〔大和屋(やまとや)〕金兵衛
『鬼平犯科帳』文庫巻5に所載の[深川・千鳥橋]に、脇役として登場する鰻店の〔大和屋(やまとや)〕金兵衛は、大盗〔蓑火(みのひ)〕の喜之助の配下として30年ものあいだ忠実にはたらき、老齢を理由に喜之助(62歳)が一味を解散したのを機に、すっぱりと足を洗い、もらった退(ひ)き金140余両にもち金をあわせ、上野山下の仏店(ほとけだな)に蒲焼の店をはじめたのが、5年前(天明4年 1784)だった。
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)
店構えも小ざっぱりしているし、はじめから腕のよい職人をあつめたので、たちまち評判となった。
そこへ、〔蓑火〕時代に図面のことでお頭・喜之助へ何度か口をきいてやった大工あがりの〔間取(まど)り〕の万三(51歳)が訪ねてき、手元に残っている5枚の間取り図を売りたいという。
(参照: 〔間取り〕の万三の項)
自分はすでに足を洗っているからと、〔己斐(こひ)の文蔵(40をこえている)に引きあわせた。
(参照: 〔己斐〕の文助の項)
〔己斐〕の文三は〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門の下で15年間腕をみがいたのち、腕のいい錠前外しとしてひとりばたきをしている。
(参照: 〔夜兎〕の角右衛門の項 )
年齢・容姿:60過ぎ。柔和な人柄。
生国:記述はされていないが屋号と、引く前の住まいが上方だったことから、大和(やまと)国(現・奈良県)のどこか、と推察。
(探索の発端)密偵になった〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵が、逮捕とないという口約束を鬼平とし、〔間取り〕の万三を見つけるために、〔大和屋〕を見張った。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
鬼平が〔間取り〕の万三に執着したのは、図面を買った盗賊たちの情報がほしかったからである。
結末:五郎蔵も、足を洗って正業についているかつての同僚の金兵衛のことまでは、鬼平にもらしていなかったから、火盗改メは金兵衛の前身には気づかなかった。
つぶやき:それにしても、池波さんの配慮も行きとどいている。〔間取り〕の万三が身の始末金をひねりだすために、間取り図の買い手をさがしたとき、〔大和屋〕金兵衛に、
「これからはう、私が手引をするわけにゃあいかないが---そのかわり、しっかりした人をお前さんに引き合せよう」
といわせて、盗めがらみのことには、直接にはタッチしないように設定している。もっとも、江戸時代の刑法では、紹介者も連帯して罰せられたはずだが。
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