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2005.03.25

女盗(にょとう)おたか(お豊)

『鬼平犯科帳』文庫巻3に所載の[艶婦の毒]で、長官のお供で京都にのぼってきた同心・木村忠吾(26歳)を食わえこんだ女盗(にょとう)p107 (新装版p112)。ちなみに、女賊(おんなぞく)という呼称が定着するのは、〔猿塚(さるづか)〕のお千代がヒロインをつとめる巻5[女賊]以降である。
当時27歳だった銕三郎(平蔵の家督前の名)が、八坂神社裏の茶店〔千歳(せんざい)〕の女主人お豊(いまの名おたか)と痴情のかぎりをつくし、京都西町奉行だった父にたしなめられたのは、23年前のことであった。

203

年齢・容姿:40をこえているはずだが、30そこそこにしか見えない。豊満な肉(しし)おき、健康な年増女の血のほてり。
生国:不明。5,6歳のとき、浪人だった父親に尾張・鳴海の宿外れで捨てられた。その幼女を引きとってそだててくれたのは、先代の〔虫栗(むしくり)〕の権十郎・おだい夫婦だった。

探索の発端:京・千本出水の七番町にある華光寺へ参詣、亡父の墓参りをすませた鬼平が、ほど近い北野天満宮で、四条の料亭〔瓢駒(ひょうこま)〕で落ち合ってやってきた、木村忠吾とおたか(かつてのお豊)を見かけた。

903
〔俵駒〕は『商人買物独案内』(天保4年 1833刊)からと採られた

後をつけると、2人は裏手・紙屋川ぞいの風雅な料亭〔紙庵〕の離れへ入った。
3時間ほどして出てきたお豊を尾行、釜座(かまざ)下立売(しもたちうり)上ルの〔諸色えのぐ・筆刷毛---万絵具所 柏屋〕へ入るのを確かめた。

904
店の住所は左隣から転用(『商人買物独案内』1833刊)

誓願寺境内の〔五分五厘屋〕で茶汲女をしていたお豊が、〔柏屋〕店主・四郎助に見初められ、後妻に納まっていたのである。

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〔五分五厘屋〕はここから採られた(『商人買物独案内』1833刊)

結末:お豊も、属していた2代目〔虫栗〕の権十郎(50がらみ)一味も、京都西町奉行所の浦部与力の指揮で逮捕された。死罪のはず。
(参照・〔虫栗〕の権十郎(2代目) の項)

つぶやき:長谷川本家の末裔である長谷川雅敏さんが、京・千本出水の華光寺へ問い合わせ、送られてきた過去帳のコピーを見せてもらった。それには、葬儀は執り行ったが、遺骨は江戸へ持ち帰られたので、墓はない、とあった。
それだと、墓参ではなく、単なる表敬訪問をしたことになる。

901
京都、千本出水の華光寺楼門前

ただ、息・辰蔵(家督後は平蔵宣義)が提出した「先祖書」に拠った『寛政重修諸家譜』には、「華光寺へ葬る」とある。これを史料と見るかぎり、墓があるとおもうのも致し方なかろう。

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コメント

『商人買物独案内』といったら、京都のショッピング・ガイドなんですね。
天保4年刊ということは、文政7年刊の江戸の『買物独案内』よりも9年ほど遅れての刊行---江戸版の成功を見ての発案なんでしょうか。

投稿: 練馬の加代子 | 2005.03.26 11:26

女にも性欲はある。
性欲は男の専売特許みたいに思われ、女がセックスのことを言うのは抑制され、はしたないことと敬遠されていました。 
お豊のように若い侍を対象にするのは充たされない心のはけ口でしょうか。
 女の性欲は男よりも一般に強いとされています。 女は社会的に世間体を重んじ恥かしさで表面化されないだけで、そのため苦しんでいる者は多い、性を頭の中で描く男と違って意識しないことが多いと思われる。 中年女性が有名な男に我を忘れて夢中になるのは男には理解できない。

投稿: edoaruki | 2005.03.26 11:50

>練馬の加代子さん

池波さんの書斎の一部が、台東区の池波記念館に復元されています。
そこに陳列されている蔵書類の中に、故・花咲一男さんが復刻頒布した『江戸買物独案内』や京都篇である『商人買物独案内』があります。

ですから、京都の問屋・商店は、後者から引用したことは間違いありません。

『江戸買物独案内』のほうは、花咲復刻本を購入するまでは、西山松之助編『江戸町人の研究 第三巻』(吉川弘文舘)に収録されていたものを見ていたとおもいます。

作家も、史料の多少で作品価値がきまるようですね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.26 12:53

さて、食欲とか酒欲とか色欲とかは個人差があって、どちらが強いといった一般論では割り切れないのではないでしょうか。

もちろん、いろんな欲---名誉欲とか征服欲、金銭欲の強いほうが人間臭いわけですが。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.26 19:34

数年前まで毎年のように京都に行っていたので、このあたりの話は自分も京の町を歩くように読めて大変楽しめました。
お豊と一緒にいる忠吾を見つけて、にやにやしながら忠吾をいたぶる平蔵の姿がいいですね。
この手の話は映像化してくれないのがとても残念です。

投稿: 豊島のお幾 | 2005.03.28 00:42

お豊は「鬼平犯科帳」の中で最も興味のある女盗です。
お豊は自暴自棄のうちに女盗としての刺激的な生活にどっぷり
ひたりこんでいきながら、心の底には「私はさむらいの子、本来ならさむらいの妻になれていたのだ」というおもいが、いつもあったのだと思う。捕縛された時、何も知らない亭主に「堪忍しておくれやっしゃ。お達者で」といって、ゆうゆうと縄をうたれていくなんて、
なんと悟りきった気風の良さでしょうか。

若き平蔵鉄三郎は、勘当同然の身で飲む打つ買うの放蕩三昧でした。火盗の長官になってからも、その頃の武勇伝はしばしばストリーの中にでてきます。
しかし情を交わした女性は全巻を通じて二人しかいないとおもいます。「むかしの女」のおろくとこのお豊だけです。
年老いておちぶれたおろくは、さておき。
23年前鉄三郎とめくるめくような愛欲の日々を過ごしたお豊を、
池波さんはどうして平蔵の女性として登場させたのでしょうか。非常に興味をおぼえます。
これ以後平蔵の女性はひとりも出てこないのです。

投稿: みやこのお豊 | 2005.04.27 00:49

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