« 〔鶴(たずがね)〕の忠助 | トップページ | 〔猫間(ねこま)〕の重兵衛 »

2005.02.13

〔鹿谷(しかだに)〕の伴助

『鬼平犯科帳』文庫巻18に収録の[一寸の虫]に出ていて、血なまぐさい盗めをする盗人。親子2代にわたって本格派の〔船影(ふなかげ)〕の忠兵衛の配下だったが、信州・上田城下で押し込み先で、奉公人を1人殺害してしまい、100敲きの上、追放されたことを、根深く恨みに思っている。

218

年齢・容姿:中年男。小肥りで赭ら顔。
生国:越前国足羽郡(あすわごおり)鹿谷郷(現・福井県勝山市鹿谷)
福井県下でも九頭竜川上流の山間にあり、鹿谷の郷名にふさわしいと思ったので決めた。

が、〔ながればたらき〕として「上方から中国筋をまわっていた」ともいっているから、静岡県浜松市鹿谷の線も捨てがたい。とりわけ、〔船影〕の忠兵衛一味の稼ぎのテリトリーは、関東一円から上信の2州、さらに北陸へかけてであったという。
(参照: 〔船影(ふなかげ)〕の忠兵衛 の項)
(このあたりのところは、勝山市と浜松市の鬼平ファンの方のご意見が聞きたい)。

探索の発端:〔船影〕一味にいたときに押し込み先で女中を犯して破門され、その後、〔不動〕の勘右衛門のところにいて逮捕されて密偵になった仁三郎が、深川・蛤町の一本うどんが名代の[豊島屋」で、〔鹿谷〕の伴助に声をかけられた。

〔鹿谷〕の伴助は、「お互いに、〔船影〕の忠兵衛にはひどい目に合わされたのだから、その復讐ばたらきを手伝わないか」と、仁三郎を誘った。が、仁三郎としては、10数年以上も昔の〔船影〕から受けたのは愛の鞭で、それ以後まっとうに生きることができたのだから、感謝こそしているが、露ほども恨みにはおもっていなかった。

それでも、手伝うことを承知したのは、〔鹿谷〕の伴助が目をつけているのが、本銀町(もとしろがねちょう)の菓子舗〔橘屋〕で、そこの若女将が〔船影〕の忠兵衛のむめすだから、一家皆殺しにして、忠兵衛を苦しめるという算段を阻止しようとかんがえたゆえだった。

結末:〔橘屋〕伊兵衛方へ押し入ったとたんに、仁三郎は伴助を刺し殺したうえで、自害して果てる。

つぶやき:、正統派盗賊として「犯さず、殺さず、貧しきからは盗まず」の3カ条の掟を金科玉条としている〔船影〕の忠兵衛による処罰を、仁三郎は愛の鞭として受けとめて以後の指針とし、〔鹿谷〕伴助は恨みとして根にもった。
同じ言葉や行為でも、受けとめる者の人間性によって、善にも悪にもなる---という池波さん流のさりげない人生訓の一例。

|

« 〔鶴(たずがね)〕の忠助 | トップページ | 〔猫間(ねこま)〕の重兵衛 »

119福井県」カテゴリの記事

コメント

一寸の虫
〔鹿谷〕の伴助は、「お互いに、〔船影〕の忠兵衛にはひどい目に合わされたのだから、その復讐ばたらきを手伝わないか」と、仁三郎を誘った。が、仁三郎としては、10数年以上も昔の〔船影〕から受けたのは愛の鞭で、それ以後まっとうに生きることができたのだから、感謝こそしているが、露ほども恨みにはおもっていなかった。

それでも、手伝うことを承知したのは、〔鹿谷〕の伴助が目をつけているのが、本銀町(もとしろがねちょう)の菓子舗〔橘屋〕で、そこの若女将が〔船影〕の忠兵衛のむめすだから、一家皆殺しにして、忠兵衛を苦しめるという算段を阻止しようとかんがえたゆえだった。

投稿: edoaruki | 2005.02.13 14:13

edoaruki さん

じつに、しっかり、原作をお読みになっていますね。
お書きのとおりです。

よくぞ、鬼平ファンを、正しく、お導きくださいました。池波さんに成りかわって、おん礼申しあげます。

みなさん、edoaruki さんのコメントを熟読玩味なさってください。『鬼平犯科帳』の面白さが倍増しますから。

投稿: ちゅうすけ | 2005.02.13 17:30

昨日講座で見たビデオの「一寸の虫」では最後に平蔵が捕らえた忠兵衛にお前の配下に仁三郎と申す男はいなかったかと訊ねると記憶がないと応えますが、小説では
「おりましてございます。仁三郎はまことに情の厚い、しっかりした男でございましたが、魔がさしたのかして若い女を手ごめに致しましたので、やむなく追い放ちました」とあります。
やむなくという言葉に忠兵衛も仁三郎を手離したくなかった気持ちが見えます。
平蔵からは見どころがあると見込まれ、忠兵衛からは頼りされた仁三郎はたいした男です。
テレビの結末にはうなづけませんでした。
鹿谷の伴助は自分の事は棚に上げて逆恨みをするとんでもない奴ですね。

投稿: 靖酔 | 2005.02.13 18:03

>靖酔さん

そうでした。きのうのクラスで見たビデオのラストは納得できませんね。

仁三郎のような、忠誠心の篤い配下がいてこそ、一味が成り立ってゆくのでしょう。

〔鬼平〕クラスも同じです。edoaruki さんや靖酔さんのように、こちらの本文に、即座に反応してくださる方がいるから、このブログが持続できるのです。

反応がないと、ただちに、やめます。

投稿: ちゅうすけ | 2005.02.13 18:55

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/70984/2906916

この記事へのトラックバック一覧です: 〔鹿谷(しかだに)〕の伴助:

« 〔鶴(たずがね)〕の忠助 | トップページ | 〔猫間(ねこま)〕の重兵衛 »