カテゴリー「118石川県 」の記事

2006.02.26

老僕(ろうぼく)・吉六

『鬼平犯科帳』文庫巻11の冒頭の[男色一本饂飩]事件の主人公・寺内武兵衛(中年)は、算者指南の看板をかかげながら、出入り先の詳細を探り、盗みに役立てている。その武兵衛の因幡町2丁目の住まいで老僕をしているのが吉六である。
(参照: 浪人・寺内武兵衛の項)
暮らしているのは2人きりなのは、、武兵衛の趣味の一つが男色で、女性に興味がないからである。といって吉六がその相手というわけでは、むろん、ない。武兵衛のその趣味について、吉六は好ましくはおもっていない。

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年齢・容姿:老爺としか書かれていない。2年前から住みついており、近所づきあいを吉六が一手に引き受けているほど、愛想はいい。
生国:武兵衛との付き合いが古いとすると、同様に加賀の生まれか。

探索の発端:深川の海福寺門前の一本饂飩の〔豊島屋〕を出てから役宅の長屋へ帰ってこない木村忠吾を、火盗改メは全力をあげて捜索をはじめた。と、〔豊島屋〕の女中お静が、その日のことをよく覚えていて鬼平へ告げた。さらにお静は、三ッ橋のかかる楓川岸を歩いている寺内武兵衛を偶然にみかけて後をつけ、因幡町2丁目あたりに住んでいることをつきとめた。

結末:そのお静を、吉六が捕らえようとして、逆に捕縛された。武兵衛の盗みに加担していたら、死罪であろう。

つぶやき:吉六に、武兵衛は「両刀遣いだが、どちらかというと、女のほうが嫌いだが」という。妙ないい方なので、気になった。池波さんは、こういういい方をさせて、武兵衛の異常な神経を暗示したかったのであろうか。
ふつうなら、「若い男のお尻のやわらかい肉(しし)置きのほうが、女よりも好きだ」というところだ。

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2005.06.08

〔板尻(いたじり)〕の吉右衛門

『鬼平犯科帳』文庫巻5に収録の[兇賊]で、「芋酒」の〔加賀や〕の亭主〔鷺原(さぎはら)〕---じつは〔鴛原(おしはら)〕の池波さんの誤読---の九平が鬼平の目を恐れて、青山の久保町の居酒屋〔いせや〕へころがりこむ。この〔いせや〕の亭主が、かつて九平に盗みの手ほどきをした金沢出身の〔板尻(いたじり)〕の吉右衛門である。
(参照: 〔鷺原〕の九平の項)

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年齢・容姿:70歳。大黒さまそっくりの顔かたち。
生国:加賀(かが)国石川郡(いしかわこおり)坂尻(さかじり)(現・石川県石川郡鶴来町(つるぎまち)坂尻)。
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明治20年ごろの石川郡の赤○=坂尻村 緑○=鶴来村 上は金沢市

学習院生涯学習センター〔鬼平〕クラスの堀 眞治郎さんが、金沢市近辺の地図を探索、同市の南に隣接する鶴来町に「坂尻」を発見し、〔板尻(いたじり)〕は池波さんの筆がすべったか校正ミスと断じた(ホームページ[『鬼平犯科帳』の彩色『江戸名所図会』]
http://homepage1.nifty.com/shimizumon/board/index6.html
ぼくも堀説に賛成。

探索の発端:〔加賀や〕で「芋酒」や「芋なます」を賞でた武士が、火盗改メの長官と知り、すねに傷をもつ九平は身を隠した。
その後、吉右衛門の〔いせや〕へ来た客が、倶利伽羅峠で見た盗人の一人だったので尾行し、〔網切(あみきり)〕一味の姦計を知るが、このことは〔坂尻〕の吉右衛門とは関係ない。

結末:〔網切〕一味は御用となるが、これも吉右衛門とは関係ない。

つぶやき:キー・パースンでもない〔坂尻〕の吉右衛門にリアリティをつけるために、池波さんは、吉右衛門が浅草・田原町の仕出し屋〔木むら〕で板前をしていたと書き添える。〔木むら〕はもちろん架空の店だが、実在の「浅草・田原町」が頭にふられているために読み手は、あたかも実在していた店のようにおもいこんでしまう。池波手品の一手である。

ついでにいうと、九平の〔鷺原(さぎはら)〕は、金沢市内の現存する〔鴛原(おしはら)〕の誤記であることを発見したのも堀 眞治郎さんである。

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2005.04.07

〔天神谷(てんじんだに)〕の喜佐松

『鬼平犯科帳』文庫巻5に収まっている[おしゃべり源八]で、同心・久保田源八を痛めつけて記憶喪失させ一味の首領。畜生ばたらきが専門で、江戸市中だけでも40人も殺している。川崎宿はずれの旅籠[大崎屋〕の主人が隠れ蓑。

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年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:能登(のと)国鳳至郡(ふげしこおり)天神谷村(現・石川県鳳至郡穴水町天神谷)。
別に、播磨(はりま)国加東郡(かとうごおり)天神谷村の線もある(もっとも、いまはこの地名は消えている)。が、ここの産だと大坂・京などの上方をテリトリーとするだろう。
旅籠の屋号の〔大崎〕は「仙台市」の旧称だから、そっちかとも推量してみたが、「仙台」には「天神谷」の地名はなかった。

探索の発端:〔天神谷〕一味を追っていて記憶喪失させられた同心・久保田源八が身につけていた菅笠の刻印が手がかりとなり、その笠を貸した藤枝の茶店〔とみや〕がわかった。
さらに〔小房〕の粂八がかつて〔海老坂(えびさか)〕の与兵衛一味にいたときの〔日妻(ひづま)〕の文造を尾行して旅籠〔大崎屋〕が見つかった。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
(参照: 〔海老坂〕の与兵衛の項)

結末:捕縛された者たちは、死罪。ただし、〔日妻〕の文造は見どころがあるというので処刑をまぬがれたが、その後、密偵としては登場してこない。

つぶやき:ミステリー仕立てになっているが、それほど複雑な組み立てではない。あらかじめ筋立てを決めない池波さんの書き方では、込み入った構成を期待するほうがムリというもの。
面白く読めれば、それでいい。

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2005.03.02

浪人・寺内武兵衛

『鬼平犯科帳』文庫巻11の冒頭の[男色一本饂飩]事件の主人公。

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年齢・容姿:中年とのみ。堂々たる体躯の大男。濃い眉毛、隆(たか)くふとやかな鼻、厚い唇、やさしげな細い眼、総髪。たくましい筋骨、ひろく厚い胸。、血色がみなぎり、肉が厚く、甲にまで体毛が密生している掌。太いがやわらかな声。
生国:加賀とのみ。

探索の発端:食い意地のはっている同心・木村忠吾は、深川・蛤町、海福寺門前の茶店〔豊島屋〕の一本饂飩が好物だった。
見廻りの途次、立ち寄ったが、そのとき、同席を乞うた侍・寺内武兵衛に、男色の対象として誘拐・密閉された。
火盗改メは、役宅の長屋へ帰ってこない忠吾を、全力をあげて捜索をはじめた。と、〔豊島屋〕の女中お静が、その日のことをよく覚えていて鬼平へ告げた。さらにお静は、三ッ橋のかかる楓川岸を歩いている寺内武兵衛を偶然にみかけて後をつけ、因幡町2丁目あたりに住んでいることをつきとめた。

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お静が武兵衛をみかけた三ツ橋(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)

結末:「算者指南」の看板をかかげて大商店の経営コンサルタントのようなことをしながら、得意先の内実を看取って押し入る寺内武兵衛は、押し入り当日の昼過ぎ、お静を追って築地川にかかる軽子橋上で、鬼平の剣に倒れた。

つぶやき:中村吉右衛門丈=鬼平のテレビ放送は、子どもたちがまだテレビを見られる時間帯の午後8時から始まるために、夜9時からだった幸四郎(白鴎)丈=鬼平のときよりも、濡れ場はあっさりしている、といわれている。
男色もののこの篇には、撮影をためらったフシさえある。
おなじくレスビアンもの[炎の色]でもヒロインの年齢などが適当に変えられていた。

池波さんの男色ものには、独立短篇[元禄色子](『小説新潮』1969年2月号。のち『あほうがらす』新潮文庫)などのほかにも、鬼平シリーズにも[寒月六間堀]などがある。

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2005.02.15

〔鷺原(さぎはら)〕の九平

『鬼平犯科帳』文庫巻5に所載の[兇賊]で脇役をつとめるユーモラスにひとりばたらきの盗人。
ふだんは、神田・豊島町1丁目の柳原土手で居酒屋〔芋酒・加賀や〕の亭主。

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年齢・容姿:60歳。老爺とあるだけ。いっとき、坊主頭の旅僧を装った。
生国:加賀国河北郡(かほくごおり)深谷村(のち、田近(たじか)郷(現・石川県金沢市深谷町)
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明治20年ごろの金沢市(左下)と、深谷村=のちの田近郷

探索の発端:40年ぶりに加賀の郷里・田近谷を訪れての帰路、〔鷺原〕の九平は、倶利伽羅峠で盗人らいし男たちの声を耳にした。

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九平は、金沢城下の北の田近谷から津幡宿を経て倶利伽羅峠、石動へと---(地図は明治20年制作)

その声をふたたび聞いたのは、自分の店の前で斬りあいがあったときであった。
斬りあいの一方の主は、直前まで店の客だった浪人だったが、なんと「火盗改メ」のお頭だったのである。
店を閉めて、青山・久保町の同郷の飯屋でほとぼりが冷めるのを待っていたいたとき、倶利伽羅峠で見かけた盗人の片割れを見かけ、鬼平が向島の料亭〔大村〕へ呼び出されたのを知り、ひょんないきさつで火盗改メにそのことを告げることができた。

結末:だまされて料亭〔大村〕へ呼び出された鬼平を待っていたのは、兇賊〔網切〕の甚五郎であったが、〔鷺原〕の九平の忠告によって駆けつけた佐嶋忠介以下の手で鬼平は九死に一生を得た。
(参照: 〔網切〕の甚五郎の項)
〔鷺原〕の九平がもらした情報で、鬼平と沢田小平次、竹内同心らは倶利伽羅峠に待ち伏せ、うまく逃げおうせたつもりの〔網切〕の甚五郎とその残党を斬って捨てた。
(参照:〔網切〕一味で、先に逮捕された 〔佐倉(さくら)〕の吉兵衛 の項)

つぶやき:芋酒といい、芋膾といい、九平のつくるものには、どことなくユーモラスな味がある。
人柄によるのであろう。

ともに〔鬼平〕を学んでいる学習院生涯学習センター〔鬼平〕クラスの新兵衛さんは、吉田東伍博士『大日本地名辞書』(冨山房 明治33年-)から引く。「河北郡、今田近村と云ふ。大字深谷に塩類性の冷泉湧出す、隣接して花園村の岸川にも同性の冷泉有り、近年浴場開きたり。神祇史料云、式内加賀郡波自加弥神社は二日市の田近山に在り」。
さらに『角川地名大辞典』から「田近村(金沢市・津幡町)明治 22-40年の河北郡の自治体名。梨ノ木平山の西麓に位置する。滝下、松根、中尾、上平、琴、琴坂、北千石、南千石、今泉、朝日牧、朝日、榎尾、向山俵原、千杉、鞁筒、四坊高坂、四坊、浅野深谷、浅谷の20ヵ村が合併して成立。旧村名を継承した20大字を編成。村役場を四坊高坂に設置。村名は村内を通る田近往来と当地域を田近18ヵ村と俗称したことによる」

九平の「通り名(呼び名)」の〔鷺原〕についても、金沢市の地図の南端に、「鴛原(おしはら)」という地名がある。また金沢市の南側には鶴来町があることから、鴛鴦や鶴などが飛来していたと想像され、「鷺」も飛来していたと考えても無理はなく、読みの響きから[鷺原]という地名にしたか? あるいは単なる字の見まちがい、思いこみによるのであろうと想像、と。

〔鴛原〕を『角川地名大辞典』で引くと、「昔当地に鴛の生息する池があったところから鴛ケ原と称したが、延宝3年ごろに鴛原と改めたという」と。

前田cさんの波自加彌神社リポート(2003.09.28)

由緒というのか、歴史の重みを感じてきました。
かなり階段を上って神社があって、後ろのうっそうとした森にも厳かさを感じました。
父母(母は病院から一時外出をして)と一緒に行きました。(ちゃんと車でも神社まで登れるようになってます)
香辛料・医薬・産業の神様ということで、兄が薬剤師(今は病院ではなく厚生??省にいるのですが)なのと、リウマチは投薬治療しかないことで、近くにいてもこれまで全く知らなかったのだから、両親ともに、これもなにかの御縁だと、大変喜んでいました。
場所がわからなかったので、従兄弟が神社近くに住まいの知人に場所を聞いてくれ、そこを訪ねたところが一軒家。どうやら田近宮司さんのお住まいとのことで、慌てて通りがかった方に聞きなおして神社へ行きました。
さすがに直接宮司さんを訪ねることはできませんでした。という、ちょっと楽しい寄り道もしてきました。

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波自加彌神社の鳥居

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同、拝殿

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2005.01.26

〔雲津(くもつ)〕の弥平次

『闇の狩人』(新潮文庫 上下)の主人公の一人。
『報知新聞』に、昭和47年(1972)11月1日から翌48年11月25日まで連載され、昭和49(1974)年新潮社から単行本。昭和55年(1980)9月25日に同文庫。

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数年前に読んだがすっかり忘却しているので、いま、わくわくしながら読み返し、盗人たちの〔通り名(呼び名)〕をリストアップしているところ。

年齢・容姿:上州と越後の山間にある坊主の湯で療養していたときは42歳。江戸で活躍しているのは3年後の45歳。
口は小さい。細い眼が柔和。濃くぽってりした眉。
小柄で細い躰だが、裸になると筋肉は針金でも縒りあわせたようにひきしまっている。
生国:能登国珠洲郡雲津郷か?(現・石川県珠洲〔すず〕市三崎町雲津)か?能登半島の最先端にあたる故郷の匂いはほとんど書かれていない。

探索の発端:大坂出身の巨盗〔釜塚〕の金右衛門の小頭だったが、いまわの際の首領から後継をいわれたものの独りばたらきを願望している。ところが後釜を目指している五郎山の伴助と土原の新兵衛の争いにまきこまれ、生命を狙われる。
いっぽうでは、坊主の湯で助けた若い武士が仕掛人になってしまっているのを憂慮。

つぶやき:付きあう人、知りあう仁に好感を与え、どうしてああも親身になってもらえるのか、〔雲津〕の弥平次のもののいい方、接する仕草、考えようを確かめたい。
珠洲市も訪ねてみたい。坊主の湯のことも調べたい。

そういえば、これまで、20人以上の盗人たちを列挙したが、故郷の匂いを発散させている仁はいなかったようにおもうが、なぜだろう? 池波さんが東京生まれで、田舎をもたないからかしらん。

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