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2005.09.14

〔網切(あみきり)〕の甚五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻5に収録されている諸篇のなかでも、とくに秀逸と世評の高い[兇賊]である。
飄々とした味の賊〔芋酒・加賀屋〕の亭主〔鷺原さぎはら)〕の九平(くへえ)
に対して、何篇かに片鱗を見せつつ、ついに正体をあらわした凶悪な首領〔網切(あみきり)〕の甚五郎---この対も見事なら、鬼平の若き日の正義感と、甚五郎の父親〔土壇場どたんば)〕の勘兵衛の非道ぶりも、あざやかな対極。

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年齢・容姿:50男。痩せてはいてもがっしりとした骨組み。細い両眼、細っそりと形のいい鼻。厚く大きい唇。
生国:武蔵(むさし)国江戸の本所(現・東京都墨田区のどこか)。

探索の発端:ひとりばたらきの小盗〔鷺原〕の九平が倶利伽羅峠で、「今度はお頭、ぜひにも江戸で、鬼の平蔵の血を見なくちゃあおさまりませんねえ」と話しあう2人連れの盗賊を見かけた。
次に、九平の店の「芋酒」を賞味にきた浪人風が、夜鷹に酒をおごり、「人なみって、人でねえか。お前もおれも、このおやじも----」とやさしい言葉をかけたのが鬼平と知って、好意をもった。
その鬼平が、〔網切〕一味の姦計に、向島の料亭〔大村〕で危機一髪と、火盗改メに急報。

結末:おくればせながら駆けつけた与力・佐嶋忠介、同心・酒井祐助ら7名が一味の数名は逮捕したが、〔網切〕の甚五郎と〔文挟ふばさみ)〕の友吉(ともきち)、〔野尻 のじり)〕の虎三は、巧みに火盗改メの網の目をくぐりぬけて本拠の越中へ向った。
が、倶利伽羅峠へ先回りしていた鬼平に、甚五郎は斬り倒された。

つぶやき:この篇までに登場した〔網切〕一味は、文庫巻4[おみね徳次郎]での、〔山彦(a< href="http://onihei.cocolog-nifty.com/edo/2005/08/strongstrong_d1e9.html">〔やまびこ)〕の徳次郎と〔佐倉( さくら)〕の吉兵衛(きつべえ)がいる。
同じく[あばたの新助]では、〔文挟〕の友吉、〔神崎(こうざき)〕の弥兵衛(やへえ)、そして本篇の〔野尻〕の虎三である。


池波さんに〔網切〕の「通り名(呼び名)〕のヒントを与えたとおもわれる、鳥山石燕画図百鬼夜行』から妖怪「網剪」の絵を添付する。蚊帳を切る妖怪と解説されている。
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コメント

編切りの甚五郎は悪党中の悪、前後にこのような凶悪なのはいませんね。

「この、大村の者はどうした?」
「25人、残らずあの世に行ってもらったよ」
「ーーー今この料理屋の女中に化けているのもおれが手下だ。ーーーーー」

騙されて料亭大村に赴いた平蔵は歯ぎしりし
ています。

ビデオで甚五郎を演じている青木義朗の名演技は大したものだと感心しています。

投稿: edoaruki | 2005.09.15 15:40

>edarukiさん

お久しふりでした。

そうですね、〔網切〕の甚五郎は、シリーズ中でも、悪人中の悪人の一人ですね。

悪人がうまく描かれていないと、鬼平の強さ、法をまもる志がくつきのしません。

その意味で、人のよい〔鷺原〕の九平とは好対照ですね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.09.18 14:29

石燕の絵の、すだれが明暗2段に分かれているのは、どういう次第なんでしょうね。

廊下のこちら側に吊られているから、縁側の向こうの庇とも考えられないし---。

投稿: ちゃゅうすけ | 2005.11.18 10:33

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