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2005.01.03

〔蓑火(みのひ)〕の喜之助

『鬼平犯科帳』文庫巻1[老盗の夢]ほかにしばしば登場。
「犯さず、殺さず、貧しきからは盗まず」の本格派の3カ条を守りぬいて死んでいった。

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年齢・容姿:67歳。めっきり老け込んだ老顔。
生国:信濃(しなの)国上田(長野県上田市)
探索の発端:隠居していた京都で、偶然に、愛宕郡の山端(やまばな)の茶屋〔杉野や〕で茶汲みをしている20歳の大女・おとよと出会う。

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おとよが働く山端の麦飯茶屋は2本の板橋の向う岸の2軒のどちらか(『都名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)

もともとから大女が好みの喜之助は、しばらく絶えていた老躯が抱いたおとよの狂態によって蘇えったのに驚喜。

おとよとの新生活の夢がふくらみ、その資金稼ぎに江戸へ下り、盟友〔夜兎〕の角右衛門の盗人宿の一つ---元鳥越の松樹院門前の花屋〔前砂(まいすな)〕の捨蔵に、おつとめを助けてくれる者たちを紹介してもらう。
〔蓑火〕一味は、これまで、江戸でおつとめをしたことはなかったからである。
(参照: 〔夜兎〕の角右衛門の項)
(参照: 〔前砂〕の捨蔵の項)

ところが、〔野槌〕の弥兵衛一味の生き残りだった彼らは、〔蓑火〕流の本格派のつとめをせせらわらい、喜之助を縛って彼らだけで押し入ろうとする。
(参照: 〔野槌〕の弥兵衛の項)

結末:本格派の意地にかけても見逃すわけにはいかない。九段坂下の屋台で出陣の酒を飲んでいた彼らを刺殺するが、みずからも命を絶った。
亡骸が〔蓑火〕の喜之助と知れたのは、彦十や〔小房〕の粂八が刺し傷だらけの壮絶な遺体改めたからである。
この篇は、本格派への挽歌といえる。

つぶやき:盗賊一味をたばねていく首領にも、相応の指導力と知力が必要である。しかしぼくは、もう一つの条件をつけたい。

それは、どれほどの配下を鍛え、育てたか、である。
〔蓑火〕の喜之助はすごい。


                      ★首領
 源吉 宿屋〔藤や〕の主人 50男  [1-5 老盗の夢]
(参照: 〔藤や〕の源吉の項)
 〔白玉堂〕の紋蔵 のち〔蛇の軍師〕 [2-1 蛇の眼]
(参照: 〔白玉堂〕の紋蔵の項)
★〔大滝〕の五郎蔵 6尺余の巨漢  [4-7 敵]
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
★〔五井〕の亀吉。〔大滝〕と共同で盗めを [4-7 敵]
(参照: 〔五井〕の亀吉の項)
 〔舟形〕の宗平。〔蓑火〕から 〔初鹿野〕一味ヘ [4-7 敵]
(参照: 〔舟形〕の宗平の項)
  〔大和屋〕金兵衛 〔蓑火〕の解散で上野山下で鰻屋を [5-1 深川・千鳥橋]
(参照:〔大和屋)金兵衛の項)
  〔関宿〕の利八 のち〔夜兎〕の角右衛門配下 [5-6 山吹屋お勝]
(参照: 〔関宿〕の利八の項)
〔夜兎〕配下の女賊おしのが〔関宿〕の利八とできたので、
〔蓑火〕がおしのを預かり利八は許してもらう [5-6 山吹屋お勝]
(参照: 〔山吹屋〕お勝 の項)
〔蛙〕の市兵衛 五郎蔵と仲がよかった。
 息子:〔砂井〕の鶴吉       [7-4 掻掘のおけい]
(参照: 〔砂井〕の鶴吉の項)
 〔鹿留〕の又八 数珠師     [8-2 あきれた奴]
(参照:〔鹿留〕の又八の項)
 おひろ 〔風穴〕の仁助の女房 骨がみたい [9-5 浅草・鳥越橋]
(参照: 女賊おひろの項)
 〔長久保〕の佐助。         [12-3 見張りの見張り]
(参照: 〔長久保〕の佐助の項)
★〔墨つぼ〕の孫八。         [13-4 墨つぼの孫八]
(参照: 〔墨つぼ〕の孫八の項)
  〔布目〕の伊助 半太郎の父親 [14-2 尻毛の長右衛門]
  〔布目〕の半太郎 父親とともに。 [14-2 尻毛の長右衛門]
(参照: 〔布目〕の半太郎の項)
★〔尻毛〕の長右衛門 [14-2 尻毛の長右衛門
(参照: 〔尻毛〕の長右衛門〕の項)
 〔駒屋〕万吉 妙義山の笠町で旅籠。 [14-2 尻毛の長右衛門]
(参考:〔駒屋〕の万吉の項)
 〔殿さま〕栄五郎 備前岡山の浪人  [14-3 殿さま栄五郎]
(参照: 〔殿さま〕栄五郎の項)
★〔堀本伯道 剣客医師。          [15-1 雲竜剣 赤い空]
(参照: 剣客医師・堀本伯道の項)
 鍵師の助次郎 八日市。可愛がった。[15-1 雲竜剣 赤い空]
(参照: 鍵師・助次郎の項)
 〔瀬川〕の友次郎 長年〔蓑火〕の下で。[18-6 草雲雀]
 (参照: 〔瀬川〕の友次郎の項)
 市兵衛 眼鏡師。70近い    [20-2 二度あることは]
(参照: 眼鏡師・市兵衛の項)
 女賊おしまの両親。        [20-1おしま金三郎]
 密偵・与吉 同心時代の松波金三郎の手の者
配下のころおしまの両親と親しかった  [20-1おしま金三郎]
(参照: 女賊おしまの項)
 〔三雲〕の利八 40前。役者にしたいほどいい男 [20-2 二度あることは]
(参照: 〔三雲〕の利八の項)
 〔寺尾〕の治兵衞 口合人。   [20-7 寺尾の治兵衞]
(参照: 〔寺尾〕の治兵衛の項)
 〔穴原〕の与助。          [20-7 寺尾の治兵衞]
(参照: 〔穴原〕の与助の項)

錚々たる顔ぶれである。『鬼平犯科帳』の4半分は、影で〔蓑火〕の喜之助の卒業生で支えられているといってよいのでは----。

その後、お幾さんから、〔蓑火〕が鳥山石燕『画図百鬼夜行』にでていることを教わった。
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絵には、「田舎道などに夜な夜な火のもゆるは狐火なり。この雨に着たる簑の島とよみし簑より火の出(いで)しは陰中の陽気か。又は耕作に苦しめる百姓の臑(すね)の火なるべし」が添え書きされている。

お幾さんの付記:
《みのひ》ではなくて《みのび》と言います。
新潟地方、秋田地方の妖怪
新潟ではイタチの仕業、秋田では寒い晴れた日に蓑や笠が光ることをいう。

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コメント

正月3日目にして大真打の登場ですね。
9時過ぎにお気軽書き込み帳に投稿し、念のためにと「盗人探索日録」に入ったらなんと[蓑火の喜之助]ではありませんか。
わいわい談議で「被蓑而救火(ミノヲカウムリテヒヲタスク)」の言葉を引用して図らずも蓑火の喜之助の最後を象徴しているようだとあり凄く印象に残ってます。
喜之助67歳、靖酔そこまでにはまだ若干の年あり、老け込まずに、芝の愛宕山で若い子に出会わなければ、でも階段登れるかしら、そうだエレベターがありましたね。

投稿: 靖酔 | 2005.01.03 09:45

ほんとうは、元旦にアップしたかったのですが、準備不足で、きょうになってしまいました。

この人には、書くべきことがたくさんありますが、とりあえず、数多くの部下を鍛え、世に送りだした(?)点を指摘してみました。

鬼平に次ぐ、部下育て上手ではないでしょうか。
この人に次ぐのは、先代の〔狐火〕の勇五郎でしょうか。
盗人の側に照明をあてて組織論をやるのも、『鬼平犯科帳』の読み方とおもっていますので。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.03 15:04

「蓑火の喜之助」とても魅力的で、様様な角度から
捉える事ができるとおもいます。

本格派の3か条を守りぬき、数多くの配下を鍛え、
育てた「すごい」お頭といっても、

所詮、盗人の育成であり、世の中に悪を、送り出して
いるのですから、そんなに「すごい」と誉めてよい
のでしょうか。

でも、鬼平フアンなのに、こんな事いうのは
野暮ですわね。

投稿: みやこのお豊 | 2005.01.04 03:11

あたしの好きな1篇です。

67歳にもなって---いえ、67歳だから、突然回復した男性力に有頂天になって、47も歳の違う若いおとよと所帯をもとうと考えるなんて、可愛いじゃないですか。

そりゃあ、そのことが悲劇を生むとわかっていても、男としてはその気になってしまっても仕方がないでしょうね。消えゆく寸前の最後のひと燃え---池波センセもやるもんだ。

47歳差。秋山小兵衛とおはるの差は40---あ、そうか、『剣客商売』の小兵衛・おはるの設定のそもそもは、これだったんですね。

投稿: 裏店のおこん | 2005.01.05 17:07

池波さんは、〔蓑火〕の喜之助の名を23話余にだしていますが、その都度、草かんむりの〔蓑火〕であったり、竹かんむりの〔簑火〕であったり。
法則性はありません。
『画図百鬼夜行』に従うなら、草かんむりであるべきでしょうね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.11.16 15:39

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