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2005.03.02

浪人・寺内武兵衛

『鬼平犯科帳』文庫巻11の冒頭の[男色一本饂飩]事件の主人公。

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年齢・容姿:中年とのみ。堂々たる体躯の大男。濃い眉毛、隆(たか)くふとやかな鼻、厚い唇、やさしげな細い眼、総髪。たくましい筋骨、ひろく厚い胸。、血色がみなぎり、肉が厚く、甲にまで体毛が密生している掌。太いがやわらかな声。
生国:加賀とのみ。

探索の発端:食い意地のはっている同心・木村忠吾は、深川・蛤町、海福寺門前の茶店〔豊島屋〕の一本饂飩が好物だった。
見廻りの途次、立ち寄ったが、そのとき、同席を乞うた侍・寺内武兵衛に、男色の対象として誘拐・密閉された。
火盗改メは、役宅の長屋へ帰ってこない忠吾を、全力をあげて捜索をはじめた。と、〔豊島屋〕の女中お静が、その日のことをよく覚えていて鬼平へ告げた。さらにお静は、三ッ橋のかかる楓川岸を歩いている寺内武兵衛を偶然にみかけて後をつけ、因幡町2丁目あたりに住んでいることをつきとめた。

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お静が武兵衛をみかけた三ツ橋(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)

結末:「算者指南」の看板をかかげて大商店の経営コンサルタントのようなことをしながら、得意先の内実を看取って押し入る寺内武兵衛は、押し入り当日の昼過ぎ、お静を追って築地川にかかる軽子橋上で、鬼平の剣に倒れた。

つぶやき:中村吉右衛門丈=鬼平のテレビ放送は、子どもたちがまだテレビを見られる時間帯の午後8時から始まるために、夜9時からだった幸四郎(白鴎)丈=鬼平のときよりも、濡れ場はあっさりしている、といわれている。
男色もののこの篇には、撮影をためらったフシさえある。
おなじくレスビアンもの[炎の色]でもヒロインの年齢などが適当に変えられていた。

池波さんの男色ものには、独立短篇[元禄色子](『小説新潮』1969年2月号。のち『あほうがらす』新潮文庫)などのほかにも、鬼平シリーズにも[寒月六間堀]などがある。

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コメント

盗人を出身県別に分類するなんて、まったく独創的な発想でつづられる「泥棒日録」、毎日、新鮮な気分で読ませていただいております。

泥棒の世界も、ピンからキリまであることが、非常によくわかって、『鬼平犯科帳』を再読、三読するのに、役だっています。

愛読させていただきながら何ですが、ひとつ、提案というか、お願いをしていいでしょうか。
というのは、せっかくの「日録」ですから、盗人の評価---つまり、ピンにどれほど近い首領なのか、キリでもどくらいあがったキリなのか、もうすこし、ちゅうすけさんご自身の採点をおもらしいただけると、われわれ、ちゅうすけさんファンは、より、親しめるのではないでしょうか。
暴言多謝。

投稿: 文くばり丈太 | 2005.03.02 13:47

男色について
むかしから我が国にあったもので、身体の接触と心の接触があったのでしょう。 衆道とも言いますが主人と生死を共にする愛情があります。

戦国時代の武将は身近に美少年を侍らせています。 これも男色でしょう、護身から考えると筋骨逞しい醜男でも良いように思いますが、いざと言うときに刺客の手から身代わりになっても主人を護る理屈抜きの同性愛的な繋がりのある者の方が良かったのでしょう。

池波さんにその趣味があったとは考えられませんが「男の秘図」の徳山五兵衛のように露見することを怖れながら、止められない趣味を持っている人は世間にいるでしょう。

投稿: edoaruki | 2005.03.02 15:55

>文くばり丈太さん

ご提案、かたじけなく。虚心に受け止め、試みたいとおもいます。

>edoaruki さん

>刺客の手から身代わりになっても主人を護る理屈抜きの同性愛的な繋がり
ですか、ふーむ。そうだと女性よりも頼もしい。ふーむ。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.02 16:42

笑い話 

ビデオを観ますよ、女好きで、その道では臨機応変にセックスを済ませてしまう、貞操観がそうあるとも思えない木村忠吾が、相手が男色の嗜好者となると「噂になっていたようなことはございませぬ、私はその時になりましたらあの男と差しても違えても貞操を守り抜く覚悟でござした」(一本饂飩)とムキになって平蔵に告げるのには思わず笑ってしまいます。

投稿: edoaruki | 2005.03.02 20:41

文庫旧版[男色一本饂飩]を読み返していて気が付きましたが、浪人の名前は「寺内武兵衛(Pー32)」となってます。
新装版の際に「竹内」に変更されたのでしょうか。
文庫「鬼平犯科帳の世界」での盗賊人名録では旧版の寺内武兵衛で記載されてます。

投稿: 靖酔 | 2005.03.04 10:53

>靖酔さん

勘違いをご指摘いただき、ありがとうございました。

竹内武兵衛は、すべて、寺内武兵衛に訂正したつもりですが、訂正し忘れがありましたら、ご教示ください。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.04 19:10

早速訂正いただき納得致しました。
毎日の盗人登場で日々鬼平犯科帳を再読する機会を得る事が出来、朝ブログを開くのが楽しみになりました。
今回の[妙法寺の牛松]でも背景はまたくわかりませんけど、盗人社会の広がりを読み手に感じさせる手法だと思ってます。

投稿: 靖酔 | 2005.03.04 21:42

いつも楽しく拝読させていただいております。

先日、私の参加する深川のブログに記事を掲載する折、このページを参考にさせていただきました。

「深川散策帳」の記事は、折を見て、他の話も紹介できればと思っています。
今後ともよろしくお願いします。

投稿: ひこ | 2006.02.15 14:09

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