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2005.09.17

〔白子屋(しらこや)〕菊右衛門

『鬼平犯科帳』文庫巻3の所載の[麻布ねずみ坂]で、指圧医師・中村宗仙(62歳)に、500両で愛妾・お八重(29歳)をゆずると約束した、大坂の香具師の元締〔白子屋(しらこや)〕菊右衛門。
3年前、お八重は京・東寺の境内茶屋〔丹後や〕の経営をまかされており、宗仙の指圧の妙技に、つい、割りない仲となってしまったが、菊右衛門の知られて、けっきょく、売られるような形となった。
江戸へ出てきた宗仙は、富裕な患者専門に高額の施療料をとっては500両に達する金を、取立てにきた浪人・石島某へわたしたが、〔白子屋〕はお八重をよこす代わりに、刺客を送ってきた。

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年齢・容姿:50男。容姿はこの篇には記されていないので『殺しの四人』(講談社文庫)の[秋風二人旅]から引く。50男。でっぷりした体格--ただし、[麻布ねずみ坂]は寛政4年(1792)の事件、[秋風二人旅]の舞台は、7年後の同11年(1799)。
生国:屋号の〔白子屋〕を(しらこ)でなく(しろこ)と読むと、伊勢(いせ)国:奄芸郡(あんきこうり)白子(しろこ)町(現・三重県鈴鹿市白子)。
池波さんのルビどおり(しらこ)だと、山形県西置賜郡小国町白子沢、福島県岩瀬郡天栄町白子、千葉県安房郡丸山町白子、同千倉町白子と、大坂とは縁遠くなる。
40歳代で大坂の香具師の元締にまでのぼりつめるには、きわめて若い時分から大坂の暗黒街の水に染まっていなければ、とかんがえると、伊勢国の白子(しろこ)と見たい。とりわけ、池波さんは鈴鹿あたりになじみがふかい。

探索の端緒:中村宗仙の指圧治療を受けた鬼平が、高額の施療料に疑問をもち、同心・山田市太郎に見張らせたところ、浪人・石島某が本所・両国一帯を牛耳っている香具師の元締・〔羽沢(はねざわ)〕の嘉兵衛のもとに出入りしていることが分明。
(参照: 浪人・石島精之進の項)
(参照: 〔羽沢〕の嘉兵衛の項)

結末:〔白子屋〕菊右衛門が派遣した浪人・石島某は、取り立てた金をネコばばして、上州・高崎に念流の剣術道場を構えていた。送金が途絶えたのでお八重は殺された。
〔白子屋〕が派遣した刺客を捕えた鬼平は、石島某の悪事を告げ、〔白子屋〕のもとへ返すと、菊右衛門は500両を宗仙へ送ってよこした。
宗仙は、その半金で麻布・永坂の光照寺(昭和40年に八王寺市絹ヶ岡3丁目へ移転)に、お八重の墓を建てた。

つぶやき:〔白子屋〕菊右衛門は、『仕掛人・藤枝梅安』の準主役の一人でもある。梅安は、菊右衛門に仕掛人として仕こまれ、最後には菊右衛門と壮絶な対決をすることになる。その経緯は同シリーズで。
付記すると、藤枝梅安は寛政11年に35歳だから明和元年(1764)の生れで、延享3年(1746)生れの長谷川平蔵より18歳若い。

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コメント

国道23号線沿いに車を走らすと
この〔白子〕のあたりをが通ります。

いつも池波さんのお話のなかでは、
そうですね「しろこ」とルビがふってあるな、
とは思いながらも、素通りしておるだけでした(汗)

池波さんは鈴鹿のあたりになじみが深いのでしたか・・・・

確か、「鬼平」のほうにも上方の大物として(名前だけでしたが・・・)
何度か出てきておりましたよね。

そういえば、劇場版「鬼平」に、登場してました。
藤田まこと氏が演じておられました。

投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.09.18 17:46

国道23号ぞいですね。

こんど、鈴鹿を探索しようとかんがえていました。
いい情報を、ありがとうございます。

『鬼平犯科帳』の[麻布ねずみ坂]では、凶悪だがものわかりいい悪に描かれていましたが、『仕掛人・藤枝梅安』では、義理を立てるというより、自分が決めた掟に反する者は容赦しない直情的な男に変っていました。

鈴鹿人の気質なんでしょうか。

藤田まことさんなら、屈折した悪を表現できたでしょうね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.09.19 02:44

私の書き込み誤字が多いですね・・・(汗
失礼しました。

そういえば、10年以上前です・・・
カメラだけ持って近鉄電車に乗り白子駅で下車、
周辺をぶらぶらしたことを思い出しました。

当時は駅は改装されたばかりでしたが、
周辺はそのピカピカの駅とは対照的で、"いい感じ"(私には、です)でした。
昼食のため入った小さい古い定食屋さん、これまた"いい感じ"でした。

あのあたり今はどうなってるのかな?
そのお店、、、もうなくなってるのかな?

投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.09.19 09:12

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