〔浅羽(あさば)〕の久蔵
『仕掛人・藤枝梅安』文庫巻3におさめられている[梅安流れ星]で、7年前に、借財がたまっている木挽町3丁目の料亭〔吉野屋〕の謝金を肩代わりして店を手にいれたばかりか、娘のお園(当時20歳)の亭主におさまった元盗賊の首領〔浅羽(あさば)〕の久蔵は、かつていっしょに盗めた浪人・林又右衛門(37,8歳)に500両という大金をゆすられている。ときは寛政12年(1800)の晩秋。
(参照: 浪人・林又右衛門の項)
年齢・容姿:47歳。でっぷりとした体格。精力的な風貌。
生国:武蔵(むさし)国入間郡(いるまこうり)浅羽村(現・埼玉県坂戸(さかど))市浅羽)
林又右衛門の言によると、全国をあらしまわったらしいから、さいきん、袋井市に合併された浅羽町(旧磐田郡)であってもおかしくはない。池波さんは、当町の馬伏塚(まむしづか)城址を訪れて、〔馬伏(まぶせ)〕の茂兵衛という盗っ人も創作している。
(参照: 〔馬伏〕の茂兵衛の項 )
池波さんの取材ということでは、南端が川越市に接している坂戸市へも足がむいていたとおもわれる。とくに、『万葉集』の「浅羽の野」、
紅の浅羽の野らに刈る草の束の間も吾を忘らすな
に魅かれて、坂戸市の「浅羽」にしたとおもいたい。
結末:「蔓」の〔玉屋〕七兵衛が、彦次郎にいちど命じた仕掛けを中止したことから、疑惑がしょうじた。仕掛ける相手は、林又右衛門で、これには梅安の同朋の小杉十五郎のこともからんでいたからである。梅安と彦次郎は、仕掛け金抜きで又右衛門をしとめたため、〔浅羽〕の久蔵は、又右衛門に誘拐されていた愛娘お梅(5歳)も取りもどすことができた。
つぶやき:〔浅羽〕の久蔵への林又右衛門の誘拐と恐喝、さにらは又右衛門が請け負っている小杉十五郎の抹殺、〔玉屋〕七兵衛が仕掛けてくる彦次郎の始末---と、ストーリーは込み入っているが、さすが、池波さんは巧みな筋はこびで、読み手をみちびく。
誘拐は、池波小説にはしばしばつかわれるテではある。
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