カテゴリー「110埼玉県 」の記事

2005.11.22

〔狢(むじな)〕の豊蔵

『鬼平犯科帳』文庫巻16にはいっている[見張りの糸]は、品川の旧友宅へ一泊した〔相模(さがみ)〕の彦十が、飯盛旅籠から出てきた〔狢(むじな)〕の豊蔵の弟の〔稲荷(いなり)〕の金太郎(50がらみ)を見かけて尾行(つ)け、三田八幡宮(御田八幡神社 港区三田3丁目)門前の茶店〔大黒や〕へはいっていったのを突きとめたことから、2重3重の事件へと発展していく物語。
(参照: 〔稲荷〕の金太郎の項)

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品川駅(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)

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年齢・容姿:どちらの記述もないが、弟の年齢から推察して、60歳前か。剽軽(ひょうきん)。
生国:武蔵(むさし)国比企郡(ひきこおり)上狢村(現・埼玉県比企郡川島町上狢)。

探索の発端:上記のとおり。〔狢〕の豊蔵が登場するのは名前のみ。

結末:したがって、捕縛もない。

つぶやき:鳥山石燕『画図百鬼夜行』に、なんとも剽軽(ひょうきん)でとぼけた風貌の「狢」が描かれている。池波さんの「剽軽」との表現の出所であろう。
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絵に添えられているのは---、
「狢の化(ばく)る事、おさおさ狐狸におとらず。ある辻堂に、年ふるむじな僧とばけて、六時の勤(つとめ)おこたらざりしが、食後の一睡にわれを忘れて尾を出せり」
あくまで、剽軽。

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2005.09.19

〔浅羽(あさば)〕の久蔵

『仕掛人・藤枝梅安』文庫巻3におさめられている[梅安流れ星]で、7年前に、借財がたまっている木挽町3丁目の料亭〔吉野屋〕の謝金を肩代わりして店を手にいれたばかりか、娘のお園(当時20歳)の亭主におさまった元盗賊の首領〔浅羽(あさば)〕の久蔵は、かつていっしょに盗めた浪人・林又右衛門(37,8歳)に500両という大金をゆすられている。ときは寛政12年(1800)の晩秋。
(参照: 浪人・林又右衛門の項)

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年齢・容姿:47歳。でっぷりとした体格。精力的な風貌。
生国:武蔵(むさし)国入間郡(いるまこうり)浅羽村(現・埼玉県坂戸(さかど))市浅羽)
林又右衛門の言によると、全国をあらしまわったらしいから、さいきん、袋井市に合併された浅羽町(旧磐田郡)であってもおかしくはない。池波さんは、当町の馬伏塚(まむしづか)城址を訪れて、〔馬伏(まぶせ)〕の茂兵衛という盗っ人も創作している。
(参照: 〔馬伏〕の茂兵衛の項 )
池波さんの取材ということでは、南端が川越市に接している坂戸市へも足がむいていたとおもわれる。とくに、『万葉集』の「浅羽の野」、
 紅の浅羽の野らに刈る草の束の間も吾を忘らすな
に魅かれて、坂戸市の「浅羽」にしたとおもいたい。

結末:「蔓」の〔玉屋〕七兵衛が、彦次郎にいちど命じた仕掛けを中止したことから、疑惑がしょうじた。仕掛ける相手は、林又右衛門で、これには梅安の同朋の小杉十五郎のこともからんでいたからである。梅安と彦次郎は、仕掛け金抜きで又右衛門をしとめたため、〔浅羽〕の久蔵は、又右衛門に誘拐されていた愛娘お梅(5歳)も取りもどすことができた。

つぶやき:〔浅羽〕の久蔵への林又右衛門の誘拐と恐喝、さにらは又右衛門が請け負っている小杉十五郎の抹殺、〔玉屋〕七兵衛が仕掛けてくる彦次郎の始末---と、ストーリーは込み入っているが、さすが、池波さんは巧みな筋はこびで、読み手をみちびく。
誘拐は、池波小説にはしばしばつかわれるテではある。

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2005.09.11

〔羽沢(はねざわ)〕の嘉兵衛

『鬼平犯科帳』文庫巻5でタイトルになっている[乞食坊主]こと鬼平の剣友・井関録之助に、南品川の貴船明神社(現・荏原神社  品川区北品川3丁目)境内で盗めの会話を聞かれてしまった、〔古河(こが)〕の富五郎一味の盗人たちは、100両を金策し、録之助殺しを、両国一帯の香具師の元締・〔羽沢(はねざわ)の嘉兵衛へ頼み込んだ。
嘉兵衛は、仕掛人の菅野伊介へいいつけた。ところが、伊介も高杉道場で同門だったために、奇計を案じて、六之助のボロ法衣に犬の血を塗って、首尾をごまかした。

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年齢・容姿:あくまでも蔭の人物扱いなので記述がない。[乞食坊主]の篇は寛政元年(1789)の事件だが、寛政4,5年(1792-3)とおぼしい『闇の狩人』(新潮文庫)では、2年前に没したことになっている。
一方、寛政11年(1799)の事件が描かれる『仕掛人・藤枝梅安』(講談社文庫)の第1話[おんなごろし]では健在。
要するに、年齢不詳。容姿はいかにも香具師の元締風と。
生国:下総(しもうさ)国葛飾郡羽沢(はねさわ)村(埼玉県富士見市羽沢)。
葛飾あたりから江戸へ出てきて、さまざまな闇の仕事に手をそめてのしあがったのであろう。
武蔵(むさし)国橘樹郡羽沢(はさわ)村(現・神奈川県横浜市神奈川区羽沢町)ははずした。

探索の発端;〔古河(こが)〕一味には、録之助の注進によって火盗改メの見張りがついた。
・〔羽沢(はねさ゛わ)の嘉兵衛のほうには、さすがの火盗改メも、いまのところは手を打つすべがない。

結末:古河一味は捕縛されたが、〔羽沢の嘉兵衛には手つかず。

つぶやき:、『仕掛人・藤沢梅安』の第1話[おんなごろし]で、羽沢(はねざわ)の嘉兵衛の依頼で、薬研堀の料亭〔万七〕の先妻おすずを仕掛けたのは32歳のとき、寛政8年(1796)であった。
『闇の狩人』に描かれている年代を推測する唯一の手がかりは、安永元年に刊行された黄表紙『運附太郎左衛門咄』について、「20何年前に発行された」とある箇所がそれ。試算すると寛政4,5年になる。

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2005.08.19

〔牛久保(うしくぼ)〕の甚蔵

『鬼平犯科帳』文庫巻14に収録されている[浮世の顔]で、板橋の上宿のほうからやってきて、ちらっと姿を見せたところを、いまは密偵になっている〔大滝〕の五郎蔵に見かけられる。
五郎蔵の鬼平への甚臓評。「むかし、二度ばかり、私の盗めに使ったことがございます。はい、一人ばたらきのしっかりした男で、ずいぶんと役には立ちましたが、どうもその、肚(はら)の底が知れねえような気がいたしまたので----それっきりになったのでございます」
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)

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年齢・容姿:50を越えている。容姿は記述されていない。
生国:武蔵(むさし)国都筑郡(つづきこうり)牛久保村(現・埼玉県坂戸市善無能寺)
江戸時代の牛久保村は、善能寺村の北東にくっつくようにしてあった小村という。戸数5軒、田21石余、畑7石というから、ほんとうに小さな貧しい村だったにちがいない。いつのまにか善能寺村にのみこまれてしまっていた。
そんな土地で育った甚蔵が、めったに腹の底を他人には見せない男に育ったのもなんとなくわかるような気がする。
それよりも気にかかるのは、小さくて村名名も消えてしまったような村を、池波さんはどうやって知ったかである。

探索の発端:石神井川に架かる板橋をわたった甚蔵が川ぞいに右へ折れて、突当りの旅籠〔上州屋〕へ入っていったことから、そこが5年ほど前から〔神取(じんとり)〕の為右衛門の盗人宿に変っていたのである。
(参照: 〔神取〕の為右衛門の項)

結末:[神取(じんとり)〕の為右衛門の項に記したとおり、一味18名が、深川の上大島町の釘鉄銅物問屋〔釜屋〕へ押し入ろうとしたところを、40人を動員して網をはっていた火盗改メが捕らえた。うち、抵抗した5名は斬殺。

つぶやき:〔帯川(おびかわ)〕の源助と、〔門f原(もんばら)〕の重兵衛の現地取材で、長野県下伊那郡阿南町を訪れたとき、「牛久保」という地名銘板をみかけた。しかし、『旧高旧領』にも載っていない地名なので、逡巡のすえ、坂戸市をとった。
(参照: 〔帯川〕の源助の項)
(参照: 〔門原〕の重兵衛の項)
 

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2005.08.13

〔稲荷(いなり)〕の金太郎

『鬼平犯科帳』文庫巻16にはいっている[見張りの糸]は、品川の旧友宅へ一泊した〔相模(さがみ)〕の彦十が、〔狢(むじな)〕の豊蔵の弟の〔稲荷(いなり)〕の金太郎を見かけて尾行(つ)け、三田八幡宮(御田八幡神社 港区三田3丁目)門前の茶店〔大黒や〕へはいっていったのを突きとめた。

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三田八幡宮(『江戸名所図会」 塗り絵師:ちゅうすけ)

さっそくに、〔大黒や〕の向いの、〔京 御仏像厨子・御位牌 和泉屋〕忠兵衛方に二階に見張り所が設けられた。

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年齢・容姿:50がらみ。身なりはさっぱりした商人風。
生国:武蔵(むさし)国比企郡(ひきこうり)上狢(かみむじな)村(埼玉県比木企郡川島町上狢(かみむじな))。
生国調べで苦労する「通り名(呼び名)」が、どこにでもある「追分」「落合」「押切」「神明」「下山」などである。〔稲荷」にいたっては、ちゃんとしてたものだけでも全国に12万社あるといわれている。
しかし、〔稲荷〕の金太郎の場合は、兄が〔狢(むじな)〕を名乗っている。それで埼玉県の川島町(かわじわまち)が候補にのぼった。
地図を見ると、町の北端に「稲荷塚古墳」があり、角川『日本地名大事典』の近世の項に、上狢の稲荷社は「上・下狢村、下新堀村の鎮守」とある。

探索の発端:先記したように、彦十が北品川の手前の歩行(かち)新宿2丁目の飯盛旅籠からでてきた金太郎を尾行して住いを突きとめた。

結末: 2件の結末がある。1は、見張り所として借りている仏具屋〔和泉屋〕忠兵衛方を襲った賊を、鬼平と沢田小平次が処置したの。
2は、〔稲荷〕の金太郎一味17名が押し入ろうとしていた赤坂・伝馬町の乾物問屋〔丸屋〕で捕縛されたの。

つぶやき:「狢(むじな)」を探していて、「稲荷塚古墳」にあたったのは幸運であった。こうなったら、上狢の稲荷社へお礼詣でをしなくては、な。

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2005.07.13

〔墓火(はかび)〕の秀五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻2に所載されている[谷中・いろは茶屋]は、寛政3年(1791)晩夏、シリーズきっての愛すべきコメディー・リリーフ兎忠こと同心・木村忠吾(24歳)が1番手柄を立てる篇である。共演者は、谷中の遊所・いろは茶屋〔菱屋〕の娼妓お松と、兇盗〔墓火(はかび)〕の秀五郎である。

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年齢・容姿:50男。でっぷりとした、大様な風貌、どこにあるかわからないほどの細い眼。
生国:武蔵(むさし)国埼玉郡(さきたまごおり)粕壁宿(現・埼玉県春日部市粕壁)。
いろは茶屋〔菱屋〕では「川越の大きな問屋の主」を自称しているので、最初は川越市(埼玉県)の生まれかとおもっていたが、まさかのときの手配をミス・リードするための、手のこんだ韜晦と判断した。

探索の発端: 20年前、〔墓火〕の秀五郎は〔血頭(ちがしら)〕の丹兵衛の上方での盗めを助(す)けたことがあった。そのときに伏見の娼家でなじんだお松に、〔菱屋〕のお松が似ていた。それだけではなく、店の者やお松が家庭の雰囲気で迎えてくれるのが嬉しかった。

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谷中の〔いろは茶屋〕(『歳点譜』より 塗り絵師:ちゅうすけ)

(参照: 〔血頭〕の丹兵衛の項)
それで、お松が熱をあげている信州・上田の若い浪人(じつは木村忠吾の偽称)へ、揚げ代として10両(いまなら100万円相当)もの金をお松へ渡してやった。それず命とりになるとも知らずに。

書類づくりに部署替えになった忠吾は、辛抱たまらず、夜分に役宅の長屋を抜け出して谷中へ走ったが、一乗寺(台東区谷中1丁目)の脇で、盗み装束の一団を発見、彼らが引き上げていった家の前の上聖寺(台東区谷中1丁目)の塀に梯子をかけて監視するとともに、寺の者を役宅へ走らせた。

結末:捕らえた老人と下ッ端の男の自白から、〔墓火(はかび)〕の秀五郎の本拠、日光街道の武州・粕壁の旅籠〔小川屋〕がわかり、鬼平みずから14名をしたがえて出張り、仙台での大仕事をたくらんでいた一味の12名を逮捕。死罪であろう。

つぶやき:寛政3年(1791)より20年前といえば、明和8年(1771)で、この秋、平蔵の父・宣雄が火盗改メ・助役(すけやく)を命じられた。〔小房〕の粂八は17歳で、丹兵衛の破門されたのはこの2年後。すでに〔血頭〕一味にいたのだろうか。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
それにしても、2年後に押し入り先の下女に手をだした粂八を追放するほど本格派だった丹兵衛が、そのころから恐ろしげな〔血頭〕を名乗っていたとは---。

〔墓火〕の秀五郎がお松に語ったという「人間という生きものは、悪いことをしながら善(よ)いこともするし、人にきらわれながら、いつもいつも人に好かれたいとおもっている---」の至言は、池波さんが長谷川伸師から受けついだものである。

付記:鳥山石燕『画図百鬼夜行』に、[墓の火]と名づけられた化け物が描かれている。池波さんは、〔墓火(はかび)〕の秀五郎の「通り名(呼び名)〕を、この化け物から借りたのであろう。
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絵に添えられている文は、
「去るものは日々にうとく出るものは日々にしたし。古きつかはく犁(すか)れて田となり、しるしの松も薪となりても、五輪のかたちありありと陰火(いんくわ)のもゆる事あるは、いかなる執着の心ならんかし」

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2005.07.06

〔牛子(うしこ)〕の久八

『鬼平犯科帳』文庫巻23は長篇[炎の色]で、密偵おまさと〔荒神(こうじん)〕の2代目を継いだ女賊お夏が出会う。これに、〔峰山(みねやま)〕の初蔵一味がからむ。
(参照: 女密偵おまさの項 )
(参照: 〔荒神〕のお夏の項)
(参照: 〔峰山」〕の初蔵の項)
〔牛子(うしこ)〕の久八は、〔峰山〕一味。

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年齢・容姿:中年。おだやかな口調。
生国:武蔵(むさし)国入間郡(いるまこうり)牛子村(埼玉県川越市牛子)
頭の〔峰山(みねやま)〕の初蔵が丹後(たんご)国の生まれなので、上方かとおもったが、どこにでもありそうな地名なのに、近畿・西国にはなかった。
宮城県伊具郡丸森町にあったが、おまさがつれていかれた盗人宿が千住大橋より上流ということで、川越近辺の出身とみた。

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千住大橋 宮城村は川上(『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)

探索の発端:〔峰山〕の初蔵から、、〔荒神〕一味と組んでやるお盗めを手伝うように声をかけられた密偵おまさを、送り迎えの舟で目隠しをしたのが〔牛子〕の久八であった。

結末:荷舟で箱崎町2丁目の醤油酢問屋〔野田屋〕のかたわらへ乗りつけてきた〔峰山〕一味は〔牛子〕の久八も、〔荒神〕一味とともに、待ち構えていた火盗改メと船手方・向井将監の手の者たちに逮捕されたが、〔峰山〕の初蔵は鬼平に斬って捨てられた。

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新大橋と三ッ又 富士の方角の川筋に箱崎町2丁目
(『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)

つぶやき:〔峰山(みねやま)〕の初蔵は、〔荒神(こうじん)〕一味の幹部級〔天徳寺〕の茂平を調略して、寝返らせていた。もし、逮捕がなければ、〔荒神」のお夏は、もっと痛いおもいをしていたのではなかろうか。池波さんによる、盗人仲間の調略の結末を見たかった。

埼玉県川越市 市役所観光課 渡辺 さんからのリポート

「牛子村」は、明治22年(1889)4月1日、同村を含む8ヶ村が合併して、南古谷村となりました。
昭和30年4月1日、南古谷村を含む9ヶ村が川越市に合併、現在の市域となりました。牛子は当市の南東に位置しています。
なお、上記は川越市立博物館で確認したものです。

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2005.07.01

〔入間(いるま)〕の又吉

『鬼平犯科帳』文庫巻19に収められている[逃げた妻]は、下谷・坂本裏町に住む浪人・藤田彦七(34,5歳)とその妻りつ(28歳)の物語である。
りつは、家に碁をうちにきていた同じ浪人・竹内重蔵に誘惑され、夫とむすめ(7歳)を捨てて出奔した。
藤田彦七と同心・木村忠吾は酒友だちである。湯島天満宮裏門前の酒場〔次郎八〕で知り合った。
そして藤田の妻から「助けてほしい、許してほしい」との手紙がきていることを知らされた。
竹内重蔵と〔入間(いるま)〕の又吉とのつながりは、藤田も忠吾もまったく知らない。

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年齢・容姿:年齢の記載はないが、30代とおもわれる。色白で鼻がつんと高い。背丈は尋常。細竹のよう引きしまった躰。身が軽い。
生国:武蔵(むさし)国入間郡(いるまごうり)入間(いるま)村(現・埼玉県狭山市入間町)
(いりま)と読むと、調布市入間町だが、(いるま)とルビがふられているので、狭山市を採った。

探索の発端:木村忠吾から藤田浪人の妻りつの一件の報告を受けた鬼平は、手紙が指定している大塚の波切不動の門前茶店を下見していた。と、西から富士見坂をのぼってくる〔燕小僧〕こと〔入間〕の又吉を見かける。

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大塚・波切不動堂(『江戸名所図会』より 塗り絵師:ちゅうすけ)

尾行すると、小石川の氷川神社前の農家に入った。そこには、藤田の逃げた妻・りつのほか、竹内重蔵もいたではないか。

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小石川・金剛寺 氷川明神社(『江戸名所図会』より 塗り絵師:ちゅうすけ)

結末:両国の軽業師あがりで急ぎばたらき専門の〔入間〕の又吉は、釘抜きを鼻へくらって昏倒、竹内浪人は頬を切られ、腹に峰撃ちをうけた失神。2人とも捕縛。

つぶやき:〔入間〕の又吉を尾行の途中、鬼平は古ぼけた釘抜きを拾い、あとで又吉の身動きを封じてしまうが、長谷川家の替紋が「釘貫(くぎぬき)」であったことを、池波さんはこの篇のどのあたりを執筆していておもいだしたか。

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2005.06.13

〔久保島(くぼしま)〕の吉蔵

『鬼平犯科帳』文庫巻22は、長篇[迷路]である。〔猫間(ねこま)〕の重兵衛こと、かつての御家人の息子・木村源太郎が陰の主人公で、さまざまな手段を使って鬼平を悩ます。
それというのも、鬼平が銕三郎時代に、源太郎の父で無頼漢として悪名の高かった惣市(50を超えていた)を砂村の海辺で斬って殪したことがあった。
(参照: 〔猫間〕の重兵衛の項)
もっとも、源太郎は「親父がくたばって、せいせいした」と銕三郎に接近してき、2人して無頼に明けくけれていたとき、〔久保島(くぼしま)〕の吉蔵の「盗みばたらきに手を貸してくれ」といった。
断りきれなかった銕三郎は、盗みの当夜、見張りをつとめた。

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年齢・容姿:どちらも記されていない。なにしろ、20数年も前のことである。
生国:武蔵(むさし)国幡羅郡(はたらこうり)久保島(くぼじま)村(現・埼玉県熊谷市久保島)
幡羅郡に(はら)とルビをふっているリファレンス本(平凡社『日本歴史地名大系 埼玉県篇』)もある。
池波さんは(くぼしま)とにごらないでルビをふっているが、地元では(くぼじま)とにごっている。
江戸期の初期までは「窪島」と書いたが、幕臣・大久保氏の知行地となって「久保島」としたようである。

探索の発端:押しこんだのは南新堀の傘問屋で金貸しもしていた〔大坂屋〕だが、探索もなにも、銕三郎自身が参加したのだから、逮捕劇もない。ただ、銕三郎のつよい要請で、血をみることはなかった。

結末:銕三郎は、吉蔵がくれた割り前金をそっくり、〔相模(さがみ)〕彦十と〔鶴(たずがね)〕の忠助へわたした。
(参照: 〔鶴〕の忠助の項)

つぶやき:文庫巻7の[泥鰌の和助始末]では、20になるかどうかの銕三郎が〔相模〕の彦十に誘われて、〔泥鰌(どじょう)〕の和助のお盗めを手伝おうとしたことがあったが、松岡重兵衛にさとされて手を汚さずにすんだ話が書かれている。
ところがこの長篇では、〔久保島(くぼしま)〕の吉蔵に実際に手を貸したことになっている。なんとも割り切れない。


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2005.04.23

〔鷹ノ巣(たかのす)〕の新五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻21に収録の[春の淡雪]に点景のように登場する首領。

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年齢・容姿:点景あつかいなので、どちらも記述されていない。
生国:]武蔵(むさし)国男衾郡(おぶすまこうり)鷹巣村(現・埼玉県大里郡寄居町鷹巣)。
聖典は「鷹ノ巣」と記しているから、最初に美濃国加茂郡鷹ノ巣村(現・岐阜県美濃加茂市鷹之巣)を考えた。
また、〔雪崩(なだれ)〕の清松と知り合いという線から、雪の多い土地の出身とふんで、秋田県北秋田郡鷹巣町鷹巣も考慮してみた。
が、あれこれの候補地の中から「寄居町」の文字が目に入った瞬間、ここに決めた。
池波さんに『よい匂いのする一夜』(講談社文庫 初出:『太陽』1979年7月号-56年5月号)という、宿についてのエッセイ集がある。中の1軒が寄居町の〔京亭〕である。池波さんは、『偲びの旗』の冒頭場面のロケーションを書くためのほか、よほど気にいったか、その後も幾度も宿泊している。

探索の発端: 〔鷹ノ巣〕の新五郎の押し込先の、麹町の薬種店〔小西〕方は、もともとは〔池田屋〕五平が立てた計画であった。それを〔雪崩(なだれ)〕の清松と〔日野(ひの)〕の銀太郎が〔鷹ノ巣〕へ売ったものだ。
同心・大島勇五郎の密偵でもある清松に疑いをかけていた火盗改メは、〔池田屋〕一味をさぐりだし、〔小西〕方へ網を張った。
(参照: 〔池田屋〕五平の項)

結末: 〔小西〕方へ押し込む寸前に、待ちかまえていた鬼平軍団に、全員、あっけなく逮捕され、伝馬町の大牢屋送り。たぶん、死罪。

つぶやき:この盗人の生国調べは、池波さんの取材先・訪問先リサーチでもある。と同時に、過去の旅行先をどのように思い出して活用するのか、作家の頭脳の働きをのぞくことにもつながる。創作の楽屋裏調べという品がないが、クリエイティヴ・プロセスの追跡というと、なにやら、ありがたく聞こえる。
今度の〔鷹ノ巣〕の寄居町のように、そけがズバリときまると、爽快ですらある。。

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