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2009.07.25

〔千歳(せんざい)〕のお豊(6)

その夜。

銕三郎(てつさぶろう 27歳)は、奇妙な夢をみた。

冬枯れの野原を歩いていると、どこからともなく、しわがれ声がする。
「旅の若いお武家さま、そこなお武家」

立ちどまると、枯れ木の枝に両足をかけてぶらさがっている老婆が、月明かりにぼんんやりとみえた。

「ご用かな?」
「お(りょう 33歳)の母・飛佐(ひさ 51歳)ですだ」
白髪が逆さiに垂れ、葉のない柳の小枝のように風に揺れている。
いかにも武田方の軒猿(忍びの者)の末裔らしい。
「おお、おどのの母ごは、甲州路の大月にお住まいではなかったか?」

参照】2008年10月5日[納戸町の老叔母・於紀乃] (

「それが、相方のむすめのことで、おられなくなっただよ」
「それはお気の毒。して、拙にご用は?」
「そのことよな。おにまことの男の味をおぼえさせたのは、お武家さまじゃろが---だで、おは軒猿(のきざる)として、遣いものにならなくなったぞい」

たしかに、銕三郎と抱きあってときのおは、おんなになりきってきた。
銕三郎の男を、すすんで迎えいれる。
そのことに躰の芯から歓びを感得し、喜悦してきている。
むさぼりさえする。

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(国貞 月光の舟上 イメージ)

参照】2008年11月17日~[宣雄の同僚・先手組頭] () (
2008年11月25日[屋根舟
2009年1月1日[明和6年(1769)の銕三郎] () () (
2009年1月24日[掛川城下で] (
2009年5月22日[〔真浦(もうら)〕の伝兵衛] () (

「おどのは、軒猿よりも軍者(ぐんしゃ)が似合っておる」
「うんにゃ。血筋は、軒猿だで---いひっ、ひひひ」

飛佐は、躰をひとゆすりすると、その反動で銕三郎に飛びかかってきた。
51歳の老婆とはおもえない身の軽さであった。

飛佐の指がのどに達する寸前に、銕三郎は膝をかがめ、横に飛んだ。
くるりと宙返りしてた立った老婆は、
「お前の男のものが、役立たないようにしてくれるわ」
言うなり、蹴ってきた。
身をひねって倒れながら太刀の柄(つか)で、のびきった足を払った。

悲鳴を発した飛佐の姿が消えた---
---と同時にお(とよ 24歳)が現れた。

「真葛ヶ原の鬼婆ァですぞ。よくぞ、刀を抜きかずしてお防ぎになりました。ご褒美に、わたしを抱かしてあげます。さあ」
ぱらりと着物をおとすと、すっ裸であった。
しばらく、銕三郎を瞶(みつめ)ていたが、ふくよかに微笑むと、着物を枯れ草にひろげ、それに横たわり、両膝をひらいた。
股の茂みが、夜風によそいだ。

とつぜん----、
「ふむ。大人への兆しの、股間の芝生も、なかなかに生えそろってきましたな。しかし、なんだな。一線をはさんで、左右になびくように生えているいる乙女のほうが、風情はまさるな。男の子のは、勝手気ままな生えぶりだからの」
芝・新銭座の表御番医の井上立泉の声が聞こえてきた。
14歳のとき、お芙佐(ふさ 25歳=当時)に初めて男にしてもらったその股間を、しらべられたときに言われたものである。

参照】2007年8月9日[銕三郎、脱皮] (

まともに銕三郎にむけられた、おに化けた真葛ヶ原の鬼婆ァのそれは、齢相応にしなびて黒ずんだ割れ目の周囲に、申しわけのように残っているのは半分以上が白毛で、それもからみあっていた。

銕三郎は、おもわず笑って、目がさめた。

雨戸が、東山おろしに、がたがたと音を立てていた。
(明日、〔千歳〕のおにこの夢のことを話してきかせたら、どうするだろう。いや、4日後に会うおにしたやったほうがいいか)


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コメント

夢という逃げてがありましたか。
でも、お竜さんとお豊さんを同時に描く二は、真葛が原の鬼婆なら可能ですね。
うまいテでした。

投稿: tomo | 2009.07.25 06:14

>tomo さん
いつも、コメント、ありがとうございます。
このブログは、小説でもなく、論文を目指してもいません。
五目飯---といったほうがあたっているかもしれません。
形式は、まったく気にしないで、長谷川平蔵宣雄、同・宣以(銕三郎)、同・宣教(辰蔵)を通して、あの時代を描いてみようとおもっています。
それと、池波さんが未完のままおのこしになった、〔荒神〕のお夏のたくらみのような、おまさの誘拐---その解放を目指しています。

後者の手はずのために、〔風速〕の権七、〔木賊〕の今助、〔愛宕下〕の元締、〔耳より〕の紋次などと、お竜やお勝を造形しました。

とりわけ、〔耳より〕の紋次は、史実の長谷川平蔵の情報操作の巧みさのアシスタントとして考えました。

これからも、いろんな局面を描くとおもいます。何しろ、その日その日のブログで、筋道はアッブアップしながらその日に考案しています。

どうぞ、ご支援ください。
とくに、千葉弁、京都弁、駿河弁など、ご教示いただければ幸いです。

投稿: ちゅうすけ | 2009.07.25 18:58

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