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2005.06.04

〔荒神(こうじん)〕のお夏

223

『鬼平犯科帳』文庫巻23のほとんどを占める長篇[炎の色]で、密偵おまさを気に入ってしまう、女ながらに〔荒神(こうじん)〕を引きついだ2代目。
(参照: 女密偵おまさの項)
仕事を助(す)けたこともある初代の〔荒神〕の助太郎には、流れづとめをしていたおまさが可愛がられた。お夏は助太郎の隠し子である。

年齢・容姿:25歳。黒い、大きな瞳。肌は浅黒い。躰は少女のように細く嫋(しな)やか。洗い髪をうしろへたらし、先端を白縮緬でつつんでいる。
生国:山城(やましろ)国京都・近衛河原(現・京都府京都市上京区荒神町あたり)。
『大日本地名辞書』は「荒神社」について、「京極東、近衛条の護浄院境内に在り、古は此辺近衛河原と云ふ。慶長五年(1600)此に荒神社を立てたるより荒神口荒神町の名起る(後略)」。

探索の発端:湯島天神の境内で、密偵・おまさは、かつて連絡(つなぎ)役をつとめたことのある〔峰山(みねやま)〕の初蔵に声をかけられた。〔峰山〕一味と〔荒神〕の2代目が組んでやる盗めを手伝えというのである。
「飛んで火に入る夏の虫」とばかりに承知したおまさは、〔荒神〕の2代目お夏に引きあわされ、躰の奥がじんと痺れるような、かって感じたことのない奇妙な感覚を覚えたのである。

結末:日本橋・箱崎町2丁目の醤油酢問屋〔野田屋〕を襲った〔峰山〕と〔荒神〕一味は、待ちかまえていた火盗改メに逮捕。全員死罪。お夏だけは一人、巧みに逃亡し、おまさが復讐を恐れている。

つぶやき:池波さん、落合恵子さんらと、読売映画広告賞の審査員を10年以上もつとめた。審査前の雑談時に、池波さんに、
「火盗改メは、その職名のとおり、盗賊ばかりでなく放火犯も捕まえるんですよね。その割りに『鬼平犯科帳』には放火犯を追尾する話が少ないですね」
と、余計なことをいってしまった。
「ぼくは、火事が嫌いでねえ。それに、火事の場面の描写はむずかしいんだよ」
池波さんの答えであった。

それから、ほんの2,3か月後に、この[炎の色]が掲載され、生意気いってしまったぼくへのリベ゜ンジと受け止めた。
そればかりか、未完の[誘拐]はその続編である。
たいへんなご負担をおかけした。

蛇足を加える。台所の守り神と一般におもわれている荒神は、「三宝荒神」の略。仏、法、僧の三宝を守るという神である。盗めの3ヶ条の掟てにかけているのかも。日蓮宗などで深く信仰。
ついでだが、日蓮宗は女性の信仰を集めるプロモーションが巧みだ。安産・子育ての鬼子母神といい、台所の守護神の荒神さんといい。

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