カテゴリー「008長谷川宣尹」の記事

2007.05.02

『柳営補任』の誤植

ゴールデン・ウィークなので、肩の凝らない笑い話を。

長谷川家の6代目当主・権十郎宣尹(のぶただ)が、延享5年(1748)正月10日に卒したのにともない、西丸の小姓組の現役のjままの死だったので、辞職願い、死亡届け、実妹・波津の養子願い、宣雄との婚姻願い、跡目相続願いなどを順次上呈した。

受け取ったのは、組頭牟礼清左衛門葛貞(かつさだ)。

_150

牟礼清左衛門葛貞が西丸の小姓組の何番手だったかを確かめるために、 『大日本近世史料 柳営補任(りゅうえいぶにん) 巻1 (東京大学史料編纂所)を開いた。
七番手だった。
西丸では1番手。番頭は久松松平長門守定蔵(さだとも)。
久松松平と鬼平こと長谷川平蔵宣以(のぶため)の関係も、このブログで何度も明かしている。

牟礼清左衛門---寛保2戌年(1742)10月15日当組より(昇進)
            宝暦5亥年(1755)8月15日御先手

Photo_346

ふむふむ。 で、なんとなく、後任者に目をやった---というとカッコウがいいが、じつは、一瞬、錯覚したのである。
跡目相続を許された平蔵宣雄が、同年---ということは寛延元年(1748)10月に西丸の小姓組へ出仕がかなったと(ありようは、西丸の書院番)。

後任者---
神尾新五左衛門長勝---宝暦5亥年
(1755)8月25日当組より(昇進)

(えッ? 田沼時代に勘定奉行所で敏腕をふるった、あの神尾 (かんお)若狭守春央(はるなか)の一族が、平蔵宣雄の上司?)

と、 『寛政譜』3冊の神尾の項で、新五左衛門長勝を探した。3冊計17ページ、くまなく精査したが見当たらない。行きつ戻りつ、2時間。やはり、いない!

(うん。そういえば、田沼時代の執行者一族は、すべてA3判に貼りなおして一覧シートをつくっていたっけ)
と、神尾一門を取り出してき、目を細めて眺めた。

(う?)
[春由(はるよし)]の項に、「母は神保新五左衛門長治が養女」!

__8

「神尾」じなく--- 「神保」!

「神保」が収録されている『寛政譜 巻18』を取りに立ちあがろうとして、頭が冷静になった。

(待て! 平蔵宣雄が最初に就いた役は、西丸小姓組ではなくて、書院番士ではなかったか? そっちを先に確かめろ!)。

けっきょく、宣雄書院番士だったから、神保新五左衛門とは無関係

それにしても、 『柳営補任』「神尾新五左衛門」誤植、きのうまで発見されずにきたわけだ。
1963年3月25日初版発行、1997年9月25日に復刻されている。
ぽくの手持ちは後者だが、初版から復刻までの34年間、だれも「神尾新五左衛門」に用がなかったらしい。
いや、まあ、それほどの重要人物ではなかったということなんだろう。

| | コメント (4)

2007.04.21

寛政重修諸家譜(17)

長谷川伊兵衛直系の最後の仁となった、6代目・権十郎宣尹(のぶただ)には、若干の疑点がある。

360_60

その1.なぜ、歴代当主の名である伊兵衛を継がなかったか。
『寛政譜』に記されているのは、権太郎、修理、権十郎

その2.享保10年(1725)9月1日、11歳で将軍・吉宗に御目見しているが、なぜ、急いだか。

とりあえず、9代目・辰蔵宣義(のぶのり)が幕府へ上呈した[先祖書]を写してみる。

                  宣安総領
一、六代目  生 武蔵  長谷川権十郎宣尹
   右権十郎義
   享保十六年辛亥年(1731)四月六日 父伊兵衛宣安跡
   式賜 小普請入 永見新右衛門支配
   元文二丁巳年(1737)十月廿日 竹中因幡守支配之節
   西丸御書院番 水野河内守組え御番入被命

これには、幕臣の家督にとって必須事項である御目見の年月日が脱落しているのに、『寛政譜』にあるのは、気づいた編輯者が辰蔵宣義へ問い合わせて補ったのであろう。
もちろん [先祖書]辰蔵自身が筆をとって書いたとはおもえない。用人か代書人の手によっていよう。

[寛政譜(15)]に、権十郎宣尹の生年を、父・宣安が39歳の正徳5年(1715)とした。遅い継嗣の誕生である。
宣尹御目見のときは宣安は50歳。
推測だが、このときすでに、宣安の躰は長谷川家の家病にむしばまれつつあったのではなかろうか。

宣安の死は、それから5年とちょっとあとで、17歳になっていた宣尹への跡目裁可は、3ヶ月後。

[先祖書]にあって『寛政譜』では省かれている小普請入りだが、支配の永見新右衛門為位(ためたか)は、清康・広忠以来の家柄で、3050石。51歳で、上司としてはおおようで、すでに病気がちだった宣尹には申し分のないご仁。

永見為位は4年後に甲府勤番支配に転じ、後任の支配は竹中因幡守定矩(さだのり)と[先祖書]にあるが、『柳営補任』『寛政譜』周防守定矩。竹中一門に因幡守はみあたらない。斉藤道三以来の家柄。2230石。
小普請支配は享保20年(1735)、47歳。

権十郎宣尹西丸御書院番入りしたのは、23歳。46歳で番頭となっていた水野河内守忠富(ただよし)は、水野一門でも家柄は古いほう。5700石。
宣尹が休みやすみに勤めていた寛保3年(1743)閏4月15日には大番の頭へ転じた。

辰蔵宣義の上呈[先祖書]へ戻る。

延享二乙丑年九月 板倉筑後守組之節
病気ニ付願之通 閏十二月小普請入
竹中周防守支配ニ入 後快ニ付
延享四丁卯年 再御奉公 奉願同年
五月十二日 西丸小姓組 松平長門守え御番入
被命

家名・家禄を守るために、頑張っている姿が痛々しい。悲劇の人---といっておこう。
代打要員の平蔵宣雄御目見できない存在だったこともあったろう。
再奉職した延享4年(1747)といえば、4歳違いの従弟・平蔵宣雄が、のちの鬼平、鉄三郎を得た翌年で、宣尹は33歳。
翌年の正月10日には、小姓組番士のまま、歿。その数ヶ月前から病床に伏せていたろう。

屋敷は、祖・宣次(のりつぐ)以来の、赤坂築地中之町(港区赤坂6-11)

360_61
(「ハセ川イ兵」とあるのがそう。547坪)

けっきょく、御目見をしていない宣雄は、養女の婿という形で跡目相続が許された。

| | コメント (2)

その他のカテゴリー

001長谷川平蔵 | 002長谷川平蔵の妻・久栄 | 003長谷川備中守宣雄 | 004長谷川平蔵の実母と義母 | 005長谷川宣雄の養女と園 | 006長谷川辰蔵 ・於敬(ゆき) | 007長谷川正以 | 008長谷川宣尹 | 009長谷川太郎左衛門正直 | 010長谷川家の祖 | 011将軍 | 012松平定信 | 013京極備前守高久 | 014本多家 | 016三奉行 | 017幕閣 | 018先手組頭 | 019水谷伊勢守勝久 | 020田沼意次 | 021佐嶋忠介 | 032火盗改メ | 041酒井祐助 | 042木村忠吾 | 043小柳安五郎 | 044沢田小平次 | 045竹内孫四郎 | 051佐々木新助 | 072幕臣・大名リスト | 074〔相模〕の彦十 | 075その他の与力・同心 | 076その他の幕臣 | 078大橋与惣兵衛親英 | 079銕三郎・平蔵とおんなたち | 080おまさ | 081岸井左馬之助 | 082井関録之助 | 083高杉銀平 | 088井上立泉 | 089このブログでの人物 | 090田中城かかわり | 091堀帯刀秀隆 | 092松平左金吾 | 093森山源五郎 | 094佐野豊前守政親 | 095田中城代 | 096一橋治済 | 097宣雄・宣以の友人 | 098平蔵宣雄・宣以の同僚 | 099幕府組織の俗習 | 101盗賊一般 | 103宮城県 | 104秋田県 | 105山形県 | 106福島県 | 107茨城県 | 108栃木県 | 109群馬県 | 110埼玉県 | 111千葉県 | 112東京都 | 113神奈川県 | 114山梨県 | 115長野県 | 116新潟県 | 117冨山県 | 118石川県 | 119福井県 | 120岐阜県 | 121静岡県 | 122愛知県 | 123三重県 | 124滋賀県 | 125京都府 | 126大阪府 | 127兵庫県 | 128奈良県 | 129和歌山県 | 130鳥取県 | 131島根県 | 132岡山県 | 133広島県 | 136香川県 | 137愛媛県 | 139福岡県 | 140佐賀県 | 145千浪 | 146不明 | 147里貴・奈々 | 148松造・お粂・お通・善太 | 149お竜・お勝・お乃舞・お咲 | 150盗賊通り名検索あ行 | 151盗賊通り名検索か行 | 152盗賊通り名検索さ行 | 153盗賊通り名索引た・な行 | 154盗賊通り名検索は・ま行 | 155盗賊通り名検索や・ら・わ行 | 156〔五鉄〕 | 157〔笹や〕のお熊 | 158〔風速〕の権七 | 159〔耳より〕の紋次 | 160小説まわり・池波造語 | 161小説まわり・ロケーション | 162小説まわりの脇役 | 163『鬼平犯科帳』の名言 | 165『鬼平犯科帳』と池波さん | 169雪旦の江戸・広重の江戸 | 170その他 | 172文庫 第2巻 | 173文庫 第3巻 | 174文庫 第4巻 | 175文庫 第5巻 | 176文庫 第6巻 | 177文庫 第7巻 | 178文庫 第8巻 | 190文庫 第20巻 | 195映画『鬼平犯科帳』 | 197剣客 | 199[鬼平クラス]リポート | 200ちゅうすけのひとり言 | 201池波さんの味 | 205池波さんの文学修行 | 208池波さんの周辺の人びと | 209長谷川 伸 | 211御仕置例類集 | 212寛政重修諸家譜 | 213江戸時代制度の研究 | 214武家諸法度 | 215甲子夜話 | 216平賀源内 | 217石谷備後守清昌 | 219参考図書 | 220目の愉悦 | 221よしの冊子 | 222[化粧(けわい)読みうり]