元旗本・永井弥一郎
『鬼平犯科帳』文庫巻17は、長篇第2作[鬼火]である。この篇で謎めいた男、〔権兵衛酒屋〕の亭主の正体が、旗本・永井家(600石)の長男・弥一郎と知れるのは、物語が211ページも進展してからである。
5年前から開いている〔権兵衛酒屋〕の屋号も、看板や暖簾に記されているものではなく、土地の人たちが「名無しの権兵衛」からつけたほど、亭主は無口だし、女房らしい女・お浜(58歳)も愛想がない。
この夫婦が襲われ、亭主が逃亡、斬られたお浜が自害したことから、鬼平の疑惑が始まった。
年齢・容姿:60歳前後。老いているとのみ。
生国:武蔵国江戸・神田今川小路(現・東京都千代田区神田神保町3丁目あたり)。
探索の発端:先記したとおり、〔権兵衛酒屋〕で呑んだあと、様子をうかがっている妖しい者たちに気づいた鬼平が、襲撃人たちと斬りむすんでいるうちに、亭主が遁走した。
斬られた女房のお浜は、監視の眼を盗んで自害。
それから、鬼平たちの探索がはじまった。
結末:お浜の墓前へあらわれた弥一郎は、養子へ入った伊織に家督をゆずるべく出奔したが、〔名越(なごし)〕の松右衛門という盗賊の世話になってい、その口封じに襲われたことが判明した。
襲った浪人盗賊・滝口金五郎一味は逮捕。死罪であったろう。
(参照: 〔名越〕の松右衛門の項)
つぶやき:紆余曲折は長篇の常だが、謎が解けてみると、大身旗本(7000石)の身勝手な行いがおこした波紋と知れる。
池波さんの謎のつくり方の見本ともいえる篇。
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