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2005.03.24

〔日影(ひかげ)〕の長右衛門

『鬼平犯科帳』文庫巻8の中の秀作[あきれた奴]と、巻20の[おしま金三郎]にチラッと名前だけが出てくる盗賊。

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年齢・容姿:いずれも記されていない。
生国:信濃(しなの)国水内国(みのうちごおり)日影村(現・長野県上水内郡鬼無里(きなさ)村)。
〔通り名(呼び名)とも〕の〔日影(ひかげ)〕からだと、岩代(いわしろ)国の2カ村、上州、武州、三河、甲斐、飛騨などにもに各1カ村ある。
あえて、信濃を採ったのは、現村名が鬼無里(きなさ)村と、いかにも池波さん好みだから。ここは明治22年(1889)4月1日に、鬼無里村と日影村が合併して現村名を名乗った。

探索の発端:寛政2年の雪の頃、同心・小柳安五郎と松波金三郎が、兇賊〔日影(ひかげ)〕の長右衛門の探索の手がかりをつかんだとある。
小柳同心は、7日ほども組屋敷へ帰らないで役宅へつめきりで逮捕にあたった。
その間に、初産が難産だった妻のみつは男の子を産みおとすと息絶え、まもなく赤子も逝った。その死に目に立ち会えなかったことが、長く小柳同心の心の傷となっていた。

結末:逮捕された〔日影〕一味は、全員死罪だったろう。

つぶやき:かつて10年間ほど、池波さんや落合恵子さんらと読売映画広告賞の審査をやっていて感じたのは、池波さんの判断のずば抜けた早さ、決めたらあとはほとんど口をきかないいさぎよさだったが、横から見ていて、池波さんの好みは黒っぽい紙面の広告が多いと気づいた。つまり、視覚的な好みを優先させていたようにおもった。
ひきかえ落合さんとぼくは、白っぽい紙面の広告におおむね高い点数をつける気味があった。

池波小説の題名に「暗剣」とか「闇」とかが多いといっているわけではない。そのテの話だと、池波小説の主人公---長谷川平蔵や秋山小兵衛、藤枝梅安は、白い花をとりわけ好んでいる。

小柳家の菩提寺というか、亡妻みつと赤子が眠っている、浅草・阿部川町の竜源寺は、池波少年が育った下谷・永住町の近くの竜福寺(台東区元浅草3丁目17-2)と隣の了源寺(同・3丁目17-5)の寺号を合成したもの。近すぎるのでテレて、そのままは借りられなかったのだ。

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コメント

小柳安五郎同心は、女性読者にとって、もっとも気になるキャラです。

いえ、全同心きっての美男ということもあることは否定しませんが、それよりも、亡くなった妻子のことをいつまでも心にとめているところに共感しています。

それほど愛し、期待していた、妻と子の死に目にあわせなかった〔日影〕の長右衛門は、女性読者としては憎んでも憎みきれない盗賊って感じですね。

投稿: 練馬の加代子 | 2005.03.24 08:34

>練馬の加代子さん

鬼平は、小柳安五郎同心のことを、あちこちで、思慮深い、ときわめて高く評価しています。

さらに[あきれた奴]では、
「小柳も今年、30を一つこえたな。男をみがくのはこれからだ」p51(新装版p53)
といっています。
この「男をみがく」というのが、ぼくたち男性には重要事なのですね。
「女をみがく」といったら、お肌の手入れですか?

木村忠吾の小柳評は、
「小柳さんは、寒い日にぬるま湯からあがって燗冷ざましの酒でもよろこんでのむような……人」p49(新装版p52)

この、忠吾の表現は何を意味しているのか、いまだにわかりません。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.24 08:50

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