〔板尻(いたじり)〕の吉右衛門
『鬼平犯科帳』文庫巻5に収録の[兇賊]で、「芋酒」の〔加賀や〕の亭主〔鷺原(さぎはら)〕---じつは〔鴛原(おしはら)〕の池波さんの誤読---の九平が鬼平の目を恐れて、青山の久保町の居酒屋〔いせや〕へころがりこむ。この〔いせや〕の亭主が、かつて九平に盗みの手ほどきをした金沢出身の〔板尻(いたじり)〕の吉右衛門である。
(参照: 〔鷺原〕の九平の項)
年齢・容姿:70歳。大黒さまそっくりの顔かたち。
生国:加賀(かが)国石川郡(いしかわこおり)坂尻(さかじり)(現・石川県石川郡鶴来町(つるぎまち)坂尻)。
明治20年ごろの石川郡の赤○=坂尻村 緑○=鶴来村 上は金沢市
学習院生涯学習センター〔鬼平〕クラスの堀 眞治郎さんが、金沢市近辺の地図を探索、同市の南に隣接する鶴来町に「坂尻」を発見し、〔板尻(いたじり)〕は池波さんの筆がすべったか校正ミスと断じた(ホームページ[『鬼平犯科帳』の彩色『江戸名所図会』]
http://homepage1.nifty.com/shimizumon/board/index6.html
ぼくも堀説に賛成。
探索の発端:〔加賀や〕で「芋酒」や「芋なます」を賞でた武士が、火盗改メの長官と知り、すねに傷をもつ九平は身を隠した。
その後、吉右衛門の〔いせや〕へ来た客が、倶利伽羅峠で見た盗人の一人だったので尾行し、〔網切(あみきり)〕一味の姦計を知るが、このことは〔坂尻〕の吉右衛門とは関係ない。
結末:〔網切〕一味は御用となるが、これも吉右衛門とは関係ない。
つぶやき:キー・パースンでもない〔坂尻〕の吉右衛門にリアリティをつけるために、池波さんは、吉右衛門が浅草・田原町の仕出し屋〔木むら〕で板前をしていたと書き添える。〔木むら〕はもちろん架空の店だが、実在の「浅草・田原町」が頭にふられているために読み手は、あたかも実在していた店のようにおもいこんでしまう。池波手品の一手である。
ついでにいうと、九平の〔鷺原(さぎはら)〕は、金沢市内の現存する〔鴛原(おしはら)〕の誤記であることを発見したのも堀 眞治郎さんである。
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コメント
私の独断と偏見で、でっち上げた迷説をご支持いただき恐縮しています。鷺原の九平の[鷺原]もこの[板尻]も大日本地名辞書
や角川地名大辞典等をいくら調べてみても見つからないので、苦肉の策として似たような地名がないだろうかと方向転換してみたら、[鴛原]、[坂尻]という地名が金沢の近郊に見つかり、池波さんは〔早とちり〕されるお方と西尾先生の(鬼平講座)でお聞きしていましたので、提案してみた訳です。
この迷説を地元〔加賀〕の鬼平ファンの皆様に忌憚のないコメントを戴きたいものです。
投稿: 堀 眞治郎 | 2005.06.08 10:27
>堀さん
〔板尻〕---じつは〔坂尻〕の吉右衛門のご紹介がおくれて、すみませんでした。
それにしても、こうして紹介できたのも、堀さんのご研鑽の結果です。ありがとうございました。
下伊那の〔帯川〕へも行ってきました。
池波さんは、天竜ぞいの遠州街道を取材していますね。
阿南町に〔門原〕もありました。
投稿: ちゅうすけ | 2005.06.09 10:29