〔猫間(ねこま)〕の重兵衛
[『鬼平犯科帳』文庫巻22、特別長篇[迷路]の影の悪党の首領。もとは30俵2人扶持の貧乏御家人の妾腹の子で、父親の悪業により、家名断絶ののち、無頼の徒となり、盗みにも手を染め、一団の頭目となる。
年齢・容姿:老人と書かれているが、若いころの銕三郎(長谷川平蔵の家督前の幼名)との間柄から推測すると、さしたる年齢差はみとめられないから、50代中ばか。右腕がないのは、30余年前に銕三郎との争いで斬りおとされたため。
生国: 武蔵国江戸・深川(現・東京都江東区深川)
探索の発端:同心・細川峯太郎が博打に手をだし、すっかりすられた日、立ち寄った小料理屋で知り合った年増女と老爺の人相書の絵から、おまさが老爺を盗人〔矢野口〕の甚七と名ざした。
それから年増女お松が見張られ、中山道・深谷の在に潜んでいた〔猫間〕の重兵衛---じつはかつての御家人の息子・木村源太郎の存在が知れた。
〔猫間〕の重兵衛が潜んでいたのは深谷宿のはずれ(幕府道中奉行制作『中山道分間延絵図』・部分)
結末:深谷の隠れ家に踏み込んだ鬼平と火盗改メに、重兵衛ほか[ 猫間〕一味10名が逮捕された。かずかずの悪業のゆえに、おそらく、獄門。お松は死罪。
つぶやき:「猫間」とは、辞書によると、夏の扇子の親骨に彫られた透かし文様の格狭間。それから転じて、さまざまに変化する猫の瞳。
〔猫間〕の重兵衛の瞳もそのように、平凡から悪業へと変わり身が早かったのであろう。
銕三郎時代の鬼平が、盗賊の片棒をかついだことが明かされてい、文庫巻7[泥鰌の和助始末]にも、生まれて初めて片棒をかつく寸前に剣客盗賊・松岡重兵衛に叱責されて思いとどまったとある。この2篇の相関関係をどう解釈したものか。
弟は〔池尻(いけじり)〕の辰五郎とあるが、銕三郎に斬り殺された御家人の父親・木村惣市の本妻は身ごもることはなかったというから、弟とは、源太郎(のちの〔猫間〕の重兵衛)を産んだ深川の料理茶屋で女中をしていた女性であろうか。
(参照: 〔池尻(いけじり)〕の辰五郎 の項)。
〔池尻〕の辰五郎は、この[迷路] の冒頭に、、「岐阜県大垣市の池尻の生まれ」とわざわざ書かれてい、「源太郎が3歳の折に、行方知れずになった---」とあるから、身重の躰で生国の池尻へ戻って辰五郎を産みおとしたのかも。
のち、源太郎(〔猫間〕の重兵衛)と辰五郎がなにかの機会に出会い、おたがいに父親と生母をともにしている実の兄弟であることを確かめあったのであろうか。
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コメント
特別長編迷路を朝から読み始め今読み終わりました。
謎が謎を呼び、猫間の重兵衛は深谷で腰を据えてうごかず、ぐんぐんと鬼平の世界に引き込まれました。
さて池尻の辰五郎と猫間の重兵衛の義兄弟ですが、小説では先代池尻の辰五郎の娘と猫間の重兵衛が夫婦となり池尻の辰五郎と義兄弟になったと佐嶋が平蔵に説明しています。(文庫22 P.350)
オール読物に昭和58年5月号から昭和59年3月号まで連載で、当時毎月20日頃の発売が待ちどうしかった事思い出します。
投稿: 靖酔 | 2005.02.14 18:29
>靖酔さん
ご教示、ありがとうございました。
新装版ではp332,3です。
自分の手落ちを棚にあげていうのではないですが、インターネットの一大特長は、同好の士によるフォーロッアップと相互啓発、情報と知恵の積み重ねです。
今後とも、切磋琢磨、よろしく。
投稿: ちゅうすけ | 2005.02.15 07:03