〔大和屋(やまとや)〕栄次郎
『鬼平犯科帳』文庫巻3の[兇剣]に登場する、大和国(奈良県)大泉村うまれのむすめ・およねを、大坂・道頓堀川の東、下大和橋の南たもとで、〔讃岐・金毘羅出船所・諸国御宿〕の看板を出している〔出雲屋〕の主人・丹兵衛(60をこえた)のもとへ女中として口をきいたのが、大坂・堺すじ唐物町で小さな呉服店を出している〔大和屋〕栄次郎であった。
(参照: 〔高津〕の玄丹の項)
およねは、玄丹(出雲屋丹兵衛)一味が、大坂町奉行所の同心・稲垣鶴太郎(30がらみ)殺しを見てしまい、一味から命をねらわれるが、鬼平にかくまわれた。
年齢・容姿:どちらの記述もない。
生国:大和(やまと)国式上郡(しきのかみこおり)柳本村(現・奈良県天理市柳本町)。
探索の発端:g)京都の嵯峨野で、およねが鬼平に助けを求めたことから、事件の臭いをかぎとった鬼平が、歌姫街道をたどっての奈良見物に伴った。それを追う玄丹一味の浪人たちの存在で、辞退は一気に展開しはじめた。
結末:大泉村の大庄屋・渡辺家を襲った玄丹一味は、京都西町奉行・浦部彦太郎(40すぎ)が手くばりした代官屋敷から出動した組に捕らえられた。
盗人だった〔大和屋〕栄次郎ものちに捕まった。稲垣同心は、〔大和屋〕が盗人とうすうす気づいていて、その先を恐れた玄丹に殺されたのであつた。
玄丹は、1か月後に紀州・那賀郡・喜志で捕縛された。
つぶやき:連載第18話目にあたるこの篇は、ふだんの分量の倍もある中篇となっているのは、『鬼平犯科帳』の人気がようやく高まり、池波さんの裁量が『オール讀物』編集部内であるていど許されてきていたと見る---と、〔高津〕の玄丹の項で書いた。
人気の高まりがどれほどであったかは、いまとなってははかるすべもないが、松本幸四郎(白鴎丈)さんによるテレビ化の話は、このころ、着々と具体化していた。
さて、大和国大泉村へ、天領・辻村の代官屋敷から捕り方が出動したとあります。この磯城郡(しきこおり)辻村出身の人物が、『剣客商売』の第2話に登場する嶋岡礼蔵である。
[兇賊]の『オール讀物』への掲載は1969年7月号、[剣の製薬]は3年遅れの1972年2月号の『小説新潮』。池波さんがこの辻村に興味をもったのは、なにによってであろうか。謎がまた一つできた。
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