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2009.08.29

化粧(けわい)指南師のお勝(6)

浦部どの。松造に、ここから〔川端道喜(かわばた どうき)〕の店への道順を手ほどきしてやってください」

参照】2009年7月30日[〔千歳(せんざい)〕のお豊] (11
2009年7月31日[川端道喜]
2009年8月8日[〔左阿弥(さあや)の円造〕] (

うどん屋を出ると、浦部源六郎(げんろくろう 50歳)与力が、指さして示した堀川通りの次の大通り---烏丸(からすま)通りを北へまっすぐに御所まで行き、
「そのあたりで新在家門(しんざいけもん 通称・蛤門)を尋ね、行きついたら、〔道喜〕という店をお聞きなされ」

御所の外堀南角---茶店の前で、銕三郎(てつさぶろう 27歳)は、下僕の松造(まつぞう 21歳)に、
「{道喜〕の10代目ご当主に、ここでお返事をお待ちしてているが、すぐにお伺いがかなうか、問うてきてくれ」

「よろし」との返答であったので、〔川端道喜〕の店へむかった。
ものの2丁(200m)であった。

「〔千歳(せんざい)〕のお(とよ 24歳)どのから、お会いいただけるとの言伝(ことづ)てを承り、再度の参上におよびました」
「その節は失礼しましたよってに---」
「禁裏のことは、禁句と存じておりますが、いささか、そのまわりのことを---」
「ほう---?」
「お公家衆の面(おも)だちは長めと聞いております。女官衆や奥方、姫ぎみ衆はいかがでしょう?」
「けったいなことをお訊きにならはりますねんな。ほら、公卿面(くぎょうづら)ゆうて、はんなりと長いお顔が多おます」
「おなご衆もでございますか?」
「種が長かったら、でけた実のほうかて、種に似ますわな」
10代目(60がらみ)が、もともと細い眸(め)をより細めて上品に笑ったので、つられて銕三郎も笑う。

それで、一気にうちとけた。

10代目が、知りたがっている理由(わけ)を問うたので、〔化粧(けわい)読みうり〕と、〔延吉屋〕の化粧指南師・おのところへ、公家町からおなご衆のくる気配がないので、的はずれの絵解きをしているようにおもう---という言葉に、10代目は、じっと銕三郎を見据え、
「なして、公家町からの客がいりますのンや?」
「おの、おんな男の立役(たちやく)に不幸がありまして---」
「まるで、こしらえたようなお話どすな」
「いえ。つくり話ではありませぬ」
「そうどっしゃろ。長谷川はんがこしらえ話をもちこまはるとはおもうてまへん」
銕三郎は、恐れ入って、顔があげられなかった。

長い顔を美しく見せる化粧の[読みうり]ができたら、50枚ほど、〔千歳〕に預けておくことで了解がついた。
「ほな、これから、いっしょに、〔千歳〕のおはんの顔を見に行きまひょか」

10代目は、店の者に駕篭を呼ぶようにいいつけた。
長谷川はんも、駕篭に---?」
「いえ、歩きのほうが性(しょう)にあっております」
「ほな、そないしなはれ。そや、おはんいうおなご衆(しゅ)もお誘いしはったらどないです?」
(おとおの鉢合わせは、まずい)

銕三郎の思惑を見透かしたように、10代目は、いたずらっぽく笑った。
「冗談どす。そない、困ったようなお顔をせんと---」

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