〔中釘(なかくぎ)〕の三九郎
『鬼平犯科帳』文庫巻6の[猫じゃらしの女]に、上州・信州一帯をあらしまわっていた〔伊勢野〕の甚右衛門一味が、初めて江戸進出をくわだてたとき、上州・高崎に本拠をおく〔中釘〕が、外神田・山本町代地に住む〔型師〕の卯之吉を紹介した。
年齢・容姿:触れられていない。
生国:武州・大宮の中釘郷か?(現・埼玉県さいたま市大宮区中釘?)
探索の発端:〔型師〕の卯之吉が蝋型を、上野山下の提灯店のおよねに預けたために、伊勢野〕の甚右衛門一味の蠢動がばれたが、〔中釘〕の三九郎へは、追捕の手がのびていない。
(参照: 〔伊勢野(いせの)〕の甚右衛門 の項)
結末:素性・本拠がわかっているのに、逮捕の手がゆかない珍しい例。
つぶやき:a)提灯店の〔みよしや〕のおよねと密偵・伊三次の大活躍の篇だが、およねとの仲をとりもってもいいという鬼平に、伊三次は「とても、とても---」と断るのがおかしい。
「提灯店」は、「生池院店(しょうちいんだな)」から転じたものと。生地院は不忍池の弁天島にあった。その持ちものの貸家でもあったのだろうか。
提灯店の女性たちが「けころ」と書かれているが、昔のそのテのものの本によると、「けころ」はいまの上野松坂屋の1筋北あたりの娼婦の呼び名だったとか。提灯店はさらにもう2筋ほど北の岡場所。
〔みよしや〕のおよねが伊三次の腰につけさせ、その妙音を耳にしながら恍惚郷へ昇りつめたという「猫じゃらし」は、池波さんのエッセイによると、銀座のバーの女性が2個買ってきて、1個を池波家の猫たちへ進呈したものと。
その「猫じゃらし」をじっと眺めていて、伊三次の腰へ---と連想を働かせて物語をつくりあげるなんて、作家って奇妙な思考経路を持っているもののよう。
さいたま市 市政情報課 史料担当 加藤 さんからの連絡---
さいたま市の中釘町についてお知らせします。
市の北西にある中釘町は、かつては中釘村といっていました。明治22年4月1日に指扇村(ゆびおうぎむら)に合併し、昭和30年1月1日に旧・大宮市に合併。ずっと、農業をもっぱらとしていました。
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コメント
「猫じゃらしの女」を読み返してみました。「中釘の三九郎」はほんの少ししか出ていませんが密偵の伊佐次が「とても、とても」と断るのは五月闇に通じている、男なしでは過ごせない女郎の性を物語っているように思います。 好みでしょうけれど大人の女を相手にするのは少女趣味よりは健全ですね。
投稿: edoaruki | 2005.02.06 12:08
edoaruki さん
よく考えてみると、〔中釘〕の三九郎がなぜ登場しなければならかったのか、いささか首をかしげまする。
〔伊勢野〕の甚右衛門一味と〔型師〕の卯之吉をつなげるたろには、江戸の盗賊のだれかでもよかったわけですから。
上州が地盤の盗賊同士の「貸し借り」ということだったのでしょうか?
ところで、〔みよしや〕のおよねがそうだからといって、岡場所のすべての女性を「男なしでは過ごせない女郎の性」と切って捨てるのはどんなものでしょう?
ああいうところの女性にもいろいろ事情があってのことでしょうし、タイプもさまざまではないでしょうか?
もっとも、ぼくの年齢では、その辺の体験がほとんどないもので。
投稿: ちゅうすけ | 2005.02.07 15:52