カテゴリー「127兵庫県 」の記事

2005.11.15

〔須磨(すま)〕の音次郎

『鬼平犯科帳』文庫巻21の巻頭に置かれている[泣き男]で、元盗賊の座頭・辰の市(50男)や浪人盗賊・青木源兵衛(40前後)たちのお頭だったのが〔須磨(すま)〕の音次郎である。
数年前に病没したあと、青木源兵衛が一味の追随者たちを率いて盗めをつづけている。
辰の市は足を洗い、15も歳下の女房・お峰(36,7歳)と平穏な暮らしをしていたが、夫婦で出入りしている四谷・伝馬町3丁目の文房具屋〔玄祥堂〕への押し込みの手引きを、源兵衛に強請されていた。

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年齢・容姿:どちらも記載がない。
生国:摂津(せっつ)国八部郡(やべこおり)西須磨村(現・兵庫県神戸市須磨区須磨本町)。
六甲山地の南西端で摂津国の西の隅が転じてスマとなったとの説が有力視されている。
須磨人の海辺常去らず焼く塩の辛き恋をも吾はするかも 「万葉集」巻17

探索の発端:音次郎は病没しているので、姿は見せない。
同心・細川峯太郎が非番で飲酒後に千駄ヶ谷あたりを散策中、青木源兵衛の躰に触れて投げ飛ばされた。
その源兵衛と見知りの座頭・辰の市が、仙寿院(渋谷区千駄ヶ谷2丁目)の前の小川の向こうの百姓家の庭にいっしょにいるところを見て怪しみ、鬼平に報告して、見張りがはじまった。
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仙寿院 庭中(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)

結末:捕縛のときに抵抗した青木源兵衛は、鬼平に斬られた。
一切を〔小房〕の粂八に相談していた辰の市はお構いなし。
(参照: 〔小房〕の粂八の項 )

つふやき:池波さんが物語の発想を『江戸名所図会』の長谷川雪旦の絵から発している例は数多い。
この篇は、引用した「仙寿院 庭中」と「千駄ヶ谷八幡宮(現・鳩の森神社)」に2景に拠っている。

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2005.09.22

〔切畑(きりはた)〕の駒吉

『仕掛人・藤枝梅安』文庫巻6,7に、大坂の暗黒街を仕切っていた〔白子屋(しらこや)〕菊右衛門の左腕だった〔切畑(きりはた)〕の駒吉は、菊右衛門と右腕の〔守山(もりやま)〕の繁蔵が梅安に殺された(巻5[東海道・藤枝宿])ので、敵を討って跡目をつぐ立場をしっかりさせようと、〔石墨(いしずみ)〕の半五郎ほかの腕ききの仕掛人を江戸へ送り込む。
(参照: 〔白子屋〕菊右衛門の項)
(参照: 〔石墨〕の半五郎の項)
その成果がなかなかにあがらないのにたまりかねたのと、江戸の〔音羽(おとわ)〕の半右衛門の地盤を奪うために、わざわざくだってもくるほどの熱のいれようである(巻7[襲撃])。

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年齢・容姿:どちらの記述もないが、40代と推測。
生国:摂津(せっつ)国川辺郡(かわべこおり)切畑村(現・兵庫県宝塚市切畑)。
「切畑」は、山を切り開いた焼畑につけられる地名であるそうな。
山口県防府市、新潟県五和泉市、山形県山形市にも「切畑」はあるが、〔白子屋〕菊右衛門が三重県鈴鹿市、右腕の〔守山〕の繁蔵が滋賀県守山市の出身と、池波さんの忍者もののテリトリー内であることをかんがえ、宝塚市をとった。

結末:巻7『梅安冬時雨』は未完---というより、末尾に(絶筆)と記されている。
したがって、梅安と彦次郎が>〔切畑(きりはた)〕の駒吉を始末する場面は描かれてはいない。

つぶやき:梅安たちの〔切畑〕が駒吉を迎え討って仕掛ける工夫は、読み手はいかようにも想像できる。
音羽9丁目に近い大洗堰での仕掛けを想像している。半右衛門の女房おくらがとり仕切っている料理茶屋〔吉田屋〕を観察したくなった駒吉が、夕暮れ、駕篭で目白坂をくだりながらささら窓ごしに〔吉田屋〕へ血ばしった目をはしらせたあと、江戸川橋の北側ぞいを西へ。おしげから聞いていた江戸の水道施設---大洗堰へ達したところで駕篭をちょっと下り、背伸びをして緊張をほぐそうとしたころへ、蓮華寺裏の崖を駆け下ってきた梅安がぶつかるようにしてぼんのくぼへ仕掛け針をずぶり。駒吉の躰は大洗堰の流れの中へころげ落ちた。
駕篭につきそっていた配下のくびには、彦次郎の吹き矢が---。

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目白下大洗堰(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)

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2005.06.29

〔有馬(ありま)〕の久造

『鬼平犯科帳』文庫巻7に収められている[隠居金七百両]で、首領の〔白峰(しらみね)〕の太四郎(72歳)から、3代目をゆずられることになっている痛みの幹部。
太四郎は、隠居金七百両を、4年前に病気で足を洗い、雑司ヶ谷の鬼子母神境内で茶店の亭主におさまっている[掘切(ほりきり)〕の次郎助に、隠居金700両を預けておき、近く妾おせいと江戸で隠居生活に入るつもりだった。
(参照: 〔堀切〕の次郎助の項)

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年齢・容姿:どちらも記載されていなが、40歳後半の気力充実の年代と推察。
生国:摂津(せっつ)国有馬郡(ありまごうり)有馬(現・兵庫県神戸市北区有馬)。
「有馬」は「有間」と書いた。「アリ(山)」と「マ(土)」、すなわち山間(やまあい)の土地との説がある。その証拠に「有馬」「有間」と名づけられている土地は、日本中、いたるところに存在する。
もっとも、この篇の場合、〔白峰(しらみね)〕の太四郎が上方から大和、播州へかけてを縄張りとしているので、有馬温泉の有馬と確定した。
文庫巻13[熱海みやげの宝物]でも、かつて彦十が、有馬の湯で湯治している〔馬蕗(うまぶき)〕の利平次へ見舞金をとどけたとあるから、池波さんの頭の中では、「有馬」といったら、まっさきに神戸市の有馬温泉が浮かんだはず。

探索の発端:この篇は、上方にいる〔白峰(しらみね)〕の太四郎一味を探索する物語ではなく、隠居金700両を奪おうとする〔奈良山(ならやま)〕の与市と[掘切〕の次郎助の抗争が表の筋だから、〔有馬〕の久造はチラっと名が出るだけである。

結末:太四郎の隠居金の預け先を〔奈良山(ならやま)〕の与市へ洩らしたのは、彼の姉で太四郎の妾のおせいだったというおそまつ。

つぶやき:池波さんの金銭感覚として、『鬼平犯科帳』の結末近くでは、1両を20万円とみている。
隠居金700両というと、1億4,000万円である。
子もいない72歳の〔白峰(しらみね)〕の太四郎と妾のおせいが、江戸の片隅---通勤などないのだから、芝居小屋としゃれた小間物屋や呉服屋に便利な町---の家を求めても、200両(4,000万円)もすまい。あと、何年生きて500両(1億円)を使うつもりだったのだろう。

元首領の〔瀬音(せのと)〕の小兵衛が、岡部宿の〔川口屋〕のおすみに、死に水ふくみの食い扶持として預けたのは100両(2,000万円)だった(もっともこの篇の発表時期---『オール讀物』1970年9月号---での池波さんの換算率は1両6万円だから、発表当時の金銭感覚だと、小兵衛が預けたのは600万円相当)。
(参照: 〔瀬音〕の小兵衛の項)
池波さんの頭の中でのインフレ進行は、20年たらずで3倍強になっていた。

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2005.06.24

〔棚釜(たなかま)〕の重四郎

『鬼平犯科帳』文庫巻12に所載されている[白蝮]のヒロイン・津山薫こと初子と組んで盗みをしている浪人くずれの男。

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年齢・容姿:30男。容姿の記述はない。
生国:播磨(はりま)国多可郡(たかごうり)多棚釜(たなかま)村(現・兵庫県多可郡加美(かみ)町棚釜)
多可郡は兵庫県東北で、棚釜は杉原川の支流の多田川の中流ぞいにある。
古くは、多田中間村と呼ばれたと。「多田」は鉱業用語の「たたら」で、その仲間---つまり多田の隣村といったほどの意。勝浦銅山にちなむ。
池波さんは、1976年に文藝春秋主催の講演で福知山市へまわっている。多可郡はそのときに認知したか。

探索の発端:谷中・天王寺の門前に遊所・いろは茶屋が軒を並べている。その1軒、〔近江屋〕の妓娼お照に、鬼平の息・辰蔵は夢中だった。
そのお照を52両2分で見受けしていった若武者ふうに男装した女がいた。女おとこ剣客が辰蔵に投げつけた白扇を、鍛冶町(橋の誤植)門外・五郎兵衛町の小間物屋〔丁子屋〕が上方から仕入れている品で、昨今、押し入った賊がついでに持ち去った10本のうち1本と鬼平がみて、探索がはじまった。

結末:同心・沢田小平次が白山権現社に近い指ヶ谷町2丁目に印判師の看板を出していることをつきとめ、2軒の盗人宿にいた一味ともども、検挙された。お初は、同門だった沢田小平次が殪した。
〔棚釜(たなかま)〕の重四郎は、指ヶ谷の家で逮捕。死罪であろう。

つぶやき:〔棚鎌〕は姫路藩(15万石)の領内であるが、重四郎が藩士だったとはおもえない。
要衝の地・姫路を城下町とする同藩は、しばしば藩主が変わっている。移封されてきた藩士で浪人となった者が、わさわざ辺境の地「多棚倉」の村名を「通り名(呼び名)」とすると考えるのはむずかしい。「多棚倉」村の郷士ででもあったか。

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2005.06.16

〔神戸(かんべ)〕の柿六

『鬼平犯科帳』文庫巻9に所載の[雨引の文五郎]は、タイトルにもなっている一人ばたらきの〔雨引(あまびき)〕の文五郎と、こちらも一人ばたらきの〔落針(おちはり)〕の彦蔵との、盗人同士の決闘の物語。
(参照: 〔雨引〕の文五郎の項)
(参照: 〔落針〕の彦蔵の項)
決闘の種となってのが、〔神戸(かんべ)〕の柿六である。
文五郎と彦蔵はもとは、飛騨から甲信をテリトリーとしていた〔西尾(にしお)〕の長兵衛の右腕と左腕だった。それが、彦蔵が桑名城下で藩士を殺害、長兵衛の盟友の〔初鹿野(はじかの)〕の音松に預けられているうちに、文五郎が長兵衛の信頼を一人占めしてしまった。
戻ってきたが、おもしろくない彦蔵は、一味を抜けて凶悪な一人ばたらきに。
〔西尾〕の長兵衛が没すると、文五郎も2代目への要請をふりきって、一人ばたらきに。
〔落針(おちはり)〕の彦蔵が、大坂・心斎橋筋の足袋屋〔形名屋(かたなや)〕で畜生ばたらきをしようとした寸前に、〔雨引(あまびき)〕の文五郎が店へ投げ文をし、凶行を未然に防いだ。
彦蔵が雇った助っ人の柿六が親友の文五郎へ企みを報らせたのである。

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年齢・容姿:どちらも記述されていないtが、〔雨引〕の文五郎と格別親しかったというから、30代か。
生国:播磨(はりま)国宍栗郡(しそうこうり)神戸(かんべ)村(現・兵庫県宍栗郡一宮町伊和(いわ))
三重県亀山市出身の〔落針〕の彦十とのからみや伊賀忍者関連でいうと同県鈴鹿市、松阪市、上野市、津市の神戸町も考えられる。静岡県引佐(いなさ)郡、愛知県東春日井郡、奈良県宇陀郡などの神戸もある。
大きな神社があれば神戸があり、(かんべ)(こうべ)と呼ぶ。
浅野内匠頭や大石内蔵助関連の取材をすすんめていたことや、播磨国一の宮・伊和神社(祭神・大己貴神 おおなむちのかみ、少彦名神 すくにひこなのかみ)にことよせて、一宮町を採った。

探索の発端:大坂・心斎橋筋の足袋屋〔形名屋〕の事件が、未然に防がれた経緯は、上記のとうりである。

結末:処刑の記述もないし、所在も不明。したがって、文五郎の自裁も知らされない。

つぶやき:こういう脇役の探索がもっとも手こずる。リサーチ資料ばかりがいたずらに増えていく。伊和神社からも「由緒略記」を取り寄せた。

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2005.06.02

〔福住(ふくずみ)〕の千蔵

『鬼平犯科帳』文庫巻5に収録の[女賊]で、かつての盗め仲間で、駿州・岡部に引退している〔瀬音(せのと)〕の小兵衛に、息子の幸太郎が女賊[猿塚(さるづか)〕のお千代に、たらしこまれていると告げ、すぐに上方での仕事へ急いだ現役(いまばたらき)の盗人。
(参照: 〔瀬音〕の小兵衛の項)

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年齢・容姿:50男。商人風。
生国:播磨(はりま)国明石郡(あかしこうり)福住(現・兵庫県加西市福住)。
名古屋市中川区、岐阜市の福住も候補にはあげたが、滋賀県甲賀市生まれの〔瀬音〕の小兵衛と30年にもわたって気のあったつきあいをしているというし、上方での盗めに出かける途中に岡部へ立ちよっているから、近畿圏を優先した。
兵庫県出石(いずし)郡出石町、同県多岐郡篠山町のは(ふくすみ)と濁らない。それで加西市の(ふくずみ)を採った。

探索の発端:この篇の主役は、〔瀬音〕の小兵衛と女賊の〔猿塚〕の落千代、それに父親が〔瀬音〕をよく手伝っていたことから、事件にかかわりをもつことになった女密偵おまさである。
(参照: 女密偵おまさの項)
〔福住(ふくずみ)〕の千蔵は、〔瀬音〕へ見たことを告げるだけ告げると、そのまま舞台から消える。

結末:舞台から消えたままで、その後のことには触れられない。

つぶやき:聖典には、魅力的な女賊が幾人も登場するが、躰をはっては以下を統率する〔猿塚(さるづか)〕のお千代もそのひとり。40を越えていて28,9にしか見えないというのだから、現代女性なみで゛ある。
ところで池波さんが、「女賊(おんなぞく)」という呼称を与えたのは、このお千代が最初。文庫巻3の[艶婦の毒]のお豊は[女盗(にょとう)]であった。
「女賊」という呼び方が考案されてから、魅力的な女盗人(おんなぬすっと)が創造されたともいえそうである。

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2005.04.11

〔名草(なぐさ)〕の綱六

独立短篇[白浪看板]は、 『別冊小説新潮』1965年夏号に発表された、長谷川平蔵をあしらって『鬼平犯科帳』の先駆をなす2篇目の作品である(角川文庫『にっぽん怪盗伝』1972.12.20に収録。のち新潮文庫『谷中・首ふり坂』1990.02.25では[看板]と改題)。

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7年前、〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門一味が駿府(静岡市)城下の紙問屋〔大和屋〕へ押し入ったとき、配下となった 〔名草(なぐさ)〕の綱六は、塀外の見張りをしてい、逃げ出してきた飯炊き女の右腕を切り落とした。
(参照: 〔夜兎〕の角右衛門の項)

年齢・容姿:ともに書かれていない。むごいところのある男だったが、お頭・角右衛門の綱六評。
生国:丹波(たんば)国氷上郡(ひかみこおり)大名草村(現・兵庫県養父郡八鹿町石原)。吉田東伍博士『大日本地名辞書』には名草神社が収録されている。
ひそんいる備前(びぜん)国児島郡(こじまごおり)下津井(しもつい)村(現・岡山県倉敷市下津井)から、それほど遠くはない八鹿町推定した。
下津井村は前掲『大日本地名辞書』に記述があるが、池波さんがこの項に目をとめたわけは未詳。

探索の発端:下谷・広徳寺前で拾った財布を落とし主へわたしてやった女乞食の誠意を誉めて、〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門は、彼女をともなってうなぎを馳走してやり、右腕をなくしたわけを聞かされて愕然とした。
7年前、駿府の紙問屋で盗めをしたときの、塀外の見張りにつけた〔名草(なぐさ)〕の綱八の所業だったからだ。
守ってきた「犯さず、傷つけず、貧しきからは盗まず」の3カ条が破られたことを悟った。綱六は、〔蛇(くちなわ)] の平十郎にたのまれて使ってみただけの男だったのだが。

結末:3カ条が破られていたことを恥じた〔夜兎〕の角右衛門は、一味を解散、右腕だった〔前砂(まいすな)〕の捨蔵に、備前国下津井にそひんでいる綱六の始末をまかせた。
(参照: 〔前砂〕の捨蔵の項)
〔前砂〕は、角右衛門の留守宅へ首尾の報告に来た。

つぶやき:[白浪看板]に先立つ2年前、『週刊新潮』(1964.01.06号)に[江戸怪盗記]が掲載された。火盗改メ・長谷川平蔵が初めて池波作品にあらわれたわけだが、鬼平でシリーズをつくりうる機がすぐそばまで来ていることに、編集者たちは思いがおよばなかった。
[白浪看板]が発表されても、まだ、気づかなかった。
あしかけ2年後、『オール讀物』のために[浅草・御厩河岸]を書いた池波さんは、たまりかねて、原稿を受け取りにきたた若い編集部員・花田紀凱氏へ、「この篇の長谷川平蔵というのはおもしろい仁だ」と謎をかけた。
これをきっかけに、『鬼平犯科帳』のいう大連作がはじまった。

〔名草〕を「通り名(呼び名)」にしている盗賊は、『鬼平犯科帳』にも登場する。足利の〔法楽寺〕の直右衛門配下の嘉兵衛がそう。
(参照: 〔法楽寺〕の直右衛門の項)。

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