カテゴリー「169雪旦の江戸・広重の江戸」の記事

2006.11.15

鎧の渡し

鎧の渡し

明治5年(1872)以来、鎧橋が架かってれいるが、鬼平のころは渡し舟が小網町と萱場町を往来していた。

名の由来は、源義家が下総国へ渡ろうと、鎧を沈めて暴風雨を鎮めたことによると。

雪旦は、舟に数名の男女客を乗せ、遅れた猿回しを桟橋にあしらい、渡舟が庶民の足であったことを物語る。
小網町側の河岸には倉庫が余地なくびっしのと並び、商売のはげしさ、にぎやかさを告げる。
(塗り絵師・豊島のお幾 鬼平熱愛倶楽部)
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広重は、町むすめを舟中に立たせて、なにを語ろうとしたのだろう。倉庫の切れ目---親父橋、思案橋のむこうの艶っぽい地区を、タイトル[鎧の渡し小網町]にことよせて、暗示したかったか。
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日本橋川の規模、商売の殷賑さは、雪旦のほう巧みに表現しているとおもうが、どうだろろう。

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2006.11.13

初音の馬場

馬喰町・初音の馬場

馬喰横山駅(都営地下鉄・新宿線)のA1を出て、ちょっと北西に歩いたあたりにあった馬場。
馬喰横山駅ギャラリーは、鬼平熱愛倶楽部がしょっちゅう、『江戸名所図会』塗り絵展に利用させていただいているから、おなじみ。

雪旦は珍しく、真正面にでんと、火の見櫓をすえて、「わしだって構図・遠近法のイロハぐらい心得とるわい」と。
もっとも、馬場は近くの餓鬼どもの遊び場。
(塗り絵師・永田永司 鬼平熱愛倶楽部)
027_1

広重は、色合いで勝負---いささ逃げ気味。これでは、「初音の馬場」の規模も伝わらない。
ま、幕臣たちが馬術をおこたっていたので、染屋が「ちょっと拝借」していたことはわかるが。
320_21

佐藤雅美さんの直木賞受賞作『恵比寿屋喜兵衛手控え』(講談社文庫)は、広重の絵をなぞり、

---北風がさえぎるように吹いて馬場に干してある幾枚もの、色とりどりの反物をはためかせた。
 馬喰町は御入国(家康の江戸への入国)当初、馬と馬喰が集まった町で、ここ初音の馬場は御武家が馬を責めたところだが、戦などということの絶えて久しい当節は、火除地のようになっていてふだんは西へ数丁の、紺屋町の染物職人の染物の干場につかっている---

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0027馬喰町馬場

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藍染川、神田紺屋町

藍染川、神田紺屋町

雪旦の『江戸名所図会』に刺激をうけた広重は、版元とともに江戸土産としての『江戸百景』を企画、119景を描いた。

うち、雪旦に対応したのは95景あまり。

もっとも、当代売れっ子の広重が、雪旦のように現場をいちいち踏んだか、内弟子にスケッチをさせたものを下絵にしたかは、わからない。

ただ、この[神田紺屋町]は、中心部のことではあるし、広重の心象風景とおもって相違あるまい。
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近景で翻っている反物を、作家・佐藤雅美さんは、直木賞受賞作『恵比寿屋喜兵衛手控え』(講談社文庫)で、
 
 ---裁って手拭にするのだろう、目にそれとはっきり柄がわかるのは、吉原つなぎや芝翫縞など藍そめの木綿の反物だ---

と見ている。
遠景に富士を配す。売り絵の目玉は霊峰と桜花だ。
ただ、広重は、富士を置きすぎる。119景中14景。
雪旦は、約670景中わずかに10景。

同じ町内を、雪旦は[藍染川]に象徴させている。
染物を干す前に流れでさらすからだろうか、水が藍色に染まっているので、川名も藍染川。
(塗り絵師・常盤町の昌枝 朝日カルチャーセンター新宿 元[鬼平]クラス)
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流れをのぞいている男のつぶやき。
「藍染川っていうから、鯉も藍色にそまっているかとおもったら、緋鯉は緋色、黒鯉は黒いままだぜ」

平岩弓枝さん『御宿かわせみ』のヒロイン・るいは、いう。
「紺屋が藍染をこの川で洗うからだっていいますよ。でも、逢い初めと書いて、逢初川だという人もあるんです」[9-4 藍染川]

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0023藍染川

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2006.11.11

神田明神社

神田明神社

江戸期の神田明神の境内は、雪旦の俯瞰図からさっするに、明神坂に直接に面しているほど、ひろかったのではあるまいか。

門前で甘酒を商っている天野屋の天野弥一社長を取材したときに聞いておくんだった(といっても、神田台地の地下に、後楽園球場よりも長い麹倉をもっているとかいってたから、相当古くから境内を借りていたらしい。後楽園が広さのたとえにでたほど、昔の取材。楊枝の山本会長が社長だったころと同時期)。

まあ、雪旦の俯瞰図で、むかしの広大な境内を想像するしかないか。
(塗り絵師・むらい 鬼平熱愛倶楽部)
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広重は、境内の広さ比べを避けて、曙の神田台地の景。そんなに早朝参詣者が多かったのかしらん。
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0447神田明神社

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2006.11.10

駿河町

駿河町 越後屋呉服店

雪旦の絵には、
 元日のみるものにせん不二の山 宗鑑
が添えられている。
元日、商店は表戸をおろして、大晦日、遅くまで商いに精をだした慰労と売り上げの〆をおえて、朝寝をむさぼっていよう。
そんなときにこれだけの人出?---と疑えば、季節は春、富士がまとう雪も五合目あたりかもしれない。

しかし、宗鑑の句は、伊達には添えられていまい。

富士は白無垢の上衣を羽織っているとみたい。

雪旦は、通りをはさんで越後屋を左右に、真正面には霊峰を配した。日本一の景色を持つ町である。この景観は残してほしかった。
(塗り絵師・笛吹川の博介 朝日カルチャーセンター新宿 元[鬼平]クラス)
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広重は、縦位置に雪旦の間口をせばめただけみたい。土産絵にはそれで十分だったか。
 江戸の駿河にも日本一があり 古川柳
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蛇足だが、広重が『名所江戸百景』中で、霞をたなびかせた唯一の例。

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0006駿河町三井呉服店

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高輪うし町

高輪うし町

大寺院や江戸城の増築の資材運びに、大量の牛車が下向してきた。その数、千頭近かったという。

牛たちの住まいは、高輪大木戸の外へ置かれた。動物臭と騒音公害のためだったろう。俗称・牛町、正しくは車町。

とはいえ、絵で見てる分には臭ってはこない。
で、雪旦は、動物園の案内図のように、厩舎の配置図のようにあくまで精緻に描いて実を伝えようとする。
(塗り絵師・小金井の住人 朝日カルチャーセンター新宿 元[鬼平]クラス)
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広重は、画題は[高輪うしまち]ながら、いつもの伝で、クロースアップした天を衝くかじ棒で三角空間をつくり、虹をからませる。円を描く車輪の向こうには、牛に代えて2匹の犬。中景色して捨てられた片草履、西瓜の食べ滓、遠景に袖ヶ浦へ帆行する舟。
虹の色合いはともかく、大胆な構図で臭いや啼き声もみごとに見手の意識から消し去る。
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地誌の挿絵と土産絵の対蹠。

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0088高輪牛町

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中川の魚漁

中川の魚漁

趣味としての釣魚と、職業としての投網。
前者にはゆとりが感じられるが、後者はせきたてらる生活の匂いが濃い。まあ、魚にとってみれば、どっちも迷惑な話だが。

広重の[利根川ばらばらまつ]は、どこを描いたものか、しばらく考えこんだ。
ある人の書いたものに、旧中川は利根川の支流だったとあった。
それなら、雪旦の[中川釣鱚]と並べてもいいかな、とおもった。

広重は、例によって広がった投網を手前に大きく配する。網目の粗さからいって獲物は鯉か、鮒か。
(そういえば『鬼平犯科帳』で池波さん、「声(鯉)が高いッ!」「鮒が安い!」 このギャグを2度使ってたなあ)。
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雪旦は、竿。釣人の愉しげな表情を捉える。
(塗り絵師・新大橋の登美 朝日カルチャーセンター新宿 元[鬼平]クラス)
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0631釣鱚

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湯島天神

湯島天満宮

「別れろ切れろは、芸者の時に言われること」---悲痛なセリフと白梅の香り。
いまではお蔦の心意気よりも、受験に受かるかどうかの悲願のほうが有名だが、湯島天神というと、風景の色気について考えてしまう。

もっとも池波さんは、雪旦も広重も描き、戦前の境内からは望見できた不忍池の風情を懐かしんでいる。
夜鴉の鳴き声に不吉な予感をおぼえた密偵おまさが、〔峰山(みねやま)〕の初蔵お頭に声をかけられたのも、湯島天神の境内だった([21 炎の色])。
それがきっかけになって、おまさはレスビアンの女賊〔荒神(こうじん)〕のお夏に惚れられ、未完の[24 誘拐]へと連鎖していく。

雪旦は、樹木や通り人の姿態で風景に色気を添える。遠景の女性の場合、定型化されているようで、仔細にみるとそうではない。歩き方にも表情をのぞかせている。
(塗り絵師・永代橋際蕎麦屋のおつゆ)
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広重には、多色という武器がある。ただ、この絵では雪でその武器を覆い、赤色をきわだたせ、さらに、満面の湖水。恋うる女と待つ男。
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0452湯島天満宮

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両国の花火

両国・花火

両国橋の絵では、雪旦も広重も夜景を描く。
名物催事---川開きの花火だから当然夜景なのだが、ここで、白黒絵の雪旦と、多彩画の広重の夜景の数を見てみ.る。

雪旦が夜景を描いている情景は、両国・花火のほかには、 佃島 白魚網 、五月五日 六所宮祭礼之図 、落合蛍、蛍沢、道潅山聴虫、新吉原、新吉原仲之町八朔図、小名木川 五本松、梅若丸の10景、これらに夜明け前とおぼしい木挽町芝居戯場(しばい)、堺町葺屋町を加えて13景。

ほとんどの絵を府内にとどめた広重は、夜闇の色が使えるから、花火のほかは、永代橋佃しま、王子装束ゑの木大晦日の狐火、御厩河岸、浅草川首尾の松御厩河岸、真乳山山谷堀夜景の6景。

雪旦vs.広重 江戸+近郊vs.江戸、白黒絵vs.多色絵刷り、670余景vs119景---で、13景vs6景をどう読むかは人それそれ。

雪旦の両国橋は、1丁半---つまり3ページ、人出はたっぷり。花火が2本。
(塗り絵師・みやこのお豊 鬼平熱愛倶楽部)
0030_1

広重は、縦位置の1枚ものなので、花火は1本だが一面に飛び散る火玉。人出は橋上だけ。納涼船の数は、似たような密度。
320_12

広重の夜色は、1景々々違っている。識別し、情感の異なりを感じ取らせる力量は、さすが。白黒絵の雪旦には、その楽しみが封じられている。塗り手が創りだすしかない。

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0030両国橋

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2006.11.09

内藤新宿

整理していたら、[大人の塗り絵]に、広重の『名所江戸百景』をつけ加えるプランを立てたときのメモがでてきた。
参考までに、転記しておく。

まず、手順を考えてみた。
1.広重の「百景」はB4。わが家のスキャナーはA4。
  B4→A4へカラーコピー
  (今朝、テストしてみたら、20景にかれこれ1時間。
   とすると、100景に5時間)

2.スキャニング。3景=20分 100景=11時間

3.トリミングとリサイズ 3景=30分 100景=17時間

4.ブログへの取り込みとキャプション付け、リンクづけ
   1景=10分 100景=17時間

5.計51時間として、1日2時間あてて26日

上記は自分用のメモ。

タイトルは『百景』だが、実際には119景あるから、この試算の2割増しとなった。

これをやり遂げておいたから、[雪旦の江戸・広重の江戸]が短時間---といっても、1場面45分かかるのだが---まあ、なんとかつづけられそう。

四ッ谷内藤新宿

雪旦の新宿は、すべての絵の中で、もっとも生なましい宿場を描いている。池波さんなんか、この絵から、『剣客商売』の下っ引き・傘徳の女房を創造したことだろう。
(塗り絵師・田無の弱法師 鬼平熱愛倶楽部)
290_1

広重は、駅馬のお尻をクロースアップ。構図の奇抜さは認めるが、これで内藤新宿を猥雑さが十分に出ているとは、ちょっといえない。
320_11

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0290四谷内藤新宿

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