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2009.07.29

〔千歳(せんざい)〕のお豊(10)

「この人も、忘れられないおなごの一人になりそうな---」
脱ぎながら、銕三郎(てつさぶろう 27歳)は、予感をおぼえた。

「浴衣を用意しますから、先に浴びていてくださいな」
浴室の柱に行灯をかけたお(とよ 24歳)は、出ていったままである。

湯舟が、つねの家のものよりも大きいのは、2人が入れるということだ。
(この湯舟におといっしょに入っているのは、だれだ? 丸腰のいま、襲われたらひとたまりもないな)
つかりなから、防具を、目で探した。
湯舟の垢おとしのための、先端にぼろぎれをしばりつけた棒しかない。
そこまでの距離を頭に入れた。

板の間ですっかり脱いだおがはいってきた。

全身を、行灯の灯にさらす。
手ぬぐいも手にしていない。

池波さんの文章を、ふたたび、引く。

裸身になったお豊は、骨格意外にとのい、肩や胸の肉(しし)おきはすんなりしていても、乳房もゆたかで、腰まわりから太股(ふとももにかけて白い肌が女ざかり凝脂(ぎょうし)にみちて、みごとなふくらみを見せていた。

もちろん、これは、寝室での姿である。
立ち姿だと、乳房がたっぷりとして見える。

そのことを、お自身もこころえており、裸身をわざと見せつけるかのように、湯舟のわきに立ったまま、前をかくしもしないで、
「おかげんはいかがですか? この家の前の持ち主の好みの造作なのです。でも、銕三郎さまといっしょにつかるのを、待っていたような湯舟---」

銕三郎
が、視線を外しながら、躰を引いて余裕(あき)をつくった。
「寒いだろう。早くあたたまりなさい」

縁(へり)をまたぐとき、片方の足は湯舟に差し入れたまま、また、とまって、黒い茂みを銕三郎の目の前にさらし、話しかけた。
「私、ぬるめのの長湯が好きって、言いました?」
かけ湯に濡れた茂みが先細りになり、その先端からしずくが、ぽとり、ぽとりとたれている。

「聞いてはいないが、湯加減はぬるめ。早く、つかりなさい」
銕三郎が、がまんしきれずに、せかした。
直立しきってしまったのである。

全躰が湯につかるや、銕三郎のものをつかみ、
「先手の衆はかかれ! の太鼓待ちですね。こちらもそう---」
薬指を秘部にみちびく。

「先手組と?」
「私、武家の子と信じているのです。武家のむすめならと、自分の中だけで話をしてきました。銕三郎さまがお武家さまだから、口にだしてみたのです。 お嫌?」

「武家の子女にしては---」
「秘めごとが、あからさますぎる---とおっしゃりたいのは、分かっています。でも、これを愉しむのは、武家も町方もありません。男もおんなも、できるだけ深く、長く、たっぷり、堪能したいとおもっているはず---ただ、口にしないし、いざとなると、恥ずかしがってしまって---」

浪人する前の父ごの藩はわからないのかと、訊きながら、親指が花芯にふれている。
左の指が乳首を軽くなぶる。
5,6歳のときに捨て子されたので、ほんとうは、いまの年齢も自分できめたのだと答え、銕三郎の首に手をかけて顔を引き寄せ、乳首を吸わせる。

銕三郎は、「風呂」でなく「湯」と2度ほど自然に口にしたから、西国生まれとおもう---といいかけて、口をふさがれた。
耳は、店や部屋のほうの物音に聞きのがすまいと研ぎ澄ましていた。


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コメント

先日の文くばり丈太様の書き込みを拝見し、思わず嘆声を発しました。
御所役人の金銭の不正は、史実なんですね。
これまで、お勝さんがらみのフィクションとばっかり思って読んでいました。
それが、史実と知り、それにしては、『鬼平犯科帳』に出てこないなと、考え込んでしまいました。
このあたりが、このブログが、並みの鬼平ファンのブログと大きく違うところでしょうね。

投稿: tomo | 2009.07.29 09:23

>tomo san
コメントにレスをつけていただき、ありがとうございます。
御所の役人たちの納品・請求書に入墨して金額をふくらませ、差額を懐に入れた事件は、なにで読んだか記憶にないのですが、
たしかに史実です。
おなじ盗みには違いないのですが、池波先生は、あまりに姑息とお考えになって、物語になさらなかったのかもし知れませんね。

chuukyuu 『犯科帳』がこの事件を、どう、解決するか、鬼平ファンとして興味津々です。

投稿: 文くばり丈太 | 2009.07.29 09:58

>tomo さん
文くばり丈太 さんへのレスにも書きましたが、御所事件は史実です。
平岩弓枝さんの『御宿かわせみ』の初期のころの好篇[卯の花匂う]で、京都から江戸へ逃げてきて、ひっそりと暮らしている中風の仇持ちが、不正役人として処分された一人です。
もっとも、山村信濃守と東吾の時代とでは何十年のへだたりがありますから、新装版では、山村信濃の名は消されています。
事件にかかわった御所役人は、半分が死罪、あとはほとんど遠島でしたから、江戸へ逃げてきたというのも、史実からすると、おかしいことはおかしいのですが、小説ですから、あまり、厳密には言いたくありません。

投稿: ちゅうすけ | 2009.07.29 10:42

>文くばり丈太 さん
お読みになったのは、三田村鳶魚さんの青蛙房からでた[幕府のスパイ政治]ではありませんか。
まちがっていたら、ゴメンナサイ。

投稿: ちゅうすけ | 2009.07.29 10:46

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