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2005.01.29

〔関宿(せきやど)〕の利八

『鬼平犯科帳』文庫巻5に所載の[山吹屋お勝]で、鬼平の意をくんで、お勝の素性を探りに来て、駆け落ちしてしまう。

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年齢・容姿:43歳。色白で、でっぷりとした躰つき。細い眼がやさしげで、なかなかに人品がよい。
生国:備後国福山(現・広島県福山市)の浪人の子として生まれたとというが、〔関宿(せきやど)〕を「通り名(呼び名)」にしているところをみると、生まれたか育ったのは下総国葛飾郡関宿(現・千葉県東葛飾郡関宿町)であろう。

探索の発端:といっても、属していた〔夜兎〕の角右衛門が、配下の不首尾のために一味を解体して自首して出たときに、ただ一人、お頭にしたがい、のち、火盗改メの密偵として、本所・横網町で〔玉川〕という小料理屋の亭主をして生計をたてていたから、当人の発端ではなく、〔山吹屋〕のお勝の素性調べの発端である。
お勝--おしのについては、
(参照: 〔山吹屋(やまぶきや)〕お勝 の項)
(参照: 〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門 の項)

お勝が、王子の料理屋〔山吹屋〕の茶屋女中にもぐりこみ、たぶらかして後妻の座を狙っている相手は、鬼平の従兄・三沢仙右衛門(55歳)である。
その人品を確かめに〔山吹屋〕へ出むいた鬼平が、かすかにこだわることになったのは、たわむれに掴んだ手首を、引かないで、逆に鬼平の鼻のほうへ押すようにして外したその手練であった。
その3日後、利八が〔山吹屋〕へやってきた。

結末:庭先の茶室めいた離れへ通った利八(触れ込みは湯島天神下の畳表問屋〔白子屋勘兵衛〕)に、酒を運んできたお勝(じつは、おしの)は、15年前に無理やり仲を引き裂かれた利八と見定め、燃え上がり、2人ともなにもかも捨てて駆け落ちするのだが、その途中で利八は、江戸へ潜入してきている盗賊〔霧(なご)〕の七郎の所在を手紙で鬼平へ知らせてき、捕物となった。
(参照: 〔霧(なご)の七郎 の項)

つぶやき:15年前に2人ができたのは、武州・岩槻の物持の家をねらって組んで仕事をしていた、思慮分別よりもまだ躰の方がが先行してしまう年齢利八が28歳、おしのが23歳のときだった。
2人の情事に気づいたのは、〔夜兎〕一味の家老格の〔前砂〕の捨蔵だったが、おしのは〔蓑火〕の喜之助に引き取られて1件は落着した。〔蓑火〕とすれば、利八を〔夜兎〕の一味へ送り込んだ手前もあったろう。
(参照: 〔蓑火(みのひ)の喜之助 の項〕)

当時、先代〔夜兎〕の時から大番頭として采配をふるっていた〔前砂〕の捨蔵とすれば、一味の内規を守りぬくのは当然のことだが、老いて、元鳥越の松寿院門前で一味の盗人宿の花屋の番人をしていた後年の温和さのかけらでもあったら、若い2人のその後は物語とは違ったものになっていたろう---などというのは、恋愛至上主義に毒された者のいいぐさである。
(参照: 〔前砂〕の捨蔵の項)

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コメント

15年ぶりに再会できたおしのと利八---「おめでとうさん、よかったね」といってあげたいところだけど、男ざかりの利八に女はいなかったのかしらねえ。

あたしの〔小房〕の粂八さんとおんなじで、密偵稼業にきまった女は不要---なんかな。

となると、密偵仕事は味気ないけど、おまささんだって五郎蔵どんとくっついたんだから、利八に女がいても不思議はないんだけど、そうしたら純愛ものにならないもんねえ。

投稿: 裏店のおこん | 2005.01.29 11:15

昨日の「山吹屋お勝」、今日の「関宿の利八」と続くと
まるで、ラブストーリーを読んでいるみたいです。

15年ぶりに偶然再会したおしのと利八が、すべてを
捨てて駆け落ち、で・き・る・なんて・・・・・・。

思慮分別のある年齢になっているからこそ、柵がいっぱいあるはずなのに。あの二人には何もなかったのでしょうね。(利八が「霧の七郎」の所在を知らせた以外
には))

情熱的というか、来し方の人生が寂しすぎるというか。きっと赤い糸で結ばれていたのですね。

それにしても、鬼平犯科帳から盗人探索日録そして
恋愛談義まで出来るとは、池波小説って本当に奥が
深いんですね。

投稿: みやこのお豊 | 2005.01.29 23:13

>みやこのお豊さん

うーん、ラブ・ストーリー、ねえ。

聖典を読むかぎりでは、おしののほうが旧情を燃え上がらせるのに、情熱的というか、熱積極的ですね。

むかしの男を拒否した久栄さん、むかしの男にすべてを託すおしの---『鬼平犯科帳』の女性はさまざまです。なんだか、小泉首相もどきのレスですが。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.30 16:32

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