« 〔名瀬(なせ)〕の宇兵衛 | トップページ | 〔鴨田(かもだ)〕の善吉 »

2005.04.23

〔鷹ノ巣(たかのす)〕の新五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻21に収録の[春の淡雪]に点景のように登場する首領。

221

年齢・容姿:点景あつかいなので、どちらも記述されていない。
生国:]武蔵(むさし)国男衾郡(おぶすまこうり)鷹巣村(現・埼玉県大里郡寄居町鷹巣)。
聖典は「鷹ノ巣」と記しているから、最初に美濃国加茂郡鷹ノ巣村(現・岐阜県美濃加茂市鷹之巣)を考えた。
また、〔雪崩(なだれ)〕の清松と知り合いという線から、雪の多い土地の出身とふんで、秋田県北秋田郡鷹巣町鷹巣も考慮してみた。
が、あれこれの候補地の中から「寄居町」の文字が目に入った瞬間、ここに決めた。
池波さんに『よい匂いのする一夜』(講談社文庫 初出:『太陽』1979年7月号-56年5月号)という、宿についてのエッセイ集がある。中の1軒が寄居町の〔京亭〕である。池波さんは、『偲びの旗』の冒頭場面のロケーションを書くためのほか、よほど気にいったか、その後も幾度も宿泊している。

探索の発端: 〔鷹ノ巣〕の新五郎の押し込先の、麹町の薬種店〔小西〕方は、もともとは〔池田屋〕五平が立てた計画であった。それを〔雪崩(なだれ)〕の清松と〔日野(ひの)〕の銀太郎が〔鷹ノ巣〕へ売ったものだ。
同心・大島勇五郎の密偵でもある清松に疑いをかけていた火盗改メは、〔池田屋〕一味をさぐりだし、〔小西〕方へ網を張った。
(参照: 〔池田屋〕五平の項)

結末: 〔小西〕方へ押し込む寸前に、待ちかまえていた鬼平軍団に、全員、あっけなく逮捕され、伝馬町の大牢屋送り。たぶん、死罪。

つぶやき:この盗人の生国調べは、池波さんの取材先・訪問先リサーチでもある。と同時に、過去の旅行先をどのように思い出して活用するのか、作家の頭脳の働きをのぞくことにもつながる。創作の楽屋裏調べという品がないが、クリエイティヴ・プロセスの追跡というと、なにやら、ありがたく聞こえる。
今度の〔鷹ノ巣〕の寄居町のように、そけがズバリときまると、爽快ですらある。。

|

« 〔名瀬(なせ)〕の宇兵衛 | トップページ | 〔鴨田(かもだ)〕の善吉 »

110埼玉県 」カテゴリの記事

コメント

鷹巣の新五郎は「春の淡雪」のなかで点景扱いされていますが、ほんの2行で、この首領の行状のすべてを語っているのですから、池波小説の省略法の凄さを感じました。

時々管理者さんは小説上の盗人なのに、「生国」に、どうしてこんなに拘るのだろうと、おもうことがありましたが、今回の「つぶやき」を読んで、これは作者の頭脳の働きをのぞくことにつながり、クリエイティブプロセスの追跡だという事で、一段と上級な作者作品の研究法なのだと理解いたしました。

投稿: みやこのお豊 | 2005.04.24 01:43

>edoaruki さん

どうして、〔鷹ノ巣〕の新五郎のところで、眼鏡の話がとびたすのでしょう?

〔三雲〕の利八の項に、眼鏡師の身をやつしている市兵衛が出てき、そこへ、『江戸買物独案内』から眼鏡所の広告の図版を引用しています。
それに触発なされましたか?

せっかくのご研鑽の結果も、ここではいかにも、唐突。
〔三雲〕の利八のところへお移しになりませんか。

投稿: ちゅうすけ | 2005.04.24 04:02

>みやこのお豊さん

クリエイティヴ・プロセスの追跡であるとともに、各県の観光資源の開発でもあります。

それと、熱心な鬼平ファンは全国に何十万人といらっしゃるはず。
その方々に、『鬼平犯科帳』をもっと身近に感じていただくには、それぞれの県出身の者がいた、という郷土愛(?)のくすぐり。
いってみれば、床屋談義のネタ提供。

投稿: ちゅうすけ | 2005.04.24 04:10

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/70984/3817472

この記事へのトラックバック一覧です: 〔鷹ノ巣(たかのす)〕の新五郎:

» 江戸の眼鏡考 [江戸を歩く]
我が国は必要とあらば難しい鉄砲でも外国産を真似て作る技術を有していた。 眼鏡であ [続きを読む]

受信: 2005.04.23 18:38

« 〔名瀬(なせ)〕の宇兵衛 | トップページ | 〔鴨田(かもだ)〕の善吉 »