お勝、潜入(3)
「あたしのお勤めは?」
布団をかけ、すっかり満たされた顔で、横になったまま、お勝(かつ 31歳)が話しかける。
寝衣は、羽織っていない。
声が上ずっているのは、高まりが、おさまりきっていないのか。
あるいは、側臥のせいか。
「銕三郎(てつさぶろう 27歳)さまのお仕事だから、まさか、間どりとか、金蔵の錠前の蝋型どりはないとおもっていますが---」
「盗みも頼むかもしれないぞ」
「ご冗談を---」
銕三郎 の唇に指をあてた。
獣のもののような生臭い匂いがかすかに鼻にまとわる。
(さすが、30年増だけに、濃いな)
「それとなく、禁裏との商いの成り行き、納品をうけとる御所役人の名とか、納品した品数、付けとどけとか、接待の度合などを探ってほしい」
「奥女中をしていてですか?」
「そこをお勝どのの才覚で---」
「その、お勝どのは、こうなったからには、おやめください。お勝---と呼んで---」
(お竜(りょう)も、お静(しず)も、阿記(あき)も、そう言っていたな---)
「わかった。お勝だけがたよりだ」
【参照】2008年11月25日[屋根船]
2008年6月3日 [お静というおんな] (2)
2008年1月3日[与詩を迎えに] (14)
足をいれてきた。
「む?」
「あたし、日本橋通り3丁目御箔町の〔福田屋〕で、化粧(けわい)指南をしてましたでしょう? 座敷小間使いでなく、禁裏ご用達の白粉舗に、化粧指南役で入れば、御所女中や、御所役人の奥方やむすめ衆にじかに会えます」
【参照】2009年6月5日~[火盗改メ・中野監物清方] (3) (4) (5)
「名案かもな」
「あたしも、お竜お姉(ねえ)さんの薫陶で、軍者(ぐんしゃ 軍師)になったのかな」
「そうらしい」
「では、軍者料をおはらいください」
「そういうおねだりの仕方も、お竜どのゆずりだ」
「あ、やっぱり---」
2人は笑いあい、また、躰をからませた。
若いということは、節制がきかないことでもある。
翌日の午後、〔瀬戸川(せとがわ)〕の源七(げんしち 56歳)が、さっそくに、堺町四条上ルの〔延吉屋〕半兵衛方を見つけてきた。
(御所御用達・白粉店〔延吉屋半兵衛〕)
5日後には、お勝は化粧指南師として、雇われていた。
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