〔駒止(こまどめ)〕の喜太郎
『鬼平犯科帳』文庫巻19に所載の篇[引き込み女]のヒロインお元とは、密偵おまさがかつて〔乙畑(おつばた)〕の源八の下にいたとき、仲が45よかった。
(参照: 〔乙畑〕の源八の項)
〔乙畑〕一味が解散した後、お元がその情婦となって引き込みをつとめてきたのは、〔駒止(こまどめ)〕の喜太郎という首領であった。
喜太郎は常陸(茨城県)の浪人くずれで、上信2州から北陸へかけての盗みばたらきが多い。
年齢・容姿:45歳。容姿の記述はない。
生国:常陸(ひたち)の浪人---とあるが、国許で浪人になって江戸へ出て、両国橋北詰めの入り堀に架かる駒止橋の近くに住んでいたので〔駒止〕を「通り名(呼び名)」にしたか。浪人なら苗字があったはず。
深川に下屋敷を置いていた常陸国の藩は多い。麻生藩、笠間藩、志筑藩、下館藩、下妻藩、土浦藩、石岡藩、水戸藩、谷田部藩。つまり、上のどの藩士であっても「駒止橋」になじみがあったといえる。池波さんがそこまで承知していて、〔駒止〕の「通り名」をつけたとはおもえないが。
岩代(いわしろ)国大沼郡(おおぬまこおり)の山中の「駒止峠(こまどとうげ)」あたりに盗人宿をかまえており、それを「通り名」に---とかんがえるのは、あまりに突飛すぎよう。
探索の発端:〔駒止(こまどめ)〕の喜太郎の情婦のお元が、南鍋町2丁目の袋物問屋〔菱屋〕彦兵衛方へ、引き込みに入っていることを、おまさがつきとめた。
お元は、〔菱屋〕の手代あがりの入り婿店主・彦兵衛に駆け落ちをもちかけられて、悩んでいた。
結末:お元は単独で失踪。それを知らずに押し入りをかけた〔駒止〕一味は、開かない戸の前で立ち往生しているところを逮捕されたが、助(す)けばたらきの〔磯部(いそべ)〕の万吉だけが巧みに逃走。
(参照: 〔磯部〕の万吉の項。
一味は死刑。
つぶやき:首領の〔駒止(こまどめ)〕の喜太郎が主役の物語であるなら、彼が浪人した経緯(ゆくたて)や苗字を捨てた理由などが述べられ、転落の詳細があかされるのだろうが、この篇は、おまさがお元の女としての悩みの聞き役になることでストーリーが展開する。
いってみれば、テレビ映画化したときの、女性視聴者向けの一編として創作されたのであろう。
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