〔飯坂(いいさか)〕の音八
『鬼平犯科帳』文庫巻13に所載の[殺しの波紋]で、辻褄あわせのような形でつくりだされ、殺される盗人。
辻褄あわせといったのは、本筋の事件---火盗改メの与力・富田達五郎の2件の殺人を目撃させるために、〔犬神(いぬがみ)〕の竹松が現場に居合わせた状況づくりのために、音八が竹松に殺されることになっているから。
殺しの動機は、〔犬神〕の竹松一味の音八が、分配金について不満をいいたてていたため。
年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:岩代(いわしろ)国伊達郡(だてこおり)飯坂(現・福島県伊達郡川俣町飯坂)。
福島市に温泉で知られる飯坂町があるが、この男の性格から推測して、そういう賑やかしい土地の出身ではないと見たい。
ほかにも越中国新川郡飯坂新村(現・冨山県中新川郡上市町飯坂)もある。が、脇役も脇役、とるにたらないほどの端役なので、深追いするのもどうかとおもう。
探索の発端:大川(隅田川)ぞい、浅草・今戸に3体の死体が流れついた。その中の一体が〔飯坂(いいさか)〕の音八だったが、調べはすすまなかった。つまり、殺しではあったが身元不明者ということで捜査が打ち切られたのである。
結末:富田与力の殺人現場を目撃した〔犬神〕の竹松は、富田を強請っており、配下の者が富田を尾行しているところを逆に〔平野屋〕の番頭・茂兵衛が尾行、浅草・阿倍川町の盗人宿を見つけ、竹松とその情婦お吉など4名を逮捕。これで全員というほど小さな盗人集団だった。
つぶやき:富田与力は、1年前の行きがかりの殺人を隠しとおしたために、その目撃者をつぎつぎ消していかねばならなくなり、けっきょく、自滅する。
一つのウソを口に、そのウソを糊塗するために次のウソを考え出し、ウソが雪だるま式iふくらんでいく話はよくある。
殺人では、10年ほど前、スコット・スミスという新人作家が、一つの殺人をかくそうとして連鎖殺人をおかしていく心理劇に近い『シンプル・プラン』(扶桑社ミステリー 近藤純夫訳)を発表、大喝采を得たことがある。もっとも、10年も経つとミステリー小説は読者層が新陳代謝するためか、はたまた短命はエンターテインメント作品の宿命なのか、いまでは『シンプル・プラン』が話題にのぼることは稀である。ほんとうは、世界のミステリー・ベスト100に入ってもおかしくない秀作だったのだが。
ひきかえ、池波作品の息の長さはどうだ!
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