表御番医・吉野道伯
『鬼平犯科帳』文庫巻17は、長篇第2作[鬼火]である。この篇の後半部にいたって初めて登場するのが、この仁---いまは隠退して病臥中の、元表御番医・吉野道伯。
かつて、600石の旗本・永井弥一郎を浅草の水茶屋の茶汲み女・お絹に引き合わせだが、お絹が女賊だったために、家督を養子の弟の伊織へゆずる形で逐電させた。
(参照: 元旗本・永井弥一郎の項)
伊織は、大身7000石の渡辺丹波守直義が家督前の16歳のときに女中のお浜に産ませた子で、開幕以前には家臣であった永井家へ送りこまれていた。
道伯は、丹波守とは別腹の弟で、表御番医にまでなれたのも、父・渡辺直幸の配慮であったという。
しかし、道伯は医術を学ぶかたわら、本格派の盗賊〔名越(なごし)〕の松右衛門とも結びついていた。
(参照: 〔名越〕の松右衛門の項)
しかし、ある事情から、〔名越〕の松右衛門は一味を解散、飄然と故郷・伊勢国へ去った。残された者たちのうち、足を洗う気のなかったのが、浪人あがりの滝口金五郎(43歳)を頭にすえた。
年齢・容姿:70歳近くか。容姿の記述はないが、医者としてはなかなに商売上手で資産も多い。
生国:武蔵(むさし)国江戸の町家のむすめが生んだとある。
探索の発端:駒込に〔権兵衛酒屋〕へ賊が押し入り、弥市夫婦を惨殺しようとするところを、鬼平が助け、弥市が逃げうせたことから、探索が始まった。謎は謎を呼び、600石の引退中の旗本・清水三斎までたどりついて、ようやく事件の真相が見えてくる。
結末:吉野道伯は、入牢中に病死。滝口金五郎ほか一味は磔刑。弥一郎も死罪。
つぶやき:大身旗本家のお家騒動に盗賊をからませたところがストリー・テリングのうまい池波さんの手腕であろう。時代小説も、ミステリー風味をつけないと、読み手の興味をつなぎとめられなくなっている。
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