〔犬神(いぬがみ)〕の権三郎
『鬼平犯科帳』文庫巻10に所載[犬神の権三]の主役のひとり。もうひとりは〔雨引〕の文五郎。
(参照: 〔雨引〕の文五郎の項)
ひとりばたらきの凶悪で狡猾な盗人。
年齢・容姿:42,3歳。いわゆるいい男。中肉中背だが肥え気味。浅黒い。
生国:近江国犬上郡富尾村(現・滋賀県犬上郡多賀町富之尾)
探索の発端:見廻り中の筆頭与力・佐嶋忠介は、上野山下の五条天神門前の蕎麦屋〔名月庵〕の店頭で、出会い頭に長年探索していた〔犬神〕の権三郎と出会い、逮捕。
火盗改メの牢から、入牢中の〔犬神〕の権三郎を逃がした者がいた。密偵となって日の浅い〔雨引〕の文五郎だった。
上野・車坂下の筆師の二階で、〔犬神〕の権三郎は妾の女賊おしげと情欲のかぎりをつくしている。
権三郎は〔雨引}の文五郎を恐れている。盗み金をごまかしたことが露見、破牢は復讐のためと思いこんだ。
〔大滝〕の五郎蔵・おまさ夫妻と義父〔舟形〕の宗平は、本所・緑町で小さな煙草屋〔壺や〕をいとなんでいる。
煙草の仕入れに湯島横町の〔内田屋〕へ来たおまさは、北大門町の汁粉屋〔翁庵〕に立ち寄り、7年前に〔法楽寺〕の直右衛門の下でいっしょだったおしげに再会。尾行して居所を確かめた。
筆師の家は、火盗改メによって厳重な監視下に置かれた。
結末:千住・小塚原の桶職の家にひそむ〔雨引〕の文五郎を殺すために、浪人2人と筆師の家を出て千住へ向かった〔犬神〕の権三郎を、桶職の家の裏口で鬼平が捕縛。獄門。
つぶやき:〔雨引〕の文五郎が〔犬神〕の権三郎を破牢させたのは、かつて、大坂で身動きができなかったとき、江戸で病んでいた女房を看取ってくれた権三郎へ恩をかえすためであった。返したあと、盗み金の決着をつけるつもりでいたのだ。
鬼平がいう。
「犬神の権三郎という奴、恩をほどこしたことも、ほどこされたことも、すぐに忘れてしまう奴よ。俗にいうおっちょこちょいというやつだ」
新潟県佐渡郡小木町に犬神平という地名がある。
福島県西白河郡大字金山字犬神に、昭和56年(1971)に犬神ダムが竣工している。池波さんは「もしかしてこのダムのことを新聞かなにかで知って書き留めておいたのでは?」と推測しているのは、学習院〔鬼平〕クラスの調べ魔・新兵衛さん。[犬神の権三]の初出が昭和48年(1973)4月号」で、ダム落成はそのあととも。
池波さんが座右から離さなかった吉田東伍博士『大日本地名辞書』(冨山房 明治37年-)に、宮尾村に祀られている犬神神社について---。
犬と暮らしていた猟師がいた。ある日、山中で、犬が吼えやまないので立腹した猟師が、山刀で犬の首を切断、首は飛び上がって樹上で猟師を狙っていた大蛇に噛みついた。
猟師は、犬の霊を慰めるために小社を祀った、と。似た伝説は諸所に見られるとも。
滋賀県の犬上郡や犬上川も、元は「犬神」と記したろう。
横溝正史『犬神家の一族』の犬神家は信州ということになっている。
多賀町のURL http://www.tagatown.jp/
| 固定リンク
「124滋賀県 」カテゴリの記事
- 〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵(3)(2011.01.24)
- 〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵(2)(2011.01.23)
- 〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵(1)(2011.01.22)
- 〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵(その3)(2005.04.16)
- 〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵(その4)(2005.04.17)
コメント
[犬神の権三]は寛政6年(1794)の事件だから、おまさ36歳のとき。
30女としか書かれていない女賊おしげは幾つだろう? 33歳ぐらい?
42,3歳の権三郎に対するしつこい求めは、痩せぎすという体形もあろうが、30すぎの、男を知りつくした女性のものかも。
あれ、下ネタは出さないつもりが----。池波さんの記述につられて----。
投稿: ちゅうすけ | 2005.01.02 14:10
ここにも池波さんが好んでえがく女性が出てきますね。
いわゆる着やせで「衣類をつけたときよりも肉置きがあって」というタイプで貪欲に男を求める。
おそらくこれはオール読物の連載で男性ファンへのサービスだったのでは。
さて盗人ですがいやな権三郎がいい男に、義理堅く出処進退をわきまえている文五郎を矮躯でその上にからだの半分はあろうかいう馬面ときてるから皮肉ですね。
この[犬神の権三]はひねりの効いた筋で、舞台も下町で切絵図を見ながら読むのに適した一編です。
雨引の文五郎またの名を[隙間風]に合掌。
投稿: 靖酔 | 2005.01.04 17:03
当町役場のURL
http://www.tagatown.jp/
「通り名」の由来についてはわかりませんでした。
投稿: 多賀町役場 農林商工課 古川 | 2005.03.28 10:26