〔鷹ノ巣(たかのす)〕の新五郎
『鬼平犯科帳』文庫巻21に収録の[春の淡雪]に点景のように登場する首領。
年齢・容姿:点景あつかいなので、どちらも記述されていない。
生国:]武蔵(むさし)国男衾郡(おぶすまこうり)鷹巣村(現・埼玉県大里郡寄居町鷹巣)。
聖典は「鷹ノ巣」と記しているから、最初に美濃国加茂郡鷹ノ巣村(現・岐阜県美濃加茂市鷹之巣)を考えた。
また、〔雪崩(なだれ)〕の清松と知り合いという線から、雪の多い土地の出身とふんで、秋田県北秋田郡鷹巣町鷹巣も考慮してみた。
が、あれこれの候補地の中から「寄居町」の文字が目に入った瞬間、ここに決めた。
池波さんに『よい匂いのする一夜』(講談社文庫 初出:『太陽』1979年7月号-56年5月号)という、宿についてのエッセイ集がある。中の1軒が寄居町の〔京亭〕である。池波さんは、『偲びの旗』の冒頭場面のロケーションを書くためのほか、よほど気にいったか、その後も幾度も宿泊している。
探索の発端: 〔鷹ノ巣〕の新五郎の押し込先の、麹町の薬種店〔小西〕方は、もともとは〔池田屋〕五平が立てた計画であった。それを〔雪崩(なだれ)〕の清松と〔日野(ひの)〕の銀太郎が〔鷹ノ巣〕へ売ったものだ。
同心・大島勇五郎の密偵でもある清松に疑いをかけていた火盗改メは、〔池田屋〕一味をさぐりだし、〔小西〕方へ網を張った。
(参照: 〔池田屋〕五平の項)
結末: 〔小西〕方へ押し込む寸前に、待ちかまえていた鬼平軍団に、全員、あっけなく逮捕され、伝馬町の大牢屋送り。たぶん、死罪。
つぶやき:この盗人の生国調べは、池波さんの取材先・訪問先リサーチでもある。と同時に、過去の旅行先をどのように思い出して活用するのか、作家の頭脳の働きをのぞくことにもつながる。創作の楽屋裏調べという品がないが、クリエイティヴ・プロセスの追跡というと、なにやら、ありがたく聞こえる。
今度の〔鷹ノ巣〕の寄居町のように、そけがズバリときまると、爽快ですらある。。
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コメント
鷹巣の新五郎は「春の淡雪」のなかで点景扱いされていますが、ほんの2行で、この首領の行状のすべてを語っているのですから、池波小説の省略法の凄さを感じました。
時々管理者さんは小説上の盗人なのに、「生国」に、どうしてこんなに拘るのだろうと、おもうことがありましたが、今回の「つぶやき」を読んで、これは作者の頭脳の働きをのぞくことにつながり、クリエイティブプロセスの追跡だという事で、一段と上級な作者作品の研究法なのだと理解いたしました。
投稿: みやこのお豊 | 2005.04.24 01:43
>edoaruki さん
どうして、〔鷹ノ巣〕の新五郎のところで、眼鏡の話がとびたすのでしょう?
〔三雲〕の利八の項に、眼鏡師の身をやつしている市兵衛が出てき、そこへ、『江戸買物独案内』から眼鏡所の広告の図版を引用しています。
それに触発なされましたか?
せっかくのご研鑽の結果も、ここではいかにも、唐突。
〔三雲〕の利八のところへお移しになりませんか。
投稿: ちゅうすけ | 2005.04.24 04:02
>みやこのお豊さん
クリエイティヴ・プロセスの追跡であるとともに、各県の観光資源の開発でもあります。
それと、熱心な鬼平ファンは全国に何十万人といらっしゃるはず。
その方々に、『鬼平犯科帳』をもっと身近に感じていただくには、それぞれの県出身の者がいた、という郷土愛(?)のくすぐり。
いってみれば、床屋談義のネタ提供。
投稿: ちゅうすけ | 2005.04.24 04:10