんだから口に含んで吐きすてる贅沢味覚あじわいをすれば---とふてくされ。山形男児の會田さんからいただいた山形さくらんぼジュースとか京都の吉兆の桃ぜりーとか土佐の文旦とかを味わっています。主力は口中がすっきりするレモン水ですが。
投稿: ちゅうすけ | 2012.07.04 18:08