カテゴリー「106福島県」の記事

2005.09.23

〔牛尾(うしお)〕の又平

『鬼平犯科帳』文庫巻20の巻頭に置かれている[おしま金三郎]で、盗めぶりが急ぎばたらきに変ってきたので、タイトルに名前があがっているヒロイン---女賊おしまに愛想づかしをされ、火盗改メに差された〔牛尾(うしお)〕一味の首領の又平。
(参照: 女賊おしま の項)

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年齢・容姿:どちらも記述がない。
生国:岩代(いわしろ)国河沼郡(かわぬまこうり)牛尾村(現・福島県耶麻郡西会津町下谷)
牛尾村は、明治8年(1875)に黒沢村ほか3か村と合併して下谷村となった。
『鬼平犯科帳』には〔牛尾〕の〔通り名(呼び名」を称しているもう1人の盗賊がいる。
2005年 2月26日に、静岡県島田市の旧金谷地区の牛尾出身として紹介した〔牛尾〕の太兵衛である。親子兄弟ではないのだから同じ土地にすることもあるまいとおもい、福島県の西会津町を採った。
というのも、2004年12月に、町役場の商工観光係の斉藤俊一郎さんから資料の送付をうけていたことによる。
千葉県香取郡多古町の牛尾でもよかったのだが。

探索の発端:冒頭に記したように、女賊おしまが同心・松波金三郎に密告と交換に抱かれた。それで、2か所の盗人宿が明らかになり、監視がはじまった。

結末:大伝馬町の提灯問屋〔河内屋〕へ押し入ろうとした〔牛尾〕一味18名が捕縛された。

つぶやき:「牛尾」という地名は湧き水「潮(うしお)」に由来すると教わった。西会津町の「牛尾」も長谷川の東岸にあり、旧郡名が「河沼」だからなんとなく湧き水に関係がありそう。明治8年の若松県管内地誌資料によると戸数15、人口66。米作中心の農業が主で、ほかに紙づくりも行っていたらしいと。
母親の勤務の関係で、小学校1,2年生を日本海側の山間の村ですごした。和紙づくりで生計を立てていた村だったが、乾燥過程に飛散する紙粉で胸の病に倒れる人が多かった。
又平が村をすてた動機もわかりそうな気がする。

追記:福島県耶麻郡西会津町役場 商工観光課 斎藤さんからのリポート

1.牛尾村の合併の経緯
牛尾村は江戸時代から明治8年まで存在した。若松県は当時の行政区である大区小区制(大区は郡単位、小区は町村レベルの区域)のうちの小区を改め、合併を行った。
その結果、牛尾村は近隣の小杉山村、黒沢村、出ヶ原村、山口村と合併し、下谷村が誕生した。
その後、下谷村は下記のとおり、西会津町となる。

2.西会津町誕生の時期と範囲
昭和29年7月1日、河沼郡野沢町・尾野本村・登世島村・睦合村・下谷村・群岡村・上野尻村・宝坂村・耶麻郡新郷村・奥川村の1町9村が合併して誕生。
面積293.32kh、当時の人口19,289人。戸数3,083戸。

3.合併当時の牛尾村の規模と産業
『明治8年区画改正 若松県管内地誌資料』より
牛尾村 村高 207石3斗3升4合 人口 66人 戸数 15戸
[参考]昭和29年 西会津町合併直前の下谷村全体の規模。
下谷村 人口 1,092人 戸数 162戸
産業 米作中心の農業が主。その他に紙作りも行っていたらしい。

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2005.05.18

〔穴原(あなはら)〕の与助

『鬼平犯科帳』文庫巻20に収録の篇で、タイトルとなっている口会人の[寺尾の治兵衛]がことは、すでに紹介している。
この〔寺尾(てらお)〕の治兵衛とともに、かつては〔蓑火(みのひ)〕の喜之助の下で薫陶をうけていたが、一味が解散したときに貰った引退金(ひきがね)で、品川の先の海辺に近い大井村に小さな家を買ってひっそりと暮らしていた。が、治兵衛が最後の盗めをするというと、自分の家を盗人宿として利用することをすすんで承諾した。

220
(参照: 〔寺尾〕の治兵衛の項)
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)

年齢・容姿:60をこえている。容姿の記述はない。
生国:岩代(いわしろ)国会津郡(あいづこうり)穴原(現:福島県南会津郡舘岩(たていわ)町穴原)。
上野(こうづけ)国利根郡(とねこうり)穴原村(現:群馬県利根郡利根村穴原)も候補地の1つだが、会津の穴原は、化政期(19世紀初頭)に家数15軒という記録と冬期の積雪をかんがえると、病気持ちの与助としては故郷へ帰ることをためらったであろうと推察して、会津の方をえらんだ。
ついでだが、会津も利根も(あなばら)と濁って発音する。

探索の発端: 〔寺尾〕の治兵衛のほうから〔大滝〕の五郎蔵に声をかけ、それから探索がはじまった経緯は治兵衛の項に記しているので省略。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)

結末:〔穴原〕の与助も捕まり、治兵衛から預かっていた170余両は、お上が没収。それにしても、〔蓑火〕一味が解散してからかなり日がたっている。時効というのはなかったのだろうか。あるいは、鬼平は、与助の病躯を気づかってやらなかったか。

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2005.05.10

〔飯坂(いいさか)〕の音八

『鬼平犯科帳』文庫巻13に所載の[殺しの波紋]で、辻褄あわせのような形でつくりだされ、殺される盗人。
辻褄あわせといったのは、本筋の事件---火盗改メの与力・富田達五郎の2件の殺人を目撃させるために、〔犬神(いぬがみ)〕の竹松が現場に居合わせた状況づくりのために、音八が竹松に殺されることになっているから。
殺しの動機は、〔犬神〕の竹松一味の音八が、分配金について不満をいいたてていたため。

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年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:岩代(いわしろ)国伊達郡(だてこおり)飯坂(現・福島県伊達郡川俣町飯坂)。
福島市に温泉で知られる飯坂町があるが、この男の性格から推測して、そういう賑やかしい土地の出身ではないと見たい。
ほかにも越中国新川郡飯坂新村(現・冨山県中新川郡上市町飯坂)もある。が、脇役も脇役、とるにたらないほどの端役なので、深追いするのもどうかとおもう。

探索の発端:大川(隅田川)ぞい、浅草・今戸に3体の死体が流れついた。その中の一体が〔飯坂(いいさか)〕の音八だったが、調べはすすまなかった。つまり、殺しではあったが身元不明者ということで捜査が打ち切られたのである。

結末:富田与力の殺人現場を目撃した〔犬神〕の竹松は、富田を強請っており、配下の者が富田を尾行しているところを逆に〔平野屋〕の番頭・茂兵衛が尾行、浅草・阿倍川町の盗人宿を見つけ、竹松とその情婦お吉など4名を逮捕。これで全員というほど小さな盗人集団だった。

つぶやき:富田与力は、1年前の行きがかりの殺人を隠しとおしたために、その目撃者をつぎつぎ消していかねばならなくなり、けっきょく、自滅する。
一つのウソを口に、そのウソを糊塗するために次のウソを考え出し、ウソが雪だるま式iふくらんでいく話はよくある。
殺人では、10年ほど前、スコット・スミスという新人作家が、一つの殺人をかくそうとして連鎖殺人をおかしていく心理劇に近い『シンプル・プラン』(扶桑社ミステリー 近藤純夫訳)を発表、大喝采を得たことがある。もっとも、10年も経つとミステリー小説は読者層が新陳代謝するためか、はたまた短命はエンターテインメント作品の宿命なのか、いまでは『シンプル・プラン』が話題にのぼることは稀である。ほんとうは、世界のミステリー・ベスト100に入ってもおかしくない秀作だったのだが。
ひきかえ、池波作品の息の長さはどうだ!

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2004.12.26

〔赤観音〕の久兵衛


『鬼平犯科帳』文庫巻2[妖盗葵小僧]の副ストーリーに登場した一味。
凶悪な仕業を荒稼ぎする盗賊団の首領。

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年齢・容姿:不明。記述がない。
生国:陸奥国白川郡薄木(現・福島県石川郡古殿町大字松川字薄木)
薄木の馬頭観音の俗称「赤観音」からとった「通り名」か。

探索の発端:1年がかりの探索---とあるだけで、どうやって端緒をつかみ、どう手配したか、まったく触れられていない。

結末:上州・高崎へ出張った鬼平に、7名が捕縛された。凶悪の一味とあるから獄門がふさわしい。

つぶやき:かつて開かれていた森下文化センター〔鬼平〕クラスに、会津若松から毎回受講にきていた熱心な婦人が、ぼくのHPの書き手の一人--[会津若松のおくまさん]だ(森下文化センターを本拠としている熱愛倶楽部とは別のクラス)。
郷土史の熱心な研究家で、独自にあれこれ調べていらっしゃる。

「福島県の石川郡に流鏑馬の町として知られる古殿町があります。そこは1994年に白川郡から石川郡へ変更となりましたが、塩の道といわれたいわきへ抜ける御斎所街道の途中に薄木地区といわれる集落があります。そこに赤観音があると聞きました。これって、[妖盗葵小僧]に顔見せする盗人の一人ですね。
赤観音はいいつたえによりますと、ここを通りかかった人の馬が崖下へ落ち、奇跡的に立ち上がりいなないたので、感謝して観音さまを彫らせたとのことです」

おくまさんのリポートである。

〔赤観音〕一味が御用となったのは、上州・高崎である。あのあたりにも、馬頭観音があったような記憶がある。あれは、〔赤観音〕とは呼ばれてはいなかったか。高崎あたりの鬼平ファンの方コメントからのいただきたいところ。


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