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2005.04.02

〔馬蕗(うまぶき)〕の利平治

『鬼平犯科帳』文庫巻13に収録の[熱海みやげの宝物]で登場し、鬼平の人柄に心酔、のちに密偵となる。もともとは上方の盗賊〔高窓(たかまど)〕の久兵衛一味にいて、〔甞役(なめやく)〕として押し入るのに適当な商家や豪農の候補先を調べて、九州から北海道まで歩いていた。
〔甞役〕という職分は、池波さんによって、この篇の直前にあたる文庫巻12[二人女房]から創始された。いってみれば、盗賊グループの市場調査部長か。
(参照: 〔加賀屋〕佐吉の項)

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年齢・容姿:この篇への登場時は55,6歳。〔馬蕗(うまぶき)〕は容貌からきた異名。すなわち、牛蒡(ごぼう)の古称どおりに、顔も躰も細くて長い。
生国:江戸のどこか(現・東京23区内のどこか)。

探索の発端:妻女・久栄、おまさ、彦十らと熱海へ湯治にきていた宿〔次郎兵衛の湯〕の耳へ、〔高窓〕の久兵衛一味の2人が同宿したと彦十がささやいた。彦十が〔高窓〕のところで世話になつた15,6年前、有馬の湯で病後を癒している利平治へ、久兵衛からの見舞金50両をとどけたことがあった。
その利平治が彦十へ相談を持ちかけたのは、ぴったりくっついている肥体の〔横川〕の庄八(30男)が、じつは亡くなった〔高窓〕の久兵衛にわたすはずだった〔甞帳(なめちょう)〕の隠し場所をさぐりだすためためなのだと。(〔甞帳〕は、この篇で初めて使われた造語)
(参照: 〔横川〕の庄八の項)
利平治とすれば、〔甞帳〕は、行方不明の2代目、〔布屋〕久太郎へ手渡したい。聞いた鬼平は、一味の後窯に居すわった浪人・高橋九十郎一派から、利平治を、久太郎が隠れているはずの江戸まで護衛してやろうと提案した。

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(六郷の渡し 『江戸名所図会』より 塗り絵師:ちゅうすけ)

結末:案の定、程ケ谷宿の権太坂で襲ってきた高橋一味を始末した鬼平は、六郷の渡しを渡ったところで、利平治を開放したが、翌朝、役宅へ訪ねてきた利平治が、宝物の〔甞帳〕をさしだし、いまは旅籠の婿におさまっている久太郎の助命を乞うのだった。
こうして、密偵〔馬蕗〕の利平治が誕生したが---。

つぶやき:利平治はこの篇以後、文庫巻19[妙義の団右衛]で団右衛門に殺害されるまで、〔小房〕の粂八の舟宿〔鶴や〕に寄宿したりしながら、文庫巻14[殿さま栄五郎]、巻16[白根の万左衛門]などで密偵として、前歴を生かした独自の活躍する。
(参照: 〔白根〕の万左衛門の項)

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コメント

「馬蕗」の利平治さんって、すごく誠実な人ですね。「高窓」一味の大半が気前よく金をばらまく浪人の高橋九十郎側へついたのに、ひとり、2代目につくそうとして、命をかけているなんて。

江戸生まれの利平治さんが、上方まで流れていって「高窓」のお頭に拾われるには、それだけの境遇だったのでしょう。

それにしても、全国を気ままに、ものになりそうな商家を甞めてまわるなんて、うらやましいようなお仕事です。

投稿: 練馬の加代子 | 2005.04.03 08:30

>練馬の加代子さん

---盗賊稼業へ沈みこむ男と女たちの経歴は、形はちがっても、
「煎じつめれば、同じようなものじゃ」

と、鬼平は一括してしまいましたが、「形のちがい」こそが、人生の彩りのヴァラエティであり、小説のネタだとおもうのですが---。

投稿: ちゅうすけ | 2005.04.03 08:40

相手を簡単に信じるなの標本
馬蕗の利平治は牛蒡のように黒くてひょろ長い体格をもっていたらしく、利平治は外観だけでなく心が優しくて盗人としての心構えが足りなかったのでしょう。 人間、人が良いだけでは損をする標本のようなものです。 
世の中、口で言っていることと腹の中が違っている人は大勢います。 「都合の悪いこと-----は記憶にない」、「お前を信じるよ」などと言われると「本当かな」と純粋な人ほど思ってしまう。権謀術策が横行しやすい世の中では「相手を簡単に信じるな」が原則、生一本で純粋なだけに妙義の団右衛門に殺される運命の悲しい性格だったことは本当でしょう。

投稿: edoaruki | 2005.04.03 14:01

>sotoariki さん

「だます」「だまされる」は、「人がいい」ではすまされないようです。

他民族とあまり接触のなかった日本人は、「だまされ」体験が、インド人や漢民族の人たちより希薄なんですってね。

「だまされて」いると、「ウソつき」遺伝子があっというまにひろがり、それがあるレベルに達すると、だまされて恨む集団がふえ、「ウソつき」の遺伝子の増殖も止まり、適当なバランスを保つようになる、という説もあります。

つまり、「だまし」にひっかかるのは、まだ、世の人々が「うそをつかれる」のになれていない証拠とか。

投稿: ちゅうすけ | 2005.04.05 03:19

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