『鬼平犯科帳』Who's Who

「これは、仕事がらみのことだから、変なふうにとらないで教えてほしい。お竜（りょう　享年３３歳）との秘め事のことだが---」

脱ぎかけた手をとめ、うらめしげに睨（にら）みつけお勝（かつ　３１歳、
「いやですよ、銕（てつ）さまとこうなったからには、お竜姉(ねえ)さんのことは忘れようとしているのに---」
「すまぬ。しかし、仕事がらみなのだ。」

銕三郎（てつさぶろ　２７歳）は、横にはいってきたお勝の、湯上りのほてりがまだ消えない乳房に触れ、〔荒神（こうじん）〕の助太郎（すけたろう　５０すぎ）の名を告げた。

【参照】２００９年７月２６日［〔千歳（せんざい）〕のお豊］　（７）

お勝は、すぐにおもいだした。
「掛川城下へ出張りになったのは、その〔荒神〕の助太郎という盗人（つとめにん）のお盗（つとめ）の探索でした」

【参照】２００９年１月２３日［銕三郎、掛川城下で］　（３）

そうはいったものの、もう、さしこんできたお勝の足をそのままにさせておき、
「助太郎は、立役(たちやく)の賀茂（かも　３０すぎ）に子どもをうませた」
「その子が死んだと、お竜姉さんが、銕さまに話しましたでしょ？」
「うむ。聞いた」

【参照】２００９年１月２５日［ちゅうすけのひとり言］　（３０）

お勝の指が、銕三郎のものを握る。
「話しが、まだ終っていない」
「だって---」
秘部の湿りへみちびき、
「こんなに、待ちこがれてる」

「お勝と、お竜どのの、そもそもの、なれそめときのことを話してみてくれ」
「そもそもも、なにも---お竜姉さんを、あたしが誘ったんです」
「誘ったとは？」

山の果樹園小屋でひと休みしていたとき、お勝はお竜の手をにぎり、ずっとあこがれていた、好きでたまらないと告げ、唇を求めた。
抱き返してきて、
「私も、まえまえから可愛くおもっていた。ほかの男にはわたしたくない」
手をいれて、乳房をやさしくもんでくれた。
お勝が、腰がしびれたと打ちあけると、裾がまくられ、指でさぐられているうちに、お勝は失神しそうになった。
お勝が１５歳、お竜は１７歳であった。
「ごく自然に、そうなってしまったんです」

それから、２人は人目をしのんでは、山の小屋で睦みあい、１年後に、噂に追われて村を捨てた。

「２人が好きあっうようになった経緯（ゆくたて）は、わかった。お竜がどのようにお勝を悦ばせたか、お勝はどのようにしてお竜を満足させたのか、知りたい」
「銕さまが想像なさっているような具（もの）を遣ったりはしていません」

(栄里『婦美の清書』　『:芸術新潮』2003年1月号より)

「誠がかよいあい　やさしさがあれば、指が肌やあそこに触れあうだけで、躰中が芯まで悦び、燃えるのです。でも、銕さまがお入りになると、いままでの２倍も３倍も燃えます」
「そんなに、たやすく変わるものか？」
「心のもちようです」

「賀茂が助太郎を容（う）けいれたのも、助太郎に誠があったということか？」
「そうでなければ、何年もつづくわけがありません。もう、待ちきれない」

【ちゅうすけ注】賀茂と助太郎のことで訊いたのが、これが『鬼平犯科帳』巻23[誘拐]で、おまさの救出に役立つとは、のちの平蔵宣以(のぶため)は、このときは思いもしなかった。