カテゴリー「044沢田小平次」の記事

2006.11.30

沢田小平次の「小平次」

「真剣(ほんみ)で斬りあったら、おれもかなうまい」と、鬼平がその刀技をみとめている同心・沢田小平次の名前について、おもいあたることがあった。

藤野 保さん『徳川幕閣---武功派と官僚派の抗争』(中公新書 1965.12.15)の冒頭の章[武功派の時代]に、「徳川四天王の活躍」との項があり、

  惣先手侍大将、忠次 四天王の一人、酒井忠次(ただつぐ)
  は、譜代の最上位を占める酒井忠親の次男として、大永七年
  (1527)三河に生まれた。
  酒井氏は、始祖広親に氏忠・家忠のニ子があり、氏忠の子孫
  が代々左衛門尉を称したのに対して、家忠の子孫は代々雅
  楽助(うたのすけ)(あるいは雅楽頭うたのかみ)を称した。
  忠次は、左衛門尉家に属し、はじめは小平次、ついで小五郎
  といった。

池波さんは、『鬼平犯科帳』シリーズ化に先立つ忍者ものに、徳川家康やその軍団を登場させている。
そのとき、酒井忠次のことも調べていて、武勇にすぐれたこの武将の幼名・小平次を記憶したか目にして、沢田小平次を登場させたとき、とっさにその名を小平次と書いたのではなかろうか。

いや、どうでもいいような---というより、記録にも値しないようなおもいつき的な発見なんだし、事実かどうかもわからないけれど、当人にとっては、1俵分のもみ粒の中から精米した1粒を見つけたように、「やったぁ!」的な大発見に思えるから始末が悪い。

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2006.07.14

できる部下

剣の達人が出てこない時代小説は魅力が一欠け、といわれる。時代小説には裏長屋人情もの、艶もの、妖怪ものもあったりするから、必須の条件ではないが…。

火盗改メ・長谷川組の同心30人(小説では殉職した7人をふくめて44人登場)の中で、存在感で5指にはいるのが沢田小平次だ。

5初登場は遅くて、寛政2年(1790)の事件 [兇賊]で、老母と2人暮らし。26歳で独身だった。

その後は99話中68話に登場しているから登場率は約70パーセント。小数点3ケタのところで木村忠吾におくれをとっているものの、トップクラス。

「まともに斬りあったら、おれもかなうまい」
と鬼平が太鼓判をおす一刀流の免許皆伝
それだけに修羅場では平蔵も深く頼りにしており、強力な助っ人が必要とふんだときには彼を指名する。
小平次もこころえていて、長官(おかしら)の期待に応える。

ついでだが、もうひとり剣が強いのは同心筆頭の酒井祐助柳剛流の免許持ち。
ただこの人には印象にのこるほどのチャンバラ場面がない。
小平次 [剣客] [白蝮]で1対1の真剣勝負で冴えを披露する。

[兇賊]から寛政7年春の[白蝮]まで足かけ6年、小平次に許婚や結婚の気配はない。テレビでの真田真一郎さんだと、子どもの3,4人もいる感じだが…。

酒井同心小柳安五郎が文庫巻1[血頭の丹兵衛]から顔を見せているのに、小平次が出おくれたのは、最初のうち、鬼平の剣の強さを薄めてはいけないと池波さんが考えていたからかもしれない。
もっとも鬼平が剣技の冴えを見せるのも第6話[暗剣白梅香]からだが。

連載が長期化してくるにつれて鬼平ひとり、あるいは岸井左馬之助とふたりだけの剣技では飽きられると危惧(きぐ)したのだろう。

さて、小平次鬼平が「かなうまい」というほどの腕の持ち主であっても、鬼平の1500石高の地位をおびやかす存在にはぜったいならない。
江戸幕府――中央官庁では、同心はいつまでたっても30俵2人扶持の同心なのだ。
安心して腕前をほめていられる。
そこがいまの中間管理職と異なる。

できる部下はほしい、が、自分の地位をおびやかすほどに力量があっては困る。
もちろんパソコンのシステム構築とかインターネットによる情報収集ではむこうのほうが上ということはある。

上に立っている者の第一の職務は人事管理――これなら負けないはず。
できすぎる部下には持てる力をこころおきなく発揮させる、ほめあげる、それで心服させる。

そういうのにかぎって自惚れが強い?
小平次の人柄を一言でいうと「控え目」
できる部下に『鬼平犯科帳』を読ませ、酒場で読後感談義にことよせた小平次論で、いい添える。
「女性は、強くて控え目な小平次に好感をもつのだと」

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2006.04.10

同心・沢田小平次

初出の篇
 [5-5 兇賊]
 長谷川平蔵に随行、三国峠で〔網切〕の甚五郎を待ち伏せ

その後の登場篇
 99話中75話に(登場率 75.8%)

容姿
 額が出ばって、その下に細い眼

特技
 一刀流の免許皆伝。師は松尾喜兵衛
 「まともに斬りあったら、おれもかなうまい(平蔵評)」
 で、斬合いが予想されるときは指名される。

差し料
 河内守国助 2尺 4寸余。亡師ゆずり銘刀。

家族
 [誘拐]まで独身。組屋敷で老母と2人暮らし。

年譜
明和2年 生  小柳安五郎より2歳年少
 (1765)    木村忠吾より3歳年長

天明6年 22歳 長谷川平蔵が組頭に着任
 (1786)
天明7年 23歳 組が火盗改メ助役
 (1787)
天明8年 24歳 組が火盗改メ本役
 (1788)
寛政元年 25歳
 (1789)
寛政元年 26歳 長官に随行し三国峠へ[5-5 兇賊]
 (1790)   
寛政3年 27歳 剣の師を失い、敵を討つ[6-3 剣客]
 (1791)
寛政7年 31歳 津山薫と勝負[12-6 白蝮]
 (1795)

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