おまさ、[誘拐](7)
当ブログに不思議なキャラが登場している。
〔中畑(なかばたけ)〕のお竜(りょう 享年33歳)であった。
銕三郎(てつさぶろう 27歳=当時)より6歳年長であった。
なにが不思議かというと、大盗・〔蓑火(みのひ)〕の喜之助(きのすけ)と、これも盗賊としては横綱格・〔狐火(きつねび)〕の勇五郎(ゆうごろう)につかえたおんな賊であった。
しかも、ただの引きこみなどではない。
お竜は、軍者(ぐんしゃ 軍師)という格で両巨頭のためにはたらいたのである。
【参照】2009年1月27日~[〔蓑火(みのひ)〕と〔狐火(きつねび)〕] (1) (2)
聖典『鬼平犯科帳』には、お竜というおんな賊のキャラは登場していない――という声は当然である。
池波さんは、元盗賊の首領・〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵(ごろうぞう)の口を借りて、
「おんなという生きものには、どうしても、わからねえところがある」
「男とは躰の仕組みがちがう所為(せい)かもしらねえ……その日その日でがらりと気分が変ってしまうおんながいるものだよ。おまさは、それが少ないほうだとおもうが」([炎の色]p77 新装版p )
気分の急変ぶりは男に理解ができないところだと慨嘆している。
所帯をもっている男性なら、共感できる台詞であろう。
いや、軍者の気分がその日の気温や雲の形で変化しては、危なっかしい。
それはともかく――。
五郎蔵が〔蓑火(みのひ)〕の喜之助(きのすけ 享年67歳)の下で修行をかさね、〔五井'(ごい)〕の亀吉(かめきち 享年50歳近く)とともに並び頭(がしら)として独立をゆるされていた時期があった。
統率者が2人――というのは、相手の気分を害しては、という遠慮が双方にあるから、人物をみるのにも手薄になるところがある。
そこを衝かれて亀吉は命をおとした。
〔小妻(こずま)〕の伝八(でんぱち)のような腹黒い男を配下に加えたのがそのいい証拠であるが、昔のことはともかく、いまはおまさの物わかりのいい亭主として夫婦で平蔵につかえ、密偵たちの元締格で差配をしている。
その五郎蔵がおまさから聴かされたお夏(なつ)の初印象は、
「眼がおおきくてねえ、なんとも妙な女なんですよ。一目(ひとめ)見たときには、何だかぞっとして……」
「眼が大きくて奇妙な女が、どうしてぞっとするのだ?」
「だって、それよりほかに、いいようがないんだもの」([炎の色]p138 新装版p )
躰は少女のように細く嫋(しなや)か――ちゅうすけの年代だと浅丘るり子さんをおもいうかべるのだが、いま世代の人たちはだれであろう。
まあ、名前をあげられても、まるで別世界の女人であろうが。
とにかく、お夏は、いわゆる近代的というか、竹久夢二描くところの昭和初期のなよなよしい美人とおもっておこう。
お夏は洗い髪を後(うし)ろへ垂(た)らし、その先を白縮緬(しろちりめん)で包んでいた。
紺一色の単衣(ひとえ)に、これも白の細い帯を、何十年か前の享保の時代(ころ)の女がしていた水木結(みずきむす)びにしている。(炎の色]p77 新装版p )
これを聴いただ゜けで、平蔵はお夏のある性癖を見抜き、五郎蔵とおまさの夫婦関係まで先ばしって憂慮した。
つまり、お夏の存在が鬼平密偵団にとって間接的に脅威をおよぼすとも、平蔵が予想したということである。
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