〔葛篭(つづら)師〕紋造
『鬼平犯科帳』文庫巻9に所載の[本門寺暮雪]は、井関録之助を狙う刺客〔凄い奴〕と鬼平の壮絶な決闘見せ場になっている篇だが、そもそも、生命で購わなければならない状況へ録之助を追い込んだのは、大坂の四天王寺の裏門筋に住んでいた〔葛篭(つづら)師〕紋造である。
江戸から大坂の縁者を頼ってくだっていた録之助だが、道場経営に失敗、食うや食わずの窮地にあったとき、紋造が引き合わせたのが、香具師の元締〔名幡(なばた)〕の利兵衛だった。
(参照: 〔名幡〕の利兵衛の項)
利兵衛が録之助に30両で請け負わせたのは、殺し---仕掛けであった。
年齢・容姿:中年。容姿の記述はない。
生国:摂津(せっつ)国(現・大阪府)のどこかであろう。
結末:井関録之助が殺しを断ると、「わしも、とんでもない人を拾ったものや」と嘆き、その後、首を吊って自裁---もっとも、〔名幡〕の利兵衛の手下がそのように見せかけたのかも知れない。
つぶやき:〔葛篭師〕紋造から離れて、〔凄い奴〕と鬼平が死闘をくりひろげた池上の本門寺の総門奥の石段は96段と書かれているが、いまも、そのとおりの段数である。
本門寺の石段(『江戸名所図会』部分 塗り絵師:西尾 忠久)
池波さんは、『鬼平犯科帳』130余篇の中での自薦ベストの中に、この[本門寺暮雪]を入れている。
ちなみに、ベスト5を列記すると、
通篇 巻 篇名 『オール讀物』 自薦の理由(推定)
・ 41 6-5 大川の隠居 1971年05月号 実在した巨鯉
・123 21-2 瓶割り小僧 1980年09月号 瓶を割るアイデア
・ 17 3-2 盗法秘伝 1969年05月号 秘伝のアイデア
・ 35 5-6 山吹屋お勝 1969年12月号 向こうへ手首を抜くアイデア
・ 60 9-4 本門寺暮雪 1972年12月号 イヌの助太刀のアイデア
と、アイデアがらみのものがほとんど。作家の苦心どころろがうかがえる選定である。
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