〔天神谷(てんじんだに)〕の喜佐松
『鬼平犯科帳』文庫巻5に収まっている[おしゃべり源八]で、同心・久保田源八を痛めつけて記憶喪失させ一味の首領。畜生ばたらきが専門で、江戸市中だけでも40人も殺している。川崎宿はずれの旅籠[大崎屋〕の主人が隠れ蓑。
年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:能登(のと)国鳳至郡(ふげしこおり)天神谷村(現・石川県鳳至郡穴水町天神谷)。
別に、播磨(はりま)国加東郡(かとうごおり)天神谷村の線もある(もっとも、いまはこの地名は消えている)。が、ここの産だと大坂・京などの上方をテリトリーとするだろう。
旅籠の屋号の〔大崎〕は「仙台市」の旧称だから、そっちかとも推量してみたが、「仙台」には「天神谷」の地名はなかった。
探索の発端:〔天神谷〕一味を追っていて記憶喪失させられた同心・久保田源八が身につけていた菅笠の刻印が手がかりとなり、その笠を貸した藤枝の茶店〔とみや〕がわかった。
さらに〔小房〕の粂八がかつて〔海老坂(えびさか)〕の与兵衛一味にいたときの〔日妻(ひづま)〕の文造を尾行して旅籠〔大崎屋〕が見つかった。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
(参照: 〔海老坂〕の与兵衛の項)
結末:捕縛された者たちは、死罪。ただし、〔日妻〕の文造は見どころがあるというので処刑をまぬがれたが、その後、密偵としては登場してこない。
つぶやき:ミステリー仕立てになっているが、それほど複雑な組み立てではない。あらかじめ筋立てを決めない池波さんの書き方では、込み入った構成を期待するほうがムリというもの。
面白く読めれば、それでいい。
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コメント
盗賊のことでなくて申しわけありません。
源八同心が記憶喪失して、自分の妻まで忘れてしまう---なんて、ちょっと信じられない気がします。
抱き合ったり愛しあうとかでも、その感触で記憶がよみがえらないとすると、夫婦といえどもはかない間柄なんですね。
投稿: 目黒の朋子 | 2005.04.07 19:03
きょうは朝から、ニフティ側がココログの調整をしていて、入力が午後4時ごろまで出来ず、ご心配をおかけしました。
ぼくが謝ることはないのですが、ニフティになり代って、お詫びしておきます。
投稿: ちゅうすけ | 2005.04.07 19:08
>目黒の朋子さん
記憶漏れはしょっちゅうですが、病的な記憶喪失をしたことがないもので、ぼくにも源八の行動はわかりません。
しかし、皮膚接触とかセックスは原始的な記憶なので、もしかすると、それで、記憶が回復することもあるかもしれませんね。
投稿: ちゅうすけ | 2005.04.07 19:12
久保田源八の立ち寄った茶店〔とみや〕は藤枝ではなく藤沢ではなかったでしょうか。旅籠〔大崎屋〕へ入るのを尾行されたのは梅次郎ではなかったでしょうか。
〔日妻〕の文造は、源八の尾行に気がつく抜かりなさ、その後の対応の大胆さ、本格派、〔海老坂〕の与兵衛の配下としての実績もあり、ひょうきんなところもあるというのでは、どんな密偵になったか見てみたいものです。〔日妻〕というのは古語なんでしょうか。
久保田源八を診察した井上立泉の「たぶんに神経の病が原因で、われから心ノ臓が悪いとおもいこむ。おもいこむことによって、さらに悪くなる」「それが、このたびのことで、いっさいの記憶をうしなったとき・・・・おのれの心ノ臓のことも忘れてしもうた。ゆえにこそ、神経と躰の調和がとれるようになり、このように丈夫になった・・・・のではあるまいかな」という言葉は池波さんの人生訓なのではないでしょうか。
投稿: パルシェの枯木 | 2005.06.03 22:47