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2005.05.30

〔川谷(かわたに)〕の庄吉

『鬼平犯科帳』文庫巻3に収容されている[麻布ねずみ坂]の主人公は、3年前に上方から江戸へ下ってきて麻布・飯倉片町に住みついた、中村宗仙(62歳)という指圧師である。
富裕な患者は、卓越した治療に巨金を惜しまないが、宗仙の住いは質素そのもの。というのも、宗仙は大坂の香具師の元締・〔白子(しらこ)〕の菊右衛門(50男)へ金を送りつづけていたからである。
3年前、宗仙は京都・東寺の境内の茶屋〔丹後や〕の女将・お八重とできてしまったが、26,7歳だった彼女は、なんと、〔白子〕の菊右衛門の妾だった。
菊右衛門は、500両でお八重を買え、といった。期限は寛政4年(1792)いっぱい。宗仙が送りつづていた金は、その500両の内金だった。
〔川谷〕の庄吉は、〔白子〕の手下である。

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年齢・容姿:いずれも記載がないが、30がらみと推察する。
生国:丹波(たんば)国桑田郡(くわだこうり)川谷(かわだに)村(現・京都府北桑田郡美山(みやま)町)
『旧高旧領』は、「川谷」は信濃国水内郡、越後国頚城郡、安房国朝夷郡、上総国望陀郡などにもあると記しているが、〔白子〕の手下ということで、丹波国を採った。

探索の発端:同心・山田市太郎(30代半ば)が、市中見廻りのついでに宗仙の家を眺めていて、訪ねてきた浪人を尾行すると、深川・富吉町の正徳寺裏の一戸建の平屋へ入った。
密偵〔小房(こぶさ)〕の粂八が近所で聞き込みをしたところ、その浪人は石島といい、両国一帯の香具師の元締・〔羽沢〕の嘉兵衛方へ出入りしているという。
(参照: 浪人・石島精之進の項)
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
さらにその〔剣術つかい〕の浪人を見張っていると、高崎で道場をかまえていることがわかった。〔白子〕へ送金する宗仙の金230両をねこババし、菊右衛門へは、宗仙には払う意志がないとウソの報告をしていたのである。

結末:宗仙が約束の500両のうち270両だけしか受け取らなかった〔白子〕の菊右衛門は、お八重を殺害した上で、〔川谷〕の庄吉と暗殺浪人を、宗仙のところへさしむけたが、山田同心によって捕縛。
白州ですべての事情を察した鬼平は、石島浪人の高崎の道場を教えて庄吉を大坂へ帰し、〔白子〕に「無頼浪人を信用し、宗仙ほどの立派な人をに、調べもしないで刺客を送るとは---」と報告させた。

つぶやき:池波さんは『仕掛人・藤枝梅安』でも、香具師の元締を何人となく登場させている---というより、善悪両面を備えたこの種の仁を小説へ採り入れた創始者ともいえる。


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