カテゴリー「126大阪府 」の記事

2006.01.31

〔須賀(すが)〕の笠右衛門

『鬼平犯科帳』文庫巻14の[五月闇]は、鬼平の信任がとびきり篤い密偵・伊三次が、過去の怨念のために〔強矢(すねや)の伊佐蔵(37,8歳)に刺殺される内容なので、あまりにむごすぎると、この篇を封印してしまっている伊三次ファンもいるほど。
(参照:密偵・伊三次の項)
(参照: 〔強矢)の伊佐蔵の項)
9年ほど前、女のことで伊佐蔵に傷を負わせた伊三次は、大坂で〔津川(つがわ)〕の弁吉から、伊佐蔵が「なぶり殺しにしてくれる」といっていると告げられ、大坂でのお盗めを助(す)けることになっていた〔須賀(すが)の笠右衛門との約束もほっぱらかして、江戸へ逃げた。
(参照: 〔津川〕の弁吉の項)

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年齢・容姿:どちらも記述がないが、40がらみ、しゃべるときに肩をゆするクセがある---と勝手に書き加えてみたい。
生国:河内(かわち)国石川郡(いしかわこおり)須賀村(現・大阪府富田林市須賀)。
「須賀」は、砂地をあらわすから、それこそ、日本全国、河川のあるところには一つや二つはある里である。まあ、砂地だから、甘蔗やらっきょうしか実らないが。
それでも南河内の「須賀」としたのは、テリトリーが近畿一円と察したからである。

探索の発端と結末:どちらも記載されていない。伊三次がこのことを鬼平に打ち明けたのは、9年後だから、手配したとしても手遅れであったろう。

つぶやき:伊三次を江戸へ来させるためだけに書き込まれた盗賊の首領といえようか。
律儀といえば律儀、煩瑣といえば煩瑣。
しかし、盗賊 Who's Who をつくる側としては、1人でも多いほうがにぎやかになるからありがたい。

この富田林市は、筆者が大坂陸軍幼年学校に在学していて、休日の散策でよく歩いた土地である。終戦の翌々日だったか、大阪港に米軍が上陸、幼年学校の生徒は危ないとのデマで、運動着で夜中に逃避行もした。けっきょく、橿原まで夜間行軍したんだったかな。

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2005.12.29

〔葛篭(つづら)師〕紋造

『鬼平犯科帳』文庫巻9に所載の[本門寺暮雪]は、井関録之助を狙う刺客〔凄い奴〕と鬼平の壮絶な決闘見せ場になっている篇だが、そもそも、生命で購わなければならない状況へ録之助を追い込んだのは、大坂の四天王寺の裏門筋に住んでいた〔葛篭(つづら)師〕紋造である。
江戸から大坂の縁者を頼ってくだっていた録之助だが、道場経営に失敗、食うや食わずの窮地にあったとき、紋造が引き合わせたのが、香具師の元締〔名幡(なばた)〕の利兵衛だった。
(参照: 〔名幡〕の利兵衛の項)
利兵衛が録之助に30両で請け負わせたのは、殺し---仕掛けであった。

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年齢・容姿:中年。容姿の記述はない。
生国:摂津(せっつ)国(現・大阪府)のどこかであろう。

結末:井関録之助が殺しを断ると、「わしも、とんでもない人を拾ったものや」と嘆き、その後、首を吊って自裁---もっとも、〔名幡〕の利兵衛の手下がそのように見せかけたのかも知れない。

つぶやき:〔葛篭師〕紋造から離れて、〔凄い奴〕と鬼平が死闘をくりひろげた池上の本門寺の総門奥の石段は96段と書かれているが、いまも、そのとおりの段数である。
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本門寺の石段(『江戸名所図会』部分 塗り絵師:西尾 忠久)

池波さんは、『鬼平犯科帳』130余篇の中での自薦ベストの中に、この[本門寺暮雪]を入れている。
ちなみに、ベスト5を列記すると、
通篇  巻 篇名     『オール讀物』   自薦の理由(推定)
・ 41 6-5  大川の隠居 1971年05月号   実在した巨鯉
・123 21-2 瓶割り小僧 1980年09月号   瓶を割るアイデア
・ 17 3-2  盗法秘伝  1969年05月号   秘伝のアイデア
・ 35 5-6  山吹屋お勝 1969年12月号   向こうへ手首を抜くアイデア
・ 60 9-4  本門寺暮雪 1972年12月号   イヌの助太刀のアイデア
と、アイデアがらみのものがほとんど。作家の苦心どころろがうかがえる選定である。

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2005.12.28

〔闇鴨(やみがも)の吉兵衛

『鬼平犯科帳』文庫巻3に所載の[艶婦の毒]で、鬼平を襲って一刀のもとに惨殺されながら、次篇[兇賊]になって初めて氏名をあたえられた無頼浪人が、この〔闇鴨(やみがも)〕の吉兵衛だった。
そのことを〔猫鳥(ねこどり)〕の伝五郎(20代)へ明かしたのは、吉兵衛の実弟の〔牛滝(うしたき)〕の紋次(30男)だった。
(参照: 〔牛滝〕の紋次の項)
〔牛滝〕の紋次が「兄貴とお頭(かしら)の敵(かたき)をとってやるのだ」といったところから推察するに、〔闇鴨〕の吉次郎も、艶婦お豊のことから身元が知れて逮捕された〔虫栗〕の権十郎の一味にちがいない。
(参照: 女盗お豊の項)
(参照: 〔虫栗〕の権十郎の項)

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年齢・容姿:どちらも記述はないが、実弟〔牛滝〕の紋次の年齢から推量して、35,6歳か。
生国:和泉(いずみ)国泉南郡(せんなんこうり)牛滝村(現・大阪府岸和田市大沢町)。
弟〔牛滝〕の紋次の「通り名(呼び名)」により。推理。
市の南端。牛滝川にそった町で、町域の大部分が山地。

結末:襲ったその場で惨殺されたから、発端から結末まで、あっという間。

つぶやき:シリーズの連載がようやく2年目に入ったところで、当初の池波さんの予定としては、1,2年で切り上げるツもりであったから、賊たちの〔通り名」も〔闇鴨〕とか〔猫鳥〕とか〔虫栗〕などと凝りに凝っている。
そのうち、〔牛滝」と地名をつけたあたりから肩の力がぬけ、できるだけ、訪れたことのある地名をおもいだすようにしたのであろう。
地名を「通り名」にしたほうが、お国柄(県民性)などが人物造形に手がかりをあたえることもになる。

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2005.12.27

浪人刺客(しかく)・杉浦要次郎

『鬼平犯科帳』文庫巻8に収められている篇の中では中篇に近い[流星]で、浪人刺客・杉浦要次郎は、江戸への足がかりを意図している大坂の巨盗〔生駒(いこま)〕の仙右衛門(62歳)の命を受け、隠れ家にしていた河内(かわち)国茨田郡(まんだこおり)枚方(ひらかた)村名物---〔くらわんか舟〕の船頭・村五郎の家から、江戸へ向う。
(参照: 〔生駒〕の仙右衛門の項)
同僚は、やはり浪人刺客の沖源蔵(40すぎ)。25両ずつの仕掛け金を〔生駒〕の仙右衛門からもらっている。
(参照: 浪人刺客・沖源蔵の項)
江戸での隠れ家は、豊島郡染井村の植木屋〔植半〕の小屋。

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年齢・容姿:30をすぎたばかり。一文字眉の精悍に顔貌。長身痩躯。
生国:北河内(大阪府北河内郡)のどこかと推定。

探索の発端:刺客の沖源蔵が惨殺した長谷川組の同心・原田一之助の妻女・きよ、先手の山本伊予守組の木下同心などにより、火盗改メの必死の探索が始まった。
一方、杉浦要次郎のたっての希望で、2人は登城途中の鬼平の姿を、3か月前に先発し、江戸の盗賊の頭領〔鹿山(しかやま)〕の市之助(年齢不詳)との連絡役をつとめている〔津村(つむら)〕の喜平から指さされた。
(参照: 〔鹿山の市之助の項)
(参照: 〔津村〕の喜平の項)

結末:巣鴨の庚申塚の立場で鬼平を見かけた2人は、板橋宿の裏道で乗馬している鬼平へ斬りかかったが、逆に2人とも深傷をおい、捕縛された。磔刑であろう。

つぶやき:〔生駒〕の仙右衛門からは、鬼平を殺さず、周辺の関係者を殺傷することで、鬼平を苦しめるようにとの命令を受けていた2人だが、腕におぼえがあるものだから、仙右衛門の命を破って鬼平に勝負をいどんでしまった。
〔生駒〕の仙右衛門の命令を守りきれなかったのは、組織の中の人間ではなく、礼金めあての刺客だつたからであろう。
一方の仙右衛門としても、相手がそういう組織に組みこめない仁たちと割り切っておくべきだった。

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2005.12.03

〔白玉堂(はくぎょくどう)〕紋蔵

『鬼平犯科帳』文庫巻2に収録の[蛇の眼]で、残虐な首領〔蛇(くちなわ)〕の平十郎の軍師として登場しているのが、飯倉3丁目で唐物屋〔白玉堂(はくぎょくどう)〕をやっていた紋蔵である。
(参照: 〔蛇〕の平十郎の項)
記憶力のいい読み手なら、〔白玉堂(はくぎょくどう)〕紋蔵がすでに巻1[座頭と猿]に顔をみせていることに気づいていよう。そう、〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門は以下の〔尾君子(びくんし)小僧〕と綽名されている軽業育ちの徳太郎が、助(す)けにいく〔蛇(くちなわ)〕一味の紋蔵のもとへあいさつに行っている。
(参照: 〔夜兎〕の角右衛門の項)
(参照:〔尾君子小僧〕徳太郎の項 )
座頭・彦の市が愛欲のもつれから徳太郎を刺殺したので、身の危険を感じた紋蔵は店を閉めて、本所・成願寺(切絵図の誤植で正しくは成就寺。明治期に江戸川区平井1丁目へ移転)裏の百姓家へひそんでいる。
[暗剣白梅香]で、本郷の顔役〔三の松〕の平十ところへ、〔蛇〕の平十郎の代理として鬼平の暗殺を依頼に行ったのも紋蔵である。平十は、金子半四郎に300両で請け負わせた。
(参照: 〔三の松〕平十の項 )
(参照: 仕掛人・金子半四郎の項)

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年齢・容姿:どちらも記述されていない。
生国:記述はないが、店の屋号の〔白玉堂〕が手がかり。古代からシナでは、金よりも玉(ぎょく)を最高の宝とした。とりわけ白い玉が珍重された。
玉の輸入口は長崎で、それらを仕入れたのは大坂の商人である。〔蛇〕の平十郎とは、同じ大坂の出ということで信頼関係ができたと見る。
大津市に「白玉(edoqj)町」が誕生したのは明治7年(1874)だから、対象外である。

探索の発端:これより前の事件---文庫巻1に所載の[座頭と猿]で逃げ隠れていた座頭・彦の市が女に会いに現われて逮捕され、〔蛇(くちなわ)〕一味の盗人宿が相州・小田原宿の北の部落・上之尾にあることを白状した。
また、襲われて殺された医師・千賀道栄が、いまわのきわに自らの血で「くちなわ」と書いていた。

結末:上之尾へ馬で急行、待ち構えていた鬼平以下の火盗改メに、紋蔵も含めて全員逮捕。

つぶやき:紋蔵が〔白玉堂〕の財物を処分するには、ずいぶんと時間がかかったろう。
しかし、唐物屋とはかんがえたものである。『鬼平犯科帳』で盗賊たちが狙うのは現金ばかりだが、『御仕置例類集』で現実の盗難の記録を読むと、財物もかなり盗みの対象となっている。
財物は、この一味は、〔白玉堂〕で売りさばいたのであろう。

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2005.10.20

〔津村(つむら)〕の喜平

『鬼平犯科帳』文庫巻8に収められている篇の中では中篇に近い[流星]で、江戸への足がかりを意図している巨盗〔生駒(いこま)〕の仙右衛門(62歳)の意を帯して3か月前に先発し、江戸の盗賊の頭領〔鹿山(かやま)〕の市之助(年齢不詳)との連絡役をつとめている〔津村(つむら)〕の喜平である。
(参照: 〔生駒〕の仙右衛門の項)
(参照: 〔鹿山〕の市之助の項)
下向してきた刺客・沖源蔵(中年)と杉浦要次郎(30を出たばかり)に、鬼平の姿をひそかに見せ、憶えさせもした。

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年齢・容姿:どちらの記述もない。
生国:摂津(摂津)国大坂・船場津村町(現・大阪市中央区通称・西横堀)。
吉田東伍博士『大日本地名辞書』(冨山房 明治33年--)の「津村」の項に、「船場の西部を津村といふ。古は円(つぶら)と呼べり、江湾の名に因る」と。
〔生駒〕の仙右衛門は、表向きは心斎橋・北詰に〔山家(やまが)屋〕という屋号をかかげているもぐさ問屋の主人である。地元・船場の出生である喜平は、なにかにつけて便利な存在。

探索の発端:刺客の沖、杉浦らが惨殺した長谷川組の同心・原田一之助の妻女・きよ、先手の山本伊予守組の木下同心などにより、探索が強められ、船宿〔加賀屋〕の船頭・友五郎が行方不明となるにおよんで、川越辺へ探索の目が向いた。

結末:船頭・友五郎に縁のある本所・松坂町の紙問屋〔越前屋〕の手代・庄太郎が幽閉されていた染井の植半で発見されるや、〔鹿山〕一味の臓物の隠し場所である新河岸川の廃寺にも捕方の手が及んだ。

つぶやき:〔津村〕の喜平の結末は書かれていないが、こんな端役の「通り名(呼び名)」にも、池波さんの配慮がおよんでいるのを知り、驚嘆した。
すなわち、喜平を〔生駒〕の仙右衛門の店---心斎橋に近い船場の西、西横堀生まれとして、地元へ綿密な配慮をしているのである。地元生まれが配下にいるだけで、怪しまれることも少なくなるというものだ。

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2005.10.08

〔鈴鹿(すずか)〕の弥平次・3代目

『鬼平犯科帳』文庫巻5におさまっている[深川・千鳥橋]で、関西の盗賊界の名門(?)---〔鈴鹿(すずか)〕の弥平次の3代目として登場。
物語は、大工あがりの〔間取(まど)り)〕の万三が、、手元に残っている5枚の大商店の間取り図を盗賊の首領へ200両で売って、知り合った浅草寺・境内・奥山の茶店〔大黒や〕の茶汲女のお元に介抱されながら、労咳の最後の時期をすごしたい、といっているところから始まる。
(参照: 〔間取〕の万三の項 )
その売りさばき役を買ってでたのが、〔己斐(こひ)〕の文助である。
(参照: 〔己斐の文助の項)
、〔己斐〕の文助深川・加賀町の盗人宿にきていた〔鈴鹿(すずか)〕の弥平次・3代目にあたってみると、1枚にこころよく70両だしてくれた。さらに、残りを全部買ってもいいという。

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年齢・容姿:40前。精悍な躰つき。
生国:大坂のどこか。
初代は鈴鹿のどこか(三重県の)の出身であろうが、大坂に本拠を置いた。2代目が3代目をもうけたのも極楽往生したのも大坂である。

探索の経緯:密偵となった〔大滝〕の五郎蔵が現役のお頭だった時分、日本橋南1丁目の呉服問屋〔茶屋〕の間取り図を万三から買ったことがある。そのことを、「お縄にはしない」との約定のもとに鬼平へ話した。
鬼平は、間取り図になっている残りの商店を聞くために、五郎蔵に破牢の形をとらせて万三を探らせた。
かつて〔蓑火(みのひ)〕の喜之助の下にいた〔大和屋〕金兵衛を五郎蔵が見張っていると、果たして、万三があらわれた。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)
万三を見張っていて、〔鈴鹿〕一味の盗人宿が知れた。

結末:当世ふうに貪欲に育った〔鈴鹿〕の弥平次は、4枚分の間取り図に代金を払う気は毛頭なく、とりあげるつもりで、まず、己斐〕の文助をなぐり殺し、詭計でもって万三を呼びだして奪い取るすんでのところで鬼平が乗りこみ、命をすくった。

つぶやき:盗賊界の名門も、苦労知らずに育った3代目となると品が落ちるのか、あるいは時勢がそうさせるのか。
[浅草・御厩河岸]の〔海老坂(えび゜さか)〕の与兵衛も3代目であったが、鷹揚で、本格派の道を外してはいなかった。
人によるのであろう。

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2005.09.12

〔伊賀(いが)〕の音五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻1に収録されている[老盗の夢]に、ほんの2,3行だけでてくる盗賊で、当人よりも女房のお千代のほうが、巨盗〔蓑火(みのひ)〕の喜之助とより深いかかわりがある。
(参照: 〔蓑火)〕の喜之助の項)
池波さんの常套句をつかわせてもらうと、「なぜといいねえ」、〔伊賀(いが)〕の音五郎は捕えられ、大坂・千日前の刑場で火刑に処せられた---とあるだけだが、そのあと、寡婦となったお千代が、夫が生前にお世話になった礼をいいに京の〔蓑火(みのひ)〕のところへ行くと、彼女の巨躯にひと目で惚れこんだ喜之助が情を通じてしまった。
そのお千代も逝って20年になり、〔蓑火〕の喜之助も67歳。

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年齢・容姿:どちらも記述がない。
生国:河内(かわち)国丹南郡(たんなんこうり)伊賀村(現・大阪府羽曳野市伊賀)
三河国額田郡と、陸前国志田郡の伊賀村もかんがえたが、テリトリーが京・大坂あたりということで、羽曳野市の伊賀を採った。額田郡伊賀村(岡崎市)の出身なら大坂へより名古屋か江戸のほうへくだるであろう。

探索の発端:記述されていない。

結末:前述したとおり、盗みのために放火でもしたのか、火あぶりの刑。

つぶやき:畳の上で往生できるはずの本格派の巨盗〔蓑火(みのひ)〕の喜之助であっても、好みの女のために身を滅ぼす---というより、晩年、男の証しをよみがえらせてくれた相手は、なにものにもかえがたいらしい。

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2005.07.14

〔布屋(ぬのや)〕久太郎

『鬼平犯科帳』文庫巻13の巻頭に据えられている[熱海みやげの宝物]で、〔馬蕗(うまぶき)〕の利平治が連絡(つなぎ)をつけようとしている〔高窓(たかまど)〕の久兵衛の嫡男。すなわち、〔高窓〕一味の2代目を継ぐべき立場なのだが、大坂の足袋屋〔布屋久太郎〕を名乗って江戸へ出てしまっている。
(参照: (馬蕗〕の利平治の項)
〔高窓〕を乗っとろうとしている越前・福井の浪人あがりの高橋九十郎に組みする連中が、利平治にくっついて離れないのは、一つには久太郎を殺(や)ってしまいたいため、一つには利平治がつくっている〔甞帳〕をうばうため。
そのことを、鬼平夫妻とともに熱海の湯につかりにきていた彦十が聞いてしまった。

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年齢・容姿:27歳。容姿の記述はない。
生国:摂津(せっつ)国東成郡(ひがしなりごうり)か、西成郡(にしなりごうり)のどちらかの布屋村(現・大阪市城東区か西淀川区の布屋)。

探索の発端:探索といっても、探しているのは、〔高窓〕一味の甞役の利平治である。
数年前、〔馬蕗(うまぶき)〕の利平治は、日本橋石町(こくちょう)の小さな旅籠〔扇屋〕へ半月ほど宿泊したとき、寡婦になったばかりの女将のお峰とできた。翌年、利平治と久太郎が〔扇屋〕へ泊まると、お峰はむすめのお幸とともに歓待したので、久太郎は「大坂の家より、〔扇屋〕のほうが我家のようにおもえてきた」と洩らした。それが手がかりだった。

結末:果たして久太郎は〔扇屋〕におり、お幸とできていて、盗みの世界へ戻る気はないという。そこで、利平治は自首して出、いのちより大切な〔甞帳〕を差し出す代わりに、久太郎の目こぼしを願った。

つぶやき:熱海の湯から小田原、六郷の渡し(川崎=六郷)と、物語は道中ものの形をとりながら展開する。
道中ものは、時代もの作家にとっては、書いてみたいものであり、また、アイデアにつまると書いてもしまう。この篇は、熱海の「今井半太夫」を出したかったとみる。雁皮紙で有名だった。

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2005.06.14

〔牛滝(うしたき)〕の紋次

『鬼平犯科帳』文庫巻3に所載の[兇剣]で、実兄の〔闇鴨(やみがも)〕の吉兵衛とともに〔虫栗(むしくり)〕の権十郎(2代目)の配下だったが、一味が捕縛されたときは河内へ出かけていてまぬがれた。
(参照: 〔虫栗〕の権十郎の項)
実兄の〔闇鴨〕は鬼平を襲って斬り殺されたので、報復をすべく、〔猫鳥(ねこどり)〕の伝五郎(30男)から紹介された、大坂の元締〔高津(こうづ)〕の玄丹に、400両の大金で鬼平の暗殺を依頼する。
(参照: 〔高津〕の玄丹の項)

203

年齢・容姿:「若い」とだけ。物堅そうな服装(みなり)。
生国:和泉(いずみ)国泉南郡(せんなんこうり)牛滝村(現・大阪府岸和田市大沢町)。
市の南端。牛滝川にそった町で、町域の大部分が山地。

事件の展開:〔牛滝〕の紋次が〔高津〕の玄丹を訪ねると、玄丹は紋次を、〔そえ状〕をつけて〔白子(しらこ)〕の菊右衛門へまわしてしまった。
菊右衛門は、[麻布・ねずみ坂]の事件で、〔川谷(かわたに)〕の庄吉から鬼平の花も実もあるあつかいを聞いて鬼平の人柄に惚れこんでいるので、鬼平を暗殺することなどおもいもよらないが、400両もの大仕事をまわしてきた〔高津」の玄丹の腹の底が読めないので、とりあえず、紋次を歓待して、時間をかせぐことにする。
(参照: 〔川谷〕の庄吉の項)

結末:: 大和の大泉の大庄屋・渡辺喜左衛門方への押し込みに〔高津〕の玄丹一味が失敗した噂を聞いた〔白子〕の菊右衛門は、〔牛闇〕の紋次の始末を、右腕の〔桑名(くわな)〕の新兵衛にいいつけた。

つぶやき:この篇でもっとも笑えるのは、〔白子(しらこ)〕の菊右衛門が、
「ひとつ、ぜひとも、長谷川さまにお目通りをしたいものだが---」
右腕の〔桑名〕の新兵衛が、すかさず、
「それは元締、むりというもので」
とうけたので、菊右衛門がむっつり、
「こいつ、あんまりはっきりというな」
と不興がるシーン。

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